第10話 勇者の敗北
どうしてこうなってしまったんだ。
後悔しても事態は好転しない、何とかして突破口を見つけないといけない。
魔王を倒すために僕らは支配された街ノキマに急いだ。
もしかしたら逃げ遅れた人がまだいるかもしれない。
一刻も早く魔王の手から人々を救い出したかった。
学園都市を出てまっすぐ目的地を目指した。
勇者学校での授業でこの世界が魔王によって浸食されていることを知った。
父たちの話していることを何度か聞いたことがあった、質問もしたが父ははっきりとは答えてはくれなかった。
そんなもやもやした日々にその答えを得た。
魔王を倒そう。
父がこの学校に入学させた目的が勇者になることではないことは知っていた。
それでもこの気持ちを抑えることができなかった。
座学に実戦形式の講義、どれも全力で挑んだ。
バカにしてくる同級生や先輩も少なくなかったが自分で決めた道をただひたすらに突き進んだ。
そのおかげで成績は首席となりかけがえのない友もできた。
魔王を倒したいと言った時みんな戸惑っていた。
誰もかれも勇者になるためにこの学校に入ったのではないと言っていた。
それでもめげずに何度も話していくうちに魔王を倒そうと言う気概がみんなに広がった。
そして卒業の日、街の大勢の人々からも祝福を受けて見送られた。
街をでてしばらく走っていた時のことボスゴブリンの4体の集団に出くわした。
「どうする?エルンスト」
「放ってはおけない。討伐しよう。」
初めての魔物討伐。実力を試すいい機会だ。
先頭のエルンストがボスゴブリンの集団に突撃した。エルンストの得物は剣。その剣で魔物の腹を次々を斬っていく。
ボスゴブリンは動きが遅いため馬で疾駆する彼らに後れを取っていた。
その次にアインザックの槍、ザッハの拳と次々と攻撃を決めていく。
後ろを走っていたクロエの得物は弓。その弓で騎乗しながらボスゴブリンを射ていく。
みな勇者学校では成績優秀だった。ボスゴブリンは手も足もでないと言った感じだ。
ボスゴブリンの集団を突き抜けクロエと合流する。
「私があいつらの目を打ち抜くわ。その怯んだすきにとどめを刺してくれる?」
「任せてくれ」
クロエの提案に3人が頷く。
彼女は馬を下りて弓を構えた。
残り3人は敵の集団に馬で疾駆した。
集団に突撃しようかというときにクロエの弓がボスゴブリンの目を撃った。
撃たれた相手はうめき声をあげて目を抑える動作をし動きが止まった。
その瞬間エルンストは騎乗から跳躍しボスゴブリンの腕ごと首を刎ねた。
同じようにしてアインザックは槍で頭を一突きにしザッハはこぶしで頭を吹っ飛ばす。
残り一体となったがその個体だけ踵を返して逃げてしまった。
追いかけるために馬に乗ったところでアインザックが声をかけた。
「あんな雑魚放っておいていいだろう。」
口数の少ないザッハは頷いてアインザックの意見に賛同する。
「しかし街道中に誰かが被害に遭わないとも限らない。」
「大丈夫だって、村には軍から派遣されたガーディアンがいる。
ガーディアンと村人が協力したらあんな雑魚いちころだよ。」
「しかし・・・」
「エルンスト、私たちの目的は魔王討伐よ。そのためにはノキマに急がなくてはいけないわ。
さっきので私たちの実力が魔物に通用することがわかったから先を急ぎましょう。」
クロエも先を急ぐ意見だった。
エルンストはわかった、と言い馬にまたがってノキマに向かった。
ノキマに続く山道の手前に村があり夕方になっていたこともありその日は村の宿屋で休んだ。
王より認められた勇者と言うこともあり村人総出で歓待してくれた。
その際に山賊の情報も教えてもらった。
情報が古かったのか彼らの装備や強さを見誤ってしまった。
ノキマの手前にある山、そこを根城にしている山賊たちは強かった。
ノキマを救う前に彼らを討伐しなければ進むことができない。
対人戦は学校の模擬試合でも何度もやっていたが実戦とは違っていた。
実戦にはルールなどない勝てばよいのだ。数の力で押しつぶされてしまった。
武術大会の優勝したことなどここでは何の役にも立たなかった。
なんとか致命傷を負わずに済んだが鎧の隙間を狙って攻撃され肩や足を刺された。
他のみんなも鎧で身を固めていたが多勢を相手にじわりじわりと追い詰められていった。
勝てないと判断し逃げることにしたがザッハが殿を務めて彼とはぐれてしまった。
山道にはすでに山賊の一味がいたので見つからぬように下山を試みたが村に戻ることはできず偶然発見したこの洞窟に身を隠すことになった。
みんなの表情が暗い。
リーダーとして励まさないといけないのに何も言葉が出てこない。
こんなに負けたのは人生で初めてだ。
いやこのままではここで命を落としてしまうだろう。
どうにかして山を下りないといけない。
身代わりになったザッハを救いにいかなければならない。
各々傷薬で応急処置をした。
効果が出てくるまでここで休むとして次をどうするべきか。
「夜になったらここを出ようと思う。
夜ならば見つからず山を下りることができると思う。」
弱気になっている。いつもならはっきりと断定した言い方ができるはずなのに。
仲間のアインザックが口を開く。
「下りられるのか。
あいつらは言っていたぜ、俺たちの仲間になれって。
そうすれば命までは取らないと。
逃げたら命はないって言っていた。
ザッハを見捨てるのか。」
今日初めてこの山に来た。
土地勘もない、馬も失った。
無事に下りられるわけがない。
ここは彼らの領域なのだ。
この洞窟もいずれは見つかるだろう。
そうなったらおしまいだ。
入り口に火を放たれたら逃げ道はない。
高熱と酸欠で死に至るだろう。
投降するのが正解なのか。
授業ではどうだった。
負けを認めた相手にそれ以上攻撃してはいけない。騎士道に反すると習った。
父もそう言っていた。
ならば彼らもその騎士道を守ってくれるだろうか・・・
彼らの顔つきはお世辞にも上品とは言えない。
学校にも不良という生徒はいたがそれとも違う。
彼らは人生で初めて遭うタイプだ。
そんな彼らに言葉が通じるとも思えない。
アインザックの言葉に何も返せなかった。
「俺が囮になる。」
アインザックが私とクロエを見て言った。
「このままだといずれここもばれる。そうなったら全員終わりだ。
あいつらが約束を守るとも思えねぇ。
俺が囮になってあいつらを引き寄せる、その間にお前らは逃げろ。」
「そんなことできない!」
「うるせぇ。もう勇者ごっこは十分だろ。
後は家に帰って家督を継いで平穏無事に暮らそうじゃないか。
また来年も新しい勇者様が誕生する。
そいつらが俺たちより強ければいい。」
「囮になったら君はどうなる、ここはリーダーである俺が。」
「バカにすんじゃねぇよ。ただで捕まるつもりもねぇ。
それには俺の家はおまえんとこよりも地位が高いんだ。
貴族様だぜ。
山賊どもに損得勘定できる奴がいるなら俺を殺さずに身代金と引き換えにするだろうよ。
俺には利用価値がある。
この中で一番価値があるのは俺だ。」
この話し方、学校で初めて会った時のことを思い出す。
長い事こんな話し方をする彼は見ていなかった。
「エルンストの熱いあつい熱にやられてもしかしたら魔王を倒せるかもって思った罰だな。
まさか魔物の前に人間の山賊に負けるとは思わなかった。
お前たちは逃げてこれからは二人仲良く平穏無事に暮らせ。」
「それなら私が囮になるわ。」
そういったのはチームでただ一人の女性クロエだ。
彼女は傷こそ浅いが初めての人を殺すかもしれないというプレッシャーに押しつぶされていた。
「私、何の役にも立てなかったし。最後くらいは」
「バカ言うな。こういうときに女がどういう目に遭うかわかってんだろ?
そんなんで俺たちが無事に助かっても全然嬉しくねぇよ。」
クロエは再び黙ってしまった。
膝を折り顔をうずめる。
「結論は出たな。今すぐ出よう。
夜になったらこの山だとどこに道があるのかわからなくなる。
鎧は頭と胴だけにして他は外せば動きやすいはずだ。
弓で撃たれても止まるなよ。
止まったら的になる。」
彼はそういうと立ち上がり準備を始めた。
クロエも僕も準備に取り掛かる。
準備が終わったころにはもうすぐ日が落ちるというタイミングだった。
すでに足元は薄暗い。
明りをつけると見つかってしまう上に動きにくくなる。
軽装備になったエルンストとクロエ、囮となるアインザックは互いに握手を交わした。
2人が斜面を駆けおりたのを確認して彼は1人山道に戻り山頂を目指す。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ブックマークしていただける執筆の励みになります。
他にも投稿していますので読んでいただけましたら幸いです。




