第12話 山賊の正体
興奮した気分を落ち着かせようと深呼吸をした。
カルナは近くに生えていた蔦を魔法でより合わせてロープを作っている。
「気分落ち着いた?
まだなら魔法で楽にする方法があるけどどう?」
そう言って杖の先端が怪しく光る。
遠慮しておきますと返事をした。
山賊2人を縛るようにカルナからロープを渡される。
縛り終えるころには気分は元に戻っていた。
「この先は頂上まで何もないわ。
伏兵みたいなのもいないみたいね。」
「どうしてわかるの?」
「山賊の頭をスキャンしたからよ。
あなたと会った時にもしたの覚えてない?」
あの杖を頭に当てている動作のことか。
最初カルナと会った時彼女の話している言葉がわからなかった。
杖を頭に当てられた後会話が成立したことを思い出した。
「あれって頭の中を見ていたの?」
「見ているというか、言語や記憶などの抽出をしていたのよ。
レベルが低いから深くは見れないけど。
今日のここを通ったときの記憶なら見えたわ。
彼らが隠れていることにも気づかずこの門も怪しむこともなく馬に乗った4人がここを通って頂上まで歩いていく映像が見えた。」
「そんなことまでわかるんだ。」
「やっぱりと言うか彼らはそこの登山口の村の村人よ。
普段は二人とも畑仕事をしているわ。」
村人が山賊の仲間なんて。
「数年前にこの辺りに現れて活動しているって話だったからもしかしたらって思ったけどね。
すでにあの村は山賊の支配地域の一部ってわけね。」
「そんなことがあるなんて。」
「この程度のことで驚かないで。
勇者一行は村に一泊したということだから勇者の情報は事前に山賊たちに筒抜けだったと言うことになる。」
彼女も同じ気持ちなのか二人で同時に門を飛び降りて先を急いだ。
「カルナは最初からエルンストたちが負けているって想定で話を進めているよね。
やっぱり人を斬れないと思っているってこと?」
「そうじゃないわ。むしろ学校でそういうのは教わっているんじゃないかしら。
学校で優等生だった人が勇者になるのよね。
ただ学校の授業と実戦は違うわ。
どれだけリアルに試合をしてもそれはやっぱり試合なのよ。
こういうなんでもありの現実では役に立たないと思う。
むしろ学校卒業したての世間知らずを勇者だとか言って祭り上げているのがおかしい。
何か理由がありそうね。」
彼女は頭がいい、口は悪いが一人で異世界にきただけの実力があるのだと感じる。
彼女が本来の力を取り戻したらどれくらい強いのだろうか。
その時自分は彼女の傍にいれるのだろうか。
2人で山道を走っていると横の藪が突然揺れた。
動物が飛び出したのかと思いカルナを守るように剣を抜いた。
「助けに来てくれたのか。」
それはエルンストだった。
ほとんど日は落ちかけているタイミングでかろうじて顔がわかる程度であるが間違いなく彼だ。
「エルンストなの?」
「私の名前を知っているとは?
・・・それにこの声はもしかしてカザンなのか?」
2人はお互いを認識して喜んだ。
年甲斐もなく抱き合っている。
「その人があなたが探していた人?」
後ろにいたカルナが質問した。
「そうだよ。彼がエルンストだ。間違いない。」
エルンストの後ろの藪からもう1人顔を出した。
「彼女はクロエという。パーティの一員だ。」
紹介された彼女は藪から出てきて挨拶をした。
表情は疲れ切っていて声がでないようだ。
カルナはいつの間にかフードを被っていた。
そして2人に治癒魔法を施した。
彼らは感謝を言うと同時に顔は青ざめていた。
「彼女は魔物なのか?」
それがエルンストの質問だった。
顔は見えていないが声で女の子だと判断したのだろう。
ため息をつくカルナ。
「彼女は・・・人間だよ。」
獣人と答えそうになったがややこしくなるだろうと思いやめておいた。
「この世界には魔法はないのね。」
どこか凹んだような声で呟いている。
「魔法を使うのは魔物だけだ。
ゆえに人類はここまで追い詰められてしまった。
彼らの使う超常の力にあらがう術がないんだ。」
カザンは自分が知らないだけと思っていたがエルンストですら知らないとなるとこの世界に魔法はないようだ。
カルナは仲間がいなくて寂しいのだろうか。
世界でただ一人の魔法使い。魔物と間違われてしまう危険性。
他人を寄せ付けない態度や言動はその表れなのだろうか。
「これから山賊のリーダーを倒しに行くの、どんなやつか教えてくれる?
それとあなたたちは足手まといだからここでじっとしてなさい。
ここなら村人もわざわざ来ないでしょう。
頂上まで距離があるからここだと安心だろうし。」
「村人が来ないとはどういうことだ?」
怪訝な表情の彼にカルナに代わって答えた。
それを聞いた二人はとても驚いていた。
村に着いた時歓待してくれて昨晩は宴会だったという。
実は情報を山賊に伝えるために足止めをされていたとは思わなかったようだ。
エルンストが自虐的に笑っていた。
傷が癒えた彼はこれまでのことを話し始めた。
「山賊の正体は元勇者だ。」
山賊が元勇者?
にわかには信じられないカザンだった。
その横でやっぱりなと頷いているカルナ。
「彼らは魔王討伐で出発したがどこかで挫折したのだろう。
山賊を生業としている。
実際に山賊のリーダーのゴモラと剣を交えた。
剣さばき、技のキレ、力の受け流し方。どれも勇者学校で習う武術の型だ。
本人も元勇者であることを言っていたし仲間になれと誘われた。
もちろん断ったが、その後戦って負けてしまい仲間を犠牲にして逃げてきた。」
「犠牲って・・・」
カザンはぽつりとつぶやいた。エルンストも俯いている。
「頂上は開けた場所になっていてそこで戦ったんだがこちらは4人、相手は30人ほど。
ゴモラを筆頭に何人か腕利きがいる。」
エルンストは当時のことを思い出したのだろう辛そうな表情だ。
「あいつらが卑怯なのよ、寄ってたかって攻撃してくるしこっちは正々堂々戦おうとしているのに。」
「卑怯ではない。」
クロエの発言を打ち消すようにカルナが口をはさんだ。
「戦争に卑怯も何もない。勝てばいいのだ。勝った後に都合の良いように吹聴すればいい。
歴史は勝者によって作られる。
ここは学校ではない、命のやり取りをする場だ。」
その言葉にエルンストもクロエも黙ってしまう。
その後残りの勇者パーティの2名についての話を聞いた。
ザッハという大柄で体格の良い男が殿を務めて山賊の相手をした。
ナックルと言う拳に籠手のような武装をして戦うのだという。
山道を逃げる際に追手が来なかったことから彼がすべて引き付けてくれていたのだろう。
そのまま村に行こうとしたが行く手にも山賊が現れた為見つかる前に道を反れて進んだという。
そして洞窟を見つけてそこで身を潜めていた。
夕方になり一か八か山を下りようとなり今度は槍の名手であるアインザックが囮となって彼らに向かって行った。
彼ら2人も勇者学校では優秀な成績でそれぞれの得物では学生筆頭として名を轟かせていたがここではその真価が発揮できなかった。
「卒業したての元学生がいきなり実戦で戦えるとは思わん。」
カルナが率直に発言した。
「それでも道中にいたボスゴブリンの群れは倒すことができたんだ。」
「馬から乗った状態で憎悪の対象である魔物相手ならそれは勝てるだろう。
正義感から力も増すだろうな。
人だとそうはいかん。
今まで人を斬ったことないやつがいきなり斬れと言われても躊躇するだろう。
それに相手は複数、学校ではそういうことは学んだとしてもそれは似た環境で育った常識のある者同士の戦い。
本物とは程遠い。」
彼らは黙ってその場で俯いていた。
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