第43話 決着
大鷲に咥えられて時は絶叫していた2人もどうやら食べるためではないらしいと分かると余裕が生まれていた。
並走して飛んでからは普通に会話を交わしている。
「負けちゃったね。」
「まだ負けてない。」
「どう見ても負けでしょ。腕折れてんじゃないの?」
「片手だけだし、左手は動く、殴れば勝てていた。」
「それは負けでしょ。負けたのよ。負けを認めなさい。」
根負けしたのかヨークは長い溜息を洩らした。
「私ね、昨日の夜カルナさんたちに村から連れ出してくださいってお願いしたの。」
「そうだったのか。カルナさんが長老の部屋で話している時に念話を送っていただろう。」
「バレてた!?」
「そりゃああんだけ必死な顔でカルナさんの方見ていたからな。気づくよ。
村は出ていくのか?」
「んー、どうしようかなって思ってる。
村の外に出れば世界が変わると思っていたのよ。
この村は嫌いじゃないけど私はこの村とこの森の一部しか知らない。
あなたみたいにノキマの村や他の村に行ったこともない。
鳥みたいに自由にどこにでも行けたらなって思ったの。」
「それで世界は変わりそうか?」
「無理かな。
カルナさんってめっちゃ強いのよ。
多分だけどカザン君よりも強いと思うわ。
そんな人と一緒に旅なんて怖くてついていけない。」
彼女は笑って話している。
「彼よりも強いのか。俺なんて足元にも及ばないな。」
「外の世界は怖いんだって、長老がよく言っていたのを思い出したわ。
長老が言っていた意味があっているのかはわからないけどカルナさんみたいなのが敵として目の前にいたとき私はなすすべなくやられちゃうんだって思ったら村の中でいいかなって思ったの。」
「なんだよそりゃあ、それじゃあこのまま巫女として長老の跡を継ぐのか。」
「それも嫌なんだけどそれが私の限界かなって思う。カルナさんに怒られたのよ。黙っているだけで思い通りの世界になると思うなって。」
「そうか、それならさ俺と一緒に村を出ないか。」
え!と驚嘆の声を上げて体をよじらす彼女。
「やっと村に居つく決意ができたってのに?」
「俺は彼と戦って思ったんだ。
何のために戦っているのかって。
俺たちはこの村にいる限り結ばれることはない。
でもそれってこの村にいるからだよなって。
それなら外に出てしまおうって。
彼は遠くの街からここまで来て、これからさらに遠くに行こうとしている。
ここは単なる寄り道でしかない。
俺にとっては大事な村だけど彼にとってはどうでもいい村の一つ。
俺が大事な村だって思っているのも俺がここで生まれて生活しているからだ。
世界を知らないからだ。
この村にいて巫女として独りで生活するヨハンナを見るだけの人生。
それが俺の人生なんだと思ったら急にばからしくなってな。
ヨハンナが荷馬車に乗ろうとしたときに止めなければよかった。
気づかないふりをして後で捜索するふりをして追いかけてそのまま別の場所に移り住んでもいいんじゃないかって、それなら俺たちは一緒になれるだろうって。」
「何よそれ。お互い反対の答えに辿り着いてんじゃないの。」
2人は笑い合っていた。
「長老にお願いして結婚できないか相談しようか。
だめでも何度でもお願いしよう。」
「そうね。それでも怒られるならこっそりと村を出ちゃいましょうよ。」
「その作戦で行くか。」
大鷲はゆっくりと旋回して円の形を崩してある方向に進路を変えた。
このまま遠くに連れて行ってくれたなと2人は願ったがすぐに目的地に着いてしまった。
巨木の祭壇前である。
ヨハンナは丁寧に下ろされ、ヨークは嘴を開けたときにそのまま地面に落ちた。
右腕が折れている彼はのたうち回っている。
彼女の助けを借りてどうにか立ち上がることができた。
「近くに下ろされてしまったな。今から逃げてもすぐに追いつかれるな。」
「毎日お祈りしているけど彼らの考えていることって全然わからないわ。
念話も通じないしね。」
2人で祭壇前で立っていると村人が大勢やってきた。
全員いるのではという勢いである。
村人たちが2人の前に集まる。
その人垣を分けるように輿にのった長老が姿を現した。
「大鷲様からの神託じゃ。
2人の結婚を認める。」
2人とも驚きのあまり声がでない。
「大鷲が2羽並走してそらを飛んだ。しかもおぬしらを抱えてじゃ。
これは大鷲様が番になれと言っている。
巫女が代々独り身で生涯を終えることに大鷲様は大変心を痛めておった。
そして今回巫女ヨハンナの心を読み取り戒律を変更なされた。」
ヨハンナが目に涙を湛えている。
彼女が一歩ずつ長老に歩み寄る。長老もまた彼女に歩み寄る。
お互いに抱き合い二人は涙を流した。
村人たちは「祝言じゃー」「宴会の準備をしろー」と口々に言っている。
その頃村の広場ではカルナが最後の村人が祭壇に行くのを確認していた。
「やっと行ったわ。最後は魔法で誘導したがいいだろう。」
カザンがカルナの下に近寄る。
そんな彼にすぐさま治癒魔法を施す。
「あ、ありがとう。」
言いたいことはたくさんあるはずだがまず感謝の言葉を言うのが彼らしい。
「何があったの?なんで大鷲は彼らを掴んでそれにあがったの?」
「テイムの魔法を施していただろう。私が操っていたんだ。」
「それはそうだろうけどさ。神託って何?」
「まぁそんな話はあとで話そう。まずは荷馬車に乗れ、そして出発だ。
あいつらが戻ってきたら村から出れなくなる。
早く行くぞ。」
それはそうだと思い腑に落ちないながらもカルナの言うとおりに動くカザン。
御者台に座り馬の手綱を握る。
荷馬車が進み始めた。
「長老が神託だーって言ったのってカルナがそういうようにお願いしていたの?」
「まぁお願いというかなんというか。まぁあいつもこのしきたりを変えたいと思っていたというわけだ。
それが今回絶好の機会がやってきた。
それに乗っかったというわけだ。」
「それじゃあ2人は結婚できるってこと?」
「そりゃあそうだな。そうなるな。それどころか子供もOKだろう。
鳥が番になれて子孫を残せるのにそれに仕える巫女が子供を産めんのはおかしいからな。」
「そんなにすぐに伝統って変わるもんかな。」
「変わるさ、伝統と言うのは人が作るもんだ。ならば彼らが新しいことを始めてもそれもまた伝統として受け継がれる。」
「そういうもんなのかな。2人が幸せになるなら問題ないね。」
「あー久々にいいことしたって気分だ。」
機嫌よく荷台に腰かけて前方を眺めるカルナ。
矢で穴をあけられた部分を魔法でちょいちょいと補修している。
「そういえばさ。昨日カルナの夢を見たんだよ。」
「ん?カザンの夢に私が出演していたのか。どんな夢だ。」
「それがね、巨木の前で誰かと話している夢。でもカルナ、悪い顔になっていたからよくないことを話していたんじゃないかって思う。」
「・・・」
「どうしたの?」
「何でもない。疲れたからしばらく寝るわ。
道はこのまま、まっすぐ行けば大丈夫だから。」
彼女は魔法で布団を出して寝る姿勢に入った。
仕方ないなーとつぶやき彼は荷馬車を言われた通りに進ませた。
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