第7話 剣士と魔法使いの共闘
「ステータスオープン」
カルナが一言呟くと彼女の前に四角い半透明な枠が開き彼女の個人情報が表示された。
とても便利な魔法である。
これで自分の状態を適切に把握することができる。
これを使えば任意の相手の状態も把握することができる。
個人情報が赤裸々になってしまうので元の世界ではこの魔法を打ち消す魔法も存在している。
そこに表示された自分の情報に彼女は愕然として言葉を失った。
(レベルがリセットされてる・・・)
すべての魔法のランクが初級レベルになっている。
彼女がこれまでの人生をかけて習得しあらゆるものを我慢して魔法一筋に費やしたものが魔法使い初心者と同じ状態になっている。呆然自失になり立っていることすらしんどくなる。
(魔法がしょぼくなっていたのはこれが原因か・・・)
目の前では一人の青年が大量のゴブリン相手に孤軍奮闘している。
戦闘の集団からあぶれたゴブリンがカルナの方に迫ってきていた。
「危ない!」
カザンが叫んだ。
しかしカルナの精神状態はそれどころではない。
あたしの人生なんなのよ。今までの努力は水の泡ってわけ?
この世界に来たから?それともこれも魔王の力?わけわかんないわ。
彼女が長い溜息を吐き出す。
「あーイライラする、人がどんくらい苦労したと思ってんのよ。
私の苦労返しなさいよ。ふざっけんじゃないわよ!」
彼女に棍棒を振り下ろそうとしたゴブリンたちを一振りで絶命させた。
杖を持っていた右手とは逆の左手。
ずっとローブの下に隠れていて見えていなかった腕には彼女の華奢な姿には不釣り合いな獣の腕が付いていた。
強靭で鋭利な爪でゴブリンを切り裂いた。
あまりのことにカザンの動きも止まる。
黒と白の毛におおわれた左腕はこの場で一番強い武器であることを証明した。
「しょうがないわ。よく聞きなさい。
今からあなたの身体能力を強化します。
慣れないでしょうけど慣れなさいね。
でないとあなたの命はここでお終いよ。」
カザンが倒されるということはカルナも無事ではすまないがそこには触れない。
そう言って彼女はつぶやくような声で何事かを唱え始めた。
何を言っているのかカザンの距離からはわからないが彼の体がいくつもの光に包まれた。
そして彼は自分の内部から湧き上がるような力を感じ始めた。
「これが強化の魔法」
ゴブリンの動きがゆっくりに見える。
それなのに自分はいつもより早く動くことができる。
倍以上のスピードで剣振ると空気を斬っているような感触になった。
何も感じなかった。斬ったときの手ごたえがない。腕力も強化されているのだ。
そのことを理解して広場の中央に立っているボスゴブリンに向かっていった。
通常の歩く速さで中央に近づいていく、ゴブリンが行く手を遮ろうとするが剣で斬り、突き、薙ぎ払う。
ボスゴブリンが丸太ほどのある棍棒を振り下ろした。
その緩慢に見える動作を無駄のない動きで交わし棍棒が地面を叩いた瞬間にその腕を一刀両断する。
相手がその痛みに気が付く前に腹を十字に裂き体勢が後ろにのけ反った瞬間に膝に足をかけて首めがけて剣を奮った。
頭と胴は分離し倒れこむ前にボスゴブリンは霧散していた。
ボスゴブリンが消えたことで瘴気が極端に薄くなり端にいたゴブリンは形を保てなくなり自壊していく。
残っていたゴブリンもカザンが一掃した。
カルナの下に戻るころには強化魔法の効果は切れていた。
「意外にやるわね、私の中の評価が上がったわよ。
あとね・・・調子いいこと言っていたけど魔法のレベルがリセットされてるみたい。
今は初級魔法しか使えないから魔王討伐どころではなくなったわね。」
彼女が言い終わる前に彼は彼女の横に腰を下ろす。
彼女を見上げながら彼が話す。
「強いね。魔法も使えて凄いのにその腕も強いんだね。」
「バカにしないで私は魔法使いなの。この左腕は普段は使ってないわ。緊急事態だったから仕方なくよ。」
「そんなに強いのに使ってないなんてもったいないよ。」
「私は魔法使いよ。なんで近接戦闘しないといけないのよ。」
彼女も腰を下ろして二人並んで座る。カザンに治癒魔法を施す。
「カルナがいたイセカイってどんなところなの?
ここからどれくらいで行ける場所なの?」
「異世界は歩いて行ける所じゃないわ。
魔法の集大成とも言える最高峰の術。
こことは違うどこにあるのかもわからない世界よ。
文明レベルが違うから同じ星ではないと思う。
そうなるとロケットでもないといけないかもね。」
「ロケット?星ってあの空にあるやつ?」
「そうかもしれないし違うかもしれない。
私たちでもできたばかりのシステムだから正直よくわからない。
あなたたちが魔王と呼ぶ存在が先に異世界に渡って、私たちはそれより数年遅れてやっとシステムを完成させたの。
あいつらが持っていた技術を流用してね。
試験運転すっ飛ばして私が来たってわけ。」
「そうなんだ。カルナの世界にはカルナみたいな人がいるの?」
彼の視線が彼女の左腕を見ている。
彼女はそれをローブの下に隠した。
「そうね。あなたたちのような人種、獣人と呼ばれる亜人種、亜人種は種類も獣具合もバラバラだわ。」
「楽しそうなところだね。」
「そんないいもんじゃないわ。この世界に亜人とか獣人はいないの?」
「僕は見たことないかな。どこかにいるのかもしれない。
今日初めて旅に出たんだ。今までは村と近所の山と森、たまにエルンストのいる学園都市に行くだけだった。
初めて剣を振ったし魔物も倒した。
カルナにも会えた。
最高の一日だよ。」
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