第11話 山賊討伐 開始
馬が優秀な為荷馬車になってもそれほど速度は落ちることなく進むことができた。
夕方に登山口手前の村に着いた。
ゴブリンに襲われた村と同程度の規模である。
カルナが村の外観を見て言葉を漏らした。
「ずいぶん立派な村ね。」
それを聞いてカザンも村をよく見てみる。
いくつかの建物がレンガ造りになっている。
「村長とか家かな。」
「それにしては数が多いような気がする・・・」
「特産品があってそれが高値で売れるとか・・・?」
「そういう話は聞いたことがあるのか?」
そう言われるとそんな話も聞いたことがない。
カザンも商人の家の生まれである、何が高いか低いかくらいは知っている。
それに家の困窮具合をどうにかしようとそういうものを調べてみたことがある。
しかしそんなうまい話はなく高値で売れるものはそもそも入手が厳しいかすでに独占的に買い占められていて参入できる余地がなかったりする。
そういうことを考慮してみると今向かっている村は立派な建物が多い。
タカラヒの街は学園都市と比較的近いためその恩恵にあずかれているが山をノキマとは山を挟んである立地にここまでの立派になれるものがあるのだろうか。
遠くから見てもお金をかけているのがわかる、家の壁は鮮やかに塗られている。
壁に意匠を凝らす、金持ちの道楽である。
防水効果のある塗料を塗ることはあってもそういう類の家ではなさそうだ。
学園都市の一等地にある建物が突然ワープしてきたみたいなちぐはぐさがあった。
そんなことを考えていると村の入り口に着いた。
入り口のところに村人が立っている。
「これはまた若い人が来られた。」
村の人が出迎えてくれた。
「勇者一行はこの村に立ち寄りましたか?」
「勇者様は今朝ノキマに出かけられました。
止めたのですが決意は固く止められませんでした。」
「止めたとは何か事情があるのですか。」
「えぇこの山には数年前から山賊が出るようになりまして最近は規模も大きくなっています。」
「山賊程度ですかそれは恐ろしいですね・・・」
カルナがフードの下で思案顔になる。
すると
「勇者一行は朝に発ってからこちらには帰ってきていないのか?」
荷台から顔を出すように彼女が話す。
「えぇそうです。無事だといいのですが。」
「それじゃあどうしようか。今から山に入ると夜になるから今日はここに泊まろうか。
明日朝一で山を登ってエルンストを迎えに行こう。」
カルナが結論が出たという顔をして言った。
「今から山に行きましょう。
魔王軍と戦うのだから山賊程度で足止めを食らうわけにはいかないわ。」
カザンも村人も驚いている。
「いったん山賊を蹴散らしてからここに戻ってきましょう。
荷馬車は預かってもらうように。」
はきはきと話していく。
彼女の中では何かが組みあがっているようだ。
「さぁ行きましょう。」
そう言ってカルナは荷馬車から降りるとすたすたと登山口に歩いて行った。
カザンは止まる気配がないカルナに慌てて荷馬車を預けるために宿屋で手続きをした。
食料はどうしようかと思って右往左往していたら脳内にカルナの声が響いた。
「何しているの?早くいくわよ。」
え?と思いあたりを見るがカルナは遠くの方にいる。
声だけがまるで隣から話しかけているような奇妙な感覚。
「これは念話と言ってあなたにしか聞こえてないわ。
そのまましゃべったら頭がおかしい人に見えるから心の中だけで会話しなさい。」
そんなことを言われてもどうやって話したらいいのか。
ネンワ?彼女特有の魔法の言葉にカザンは戸惑うばかりだ。
(食料はどうしたらいい?)
これでいいのだろうか。
「今リュックの中にある携帯食料だけで十分だわ。
勇者一行はおそらくやられて動けない状態の可能性が高い。
ダメそうなら引き返す。
勝てそうならそのまま山賊を倒す。
どちらにしてもすぐに終わる予定よ。
今日の寝床は宿屋のベッドね。部屋は別々に取っておいて。」
早く来いという割には部屋の予約までしろと言う。
彼女の上から目線は留まるところを知らないようだ。
カザンは宿屋で部屋を予約してすぐにカルナの下に向かった。
そのころにはカルナは既に山道を歩いていた。
カルナに追いつく。
肩で息をしつつ平然としている彼女の横顔を見る。
フードは既に取っていて狼の耳が見えていた。
「村の違和感気が付いた?」
「村人の何人かだけど、高価な服を着ているね。」
カルナは一見するとぼろのローブを着ているがこれは特殊な繊維で編まれた魔法性を帯びた服らしい。
彼女のいた世界ではおしゃれの一つとしてあえてぼろに見える服を着るらしい。
カザンの服はエルンストの父が用意してくれたどこに行っても恥ずかしくない服である。
一介の村人が普段着として着るようなものではない。
村の入り口にいた村人や会話をした人など誰もが都市に住んでいる住人にも見劣りしない服を着ていた。
「私の予想が当たってないといいけど。」
カルナが杖で前方を示す。遠くに小さな砦が見える。
「ここからが山賊のテリトリーってわけね。
門の上に2人弓を持った山賊がいるわ。まだ向こうは気が付いてない。
あなた、人は殺せる?」
「そんなことしたことないけど。」
「そうね、でもこれからはそれが必要になるわ。
こういう国が荒廃してくると敵は魔物だけではなくなるの。
必要ならば人も討伐しないといけない。
躊躇していると自分が死ぬわよ。
あなた勇者になりたいんでしょ?」
勇者になりたかった。
12歳の時エルンストが勇者学校に進学すると聞いて羨ましかった。
自分も付いて行きたい。
でもできなかった。
うちは貧乏商家だ。薪を売って生計を立てる。それでも足らなければ自分で畑を耕してそれも売る。
食事だって毎日あるわけじゃない。
エルンストの父親は悪い商人ではない。
不当な値切りもしてこない。それでも同情して商品を高く買ってくれることもない。
適正価格で買ってくれる。
他の商家に比べたら恵まれているほうなのだ。
高く売れる商品を仕入れられないうちが悪いのだ。
学校に通うこともなく昨日まで同じような日々を送っていた。
数年したら父の後を継いで父と同じ人生を送る。
それが当たり前なのだ。
苦しくてもなんとか食っていける。
それが俺の人生なんだ。
18歳の立派になり一級品の鎧に身を包み大勢の人から祝福を受ける彼を祝ってやりたいと言う気持ちと悔しいと言う気持ちの両方がせめぎ合っていた。
もう追い付けないところまで行ってしまった。
同い年なのにここまで差が着くのだとそれは仕方がないことなのだと自分に言い聞かせた。
村に帰ってエルンストの父親から依頼を受けたときやっとチャンスが巡ってきたと思った。
逃してはいけない。これが自分の人生を変える最後のチャンスなのだ。
勇者になれる。剣を帯び、馬に乗って草原を駆けぬけることができる。
夢を終わらせたくない。
「殺れるよ。」
カルナの瞳を見て答えた。
「そう。」
彼女は素っ気なく答えた。
「強化魔法をかけるわ。それであの門の上にいる2人を殺りなさい。
身体能力も強化してあるからジャンプだけで門の上まで行けるわ。
弓矢を持っているだけだから近接戦はあなたの方が有利よ。
どうやって殺るかはあなたが決めていい。」
彼女は杖を掲げて早口で詠唱を始めた。
数秒後には強化魔法が自分を強くしてくれる。
もう後戻りはできない。
ここで戻ったらタカラヒの街で一生暮らすことになる。
身体の奥底から力が漲ってきた。
右足を一歩踏み出す。
風を切る音が鼓膜を刺激する。
2人の山賊は暢気に会話をしている。
数秒後には絶命しているというのに最後の会話がそれでいいのかと。
思う間に門の真下に来た。
まだ気づいていない。
両足に力を籠めて一気に解放した。
身体が宙に浮いた。これが空を飛ぶ感覚なのか。
まだ暢気に会話している。これから死ぬというのに。
むしろその警戒心のない表情を見るとイライラしてきた。
門の上に着地する。
剣を上段に構えて背中を向けている1人を肩から斬った。
そのまま押しつぶすように下にどけてもう1人を見る。
口を開けて何かを言おうとしている。
剣を左水平方向に構えて相手が腰に帯びた短剣に触れる前に一閃した。
男は弾き飛ばされて呻いている。
殺らなければ。
カルナに見捨てられる。彼女の出した試験に合格しなければならない。
彼女は一人でもやっていけるだろう。
それこそエルンスト一行に加わった方が早く魔王を倒せるはず。
魔法が使える彼女ならすぐに戦力になるだろう。
自分は捨てられる。元の街に帰っていつもの日常を繰り返す日々に戻る。
それは嫌だ、このチャンスを逃したくない。
勇者なのだ、魔王を倒すのだからこの程度で心を痛めては勇者にはなれない。
突きの姿勢で剣を構える。
相手と目があった、怯えている。
さんざん山賊として非道なことをしておいて自分がされる番になって怯えるのか。
頭か、胸かせめて一撃で絶命させてあげるのが優しさだろう。
胸にめがけて剣を突き刺した。
「そこまでよ。」
カルナが横にいた。
彼女と目が合う。
「ワープって言って瞬時に任意の場所に移動できるの。」
魔法の説明をしている。相変わらずマイペースな人だ。
「ごめん。殺れなかった。」
胸めがけて刺した剣は胸をはずして首の横すれすれに門を刺していた。
山賊は2人とも気絶している。
「強化魔法を付与した時のあなたの目血走っていたわ。
殺人者の目になっていた。
でもあなたはこいつらを殺さなかった。
十分に余裕で殺せるだけの力があってそうしなかったのは立派だわ。
私に同行するのが殺人者なんて願い下げよ。」
そう言ってやれやれと腕を振っている。
「・・・いずれは人を殺さないといけない時がくるでしょう。それは今じゃない。
血走った目で戦ってんじゃないわ。」
「でも俺殺しちゃった・・・。」
「だから殺してないって。よく見なさい。」
カザンは二人を改めて見た。
斬るときは興奮していて気が付かなかったが確かに血が出ていない。
斬ったはずなのにどうしてだ。
「強化魔法をかけるときに剣を鈍らに変えておいたの。
今のあなたが人を本当に斬ってしまったら殺人の感触が忘れられず一生普通の生活は送れなくなっていたでしょうね。
だから斬れないようにしておいた。
さすがに突き刺したら体に穴が開くけどね。」
2人目を横に薙ぎ払った時、確かに彼は痛がっているだけだった。
だから突き殺そうとしたんだ。
それすらも興奮していて気が付いていなかった。
「気分が落ち着いたら次に行くわよ。勇者一行を助けにね。」
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