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野良勇者と獣人魔法使い娘の魔王討伐  作者: オツタロ


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第9話 荷馬車とステータス

カルナは杖を高く上げて早口で呪文を唱えた。

何を言っているのかわからない。カルナの世界の言葉なのだろう。

呪文を言い終わるとカザンの体が淡く光った。

ゴブリンと戦った時と同じだ。

「あなたに強化魔法を付与したわ。

剣の方にも付与しておいた。これでそこの木を伐りなさい。

荷馬車の材料にするのよ。

強化魔法のおかげであなたは強くなっている。しかしその強さにあなたが付いてこれないと意味がないの。

この木を切り倒すことで動きに慣れて。

あなたはもっと強くなれる。」

彼女に言われて目の前の木を見る。

4本並んでいる。

1本1本が巨木と言ってよくカルナと二人で手をつないで両手を広げても幹を一周することはできないだろう。


斧と比べて剣の幅は小さい。

普通の剣ならば表面から少し食い込んだ程度で止まるだろう。

何度か繰り返していたら刃がボロボロになって使い物にならなくなる。

この剣で斬り倒すのは普通出来ない。


力が体の奥底から溢れてくる。

自分以外の動作が緩慢に見え高速で動いているような気分だ。

両手で剣の柄を握り水平方向に振った。

木の幹の半分が小気味いい音を出して斬れた。

鉈で小枝を斬ったときのような軽い感触が伝わってきた。


一呼吸おいてもう一振りしようと構えた。

「あれ?」

今度は力が湧いてこない。

さっきまでの充足感を感じない。


「魔法の効果が切れたのよ。」

カルナが説明する。

「まだレベルが低いから長時間効果が持続しないの。

考えて動くよりは咄嗟の判断ですぐに動かないと戦闘では使えないかもしれないわ。」


考える前に動く。

ゴブリンと戦った時のことを思い出す。

カルナに加勢するように言われてすぐに駆け出していた。

あの時のような動きが必要なのだ。


「もう一回魔法をかけてくれない?」

カルナははーいと言って再び杖を高く掲げた。


魔法がかかり終わる前に剣を構えておく。

魔法の効果が出た瞬間、剣を振った。


木は地面に倒れるときに大きな音を立てた。

本当に一人で巨木を切り倒したのだと実感する。

薪を作るために木は何本も切ってきた。

いままで切ったどの木よりも今日倒した木の方が大きかった。


その後も魔法をかけてもらい荷馬車に使えるサイズになるまで切っていく。

材料がそろう頃には強化魔法の持続時間も感覚でわかるようになってきた。


「木材はできたけどどうやって組み上げるの?

荷馬車はほとんど木でできているけど帆とか馬をつなぐ馬具は木じゃないよ。」

彼女はふふふーと笑っている。そんなことは百も承知だと表情が物語っている。

「ここからは私の仕事ね。」

彼女は杖を右へ左へ振ると木材が宙に浮き組みあがっていく。

組み合わせただけでは接着しないのでどうするのかと思っていたら。

今度は詠唱を始めた、すると空中に紋様が浮かび上がりその表面から釘やら帆やらが出てきた。

呆気に取られているとあっと言う間に荷馬車が組みあがった。

馬の方は空中に浮いた馬具が次々と装着されていくが大人しくしている。

彼女が杖を振るのをやめたころには荷馬車が出来上がっていた。


「僕が木を切るよりも魔法でやったほうが早かったんじゃない?」

「なに言ってんのよ。言ったでしょ、あなたのは魔法に慣れる訓練だって。

強化魔法をかけてもらってもその能力を十分に発揮できないのって結構あるのよ。」

彼女は隣の巨木を指さしてこの木も切る?と言った。

「十分魔法の効果もわかったし動けるようになっているからこれ以上はいいよ。

こんな立派な木を切ってしまってよかったのだろうか。

村の人から怒られないかな。」

地面を見ると荷馬車に使われなかった材料が散乱している。

「魔王を倒そうって言うんだからこれは必要な犠牲よ。

気にすることないわ。」

彼女は素っ気なく言って荷馬車の荷台部分に入っていった。

「早く出発するわよ。」

どうやら僕が運転役のようだ。


カザンは荷馬車の前方にある御者台に座っている。

彼は一人で馬の手綱を握り操っている。


「聞きたいことがあるんだけど、いい?」

御者台の後ろ、荷物を置く荷台に座って景色を眺めているカルナに声をかけた。

「なに?」

「魔王ってどんなやつなの?」

彼女はしばし黙りそれから口を開いた。

「犯罪者ね。私の世界で多くの人が犠牲になった。

あいつは瘴気を使って魔物を生み出せるの。

その魔物は瘴気が濃ければ濃いほど強く、また魔物自身も瘴気を発生させて新しい魔物を創り出せる。」

カザンはボスゴブリンとの戦闘を思い出した。

あの時もボスゴブリンが生み出す瘴気からゴブリンが生まれていた。

「あいつ1人で十万でも百万でも生み出せるってわけ。

この世界があいつのせいでここまで浸食されてしまったことには同情するわ。」

そうなのか。カザンが物心つくころには魔物がいたと聞いている。

カザンからすると小さいころから世界は危険なのだと教えられていた。

魔物がいない世界を彼は知らない。


「カルナがこの世界にやってきたということは、他にもカルナの仲間が来たりするの?」

「それは私にもわからないわ。異世界転移も公的には私が初めてだったし。

なんなら正式に稼動する前の段階で私が使ったからね。

使うにも膨大なエネルギーが必要みたいだし。

来るとしても時間はかかると思う。」

「勝手に来たってこと?」

「そうなるわね。」

カルナは罪悪感を感じていない口調で話していた。


「カルナってすごい人なんだね。そんな装置を使って独りでこっちに来てるなんて。」

「ふっふーん、そうよ私はすごいのよ。

前の世界では治安維持機動部隊所属だったんだから。

しかも重犯罪者専門チームだったのよ。」

「それってどれくらいすごいの?」

「まぁ殉職率もトップクラスだから普通は誰も行きたがらないところね。

私みたいに腕に自信がある人しか行けないところよ。」

「そんな危険なところにカルナみたいな女の子が働くのって大変だね。」

「魔法を使う前提だから男女の差はないかな。男性が多いけど女性もそれなりにいるのよ。」

「それでもカルナみたいな女の子に危険な仕事をさせるなんて怖い世界だね。」

「学校卒業したての学生に魔王討伐をやらせているこの世界の方が怖いわ。

それに私は潜り抜けてきた修羅場の数が違うわ。」

「修羅場の数?カルナって何歳なの?」

「女性に年齢聞いてんじゃないわよ。雰囲気で分かりなさい。

この容姿端麗な大人の雰囲気をね。」

「うーん。弟と同じくらいの年頃かなって思っていたから年下だと思っているんだけど。」

カルナはその言葉に驚いているようで開いた口がふさがらないでいた。

「・・・あんたよりも年上よ。それだけは教えておいてあげる。」

「僕よりも年齢が上?僕の年齢って言ってないよね。」

「言ってなくてもわかるわよ。魔法使いだもの。自分や相手のステータスって言って年齢とか出身とか特技とかを可視化する便利魔法があるのよ。

だからあなたの名前から年齢趣味適性までなんでもわかるわよ。

この世界は魔法がないからこの魔法を防ぐことはできないから見放題よ。」

「そんなの聞いてないよ!僕にも見せてよ。」

「いやよ。私だけが見えていたら十分よ。

それにこういうのは知らないほうがいいのよ。」

「どうして?」

カザンは納得していない表情で聞いた。

「よくあることだけど今のステータスを見てショックを受けて無気力になってしまう人が多いの。

努力すれば将来能力が発現してスキルが習得できるかもしれない。

それでもそういうことを信じることができずに諦めてしまうのがこっちでは社会問題になっていたわ。

ステータスは今の状態を表しているだけ将来のことや潜在的な能力まで表示してくれるわけじゃない。

その違いがわからない人が多いのよ。

だからあなたが今のステータスを見て勝手にショックを受けられたら困るってわけ。」

「見ないほうがいいステータスってことなのかな。

そういうことならカルナも見ないほうがいいのでは?」

「私はいいのよ。特別だから。」

なんと返していいかわからず視線を前に戻して荷馬車の運転に集中した。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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