第13話 勇者の成れ果て
「もう諦めろ。今なら仲間にしてやる。剣を置け。」
どうにか剣を握り締めているがすでに力は入っていない。
持ち上げたならするりと地面に落ちてしまうだろう。
「お前だって本当に魔王に勝てると思ってないんだろ?
学校のやつらに理想を植え付けられてその気になっちまったんだよな。
わかるぜ、俺もそうだった。
魔物に勝てる。努力したら勝てるって言われてな。
学校を出たばかりの小僧を勇者だと祭り上げて自分たちは安全なところから好き放題言いやがる。
お前も被害者だ。俺たちと同じなんだよ。
もうすぐこの世界は終わる。魔王によって支配されるんだ。
それまでの残りの時間を好き放題に生きようぜって言ってるんだ。
悪い話じゃないだろ?」
思わず誘いに乗りそうになる自分がいる。
最初エルンストから魔王討伐の誘いを受けたときは断った。
勇者学校とあるがほとんど勇者など目指しているものはいない。
家のため箔をつけるために通っている奴ばかりだ。
それがあいつと話すうちにその気になっちまった。
だからこそ一度決めた道を踏み外すつもりはない。
「俺の名はアインザック・ドン・バーミリオ。
貴族バーミリオ家の嫡男である。
そのバーミリオの血族が賊に落ちるなどどそれより不名誉なことなどない。
貴族たるもの戦いの中で死ぬことも名誉の一つである!」
剣をどうにか構える。
歩けそうにもない。
いや戦うことが目的ではないエルンストとクロエを逃がすのが目的だ。
ならばもう達成していると言っていいだろう。
悔いはない。
「はっ、身なりがいいと思ったがまさか貴族様とはな。
死ねば身分なんてみんな一緒なのにそんなこともわからんとは。
お前らやっちまっていいぞ。
でもすぐには殺すな。
殺してほしいと10回は懇願させろ。」
リーダーのゴモラは踵を返して背中を見せ歩いていく。
油断している。今斬りかかれば勝てる。
だが足が、腕がうごかない。
もう体力はとうに尽きていた。
ゴモラが去っていくのと入れ替わる形で周りに控えていた男たちが近づいてきた。
手には棍棒を持っている。
どうやらすぐには死ねないようだ。
せめて一人ぐらいには抵抗したいが最初に戦った時のことを思い出す。
正面の相手ばかりに目がいき背後からの攻撃にまったく気が付かなかった。
振り返った瞬間に正面の相手に斬りつけられた。
逃げるときにも石や弓が飛んできた。
鎧を着ていて血はでないが衝撃が頭を揺さぶった。
どれも学校の模擬試合では経験したことがない戦い方だ。
いっそのこと今握っている剣で喉を刺すのが早いかと思う。
あと数歩で山賊たちの攻撃範囲に入る。迷っている暇はない。
その時後方から山賊たちのうめき声と叫び声が聞こえてきた。
異常を察したのか近づいてきていたやつらも後方に視線を移す。
そして次々となぎ倒されていった。
何が起きている。
視界の端をとても速い何かが通り過ぎていく。
通った瞬間に山賊たちは次々と倒れていく。
気が付くと周りにいた山賊はすべて倒されていた。
1人の青年が横に立っていた。
彼が1人で倒したと言うのか。
疾風迅雷のごとく、目でも追えない速さで。
「あなたがアインザックさんですか。」
「俺がアインザック・ドン・バーミリオだ。」
「さくっと治しますか。」
反対側から声がした。
振り向くとフードを目深にかぶった人がいる。
声からして女性だろうか。
頭はフード、体はローブに包まれている。
体型も何もわからない。
右手にもつ賢者が持つような長い杖を携えている。
ローブの人は杖の先端を光らせて俺の体にコツンと触れた。
体が光り出し心地よい気分になっていく。
思わず剣を地面に落とす。
このまま眠ってしまいそうになる。
宿屋の一番よい部屋のベッドでもこれほどではないだろう。
足の力が抜けて倒れそうになったところを脇にいた青年が抱えてくれた。
「こいつ邪魔だからどうしようか。」
少女の声で失礼なことを言う。俺は貴族だぞ、と思うがまどろみの中の心地よさに抗えない。
「んー。ここに置いておいていいんじゃない。
戦いの邪魔にならなければいいんだし。」
「それもそうね。少し眠っていてもらいましょう。」
彼女が再び杖で彼の体に触れるとアインザックは深い眠りに落ちて行った。
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