第41話 決闘
振り下ろされる鉈を寸でのところで受ける。
衝撃で腕が痺れる。
続けて横から斬るように鉈が振られる。
それも剣で受け止める。
一発の衝撃が大きい。
大鷲との戦いを思い出す。
防ぐので精一杯。あの時はカルナの魔法で難を切り抜けることができた。
しかし今回カルナは微動だにしていない。
1人で勝てということだ。
カザンのすぐ後ろにはヨハンナが居る。
ヨハンナは怯えて荷台の背中をくっつけている。
その荷台に端にカルナが立っている。
カザンが数歩後ろに下がればヨハンナもカルナも危険になる。
下がるわけにはいかない。
大ぶりだが強い一撃。
後ろに下がって態勢を確保したい。
しかしそれは甘えでしかない。
防戦一方からの反撃の一撃を加えないといけない。
また鉈が振り下ろされる。
それを剣で受けると次の一撃を放つために鉈がカザンから離れる。
その一瞬、いつもならば次の一撃がどこから来るのかを待つために構えていたこの瞬間にカザンはヨークよりも早く剣を振った。
ヨークが鉈でその一撃を受け止める。
次も素早く斬りつける。
当然のようにヨークが受ける。
さらに早く、もっと早く。
彼の放つ剣の一筋がだんだんと早くなっていく。
その気に圧されてヨークが後ろに下がった。
彼の後ろには十分なスペースがある。下がって態勢を整えようとする。
彼が2歩下がればカザンが2歩詰める。また2歩下がれば、詰めるように彼が動く。
その間もカザンからの攻撃は止まらない。
誰もがヨークが最初の一撃で仕留めたと思った。
それなのに今その彼が圧されてじりじりと後ろに下がっている。
そんな光景は村の誰も見たことがなかった。
体格で勝るヨークが圧されている。
信じられないものを見せられている。
カザンの剣さばきは斬りばかりだった。その動きにヨークが慣れてきたころカザンが突きを出した。
斬りと突き。
ヨークがさらに後ろに下がる。
彼が下がるのに合わせて村の人の人垣も左右に分かれて彼らに道を作る。
そしてカザンが渾身の突きを繰り出しそれを鉈の刃で受け止めたヨークがその鉈を振り上げたとき鉈はぽきりと折れてしまった。
ヨークのスピードを超える攻撃を無数に繰り出していたカザンの息は上がっていた。
肩や背中の筋肉を総動員して上半身のすべてで息をしている。
対してヨークの方は防戦一方だったこともあり息が上がっていない。
彼は周りに目配せをする。
その視線での指示をくみ取った何人かが動いた。
左右に分かれていた道はカザンとヨークを取り囲む輪になろうとする。
円の形になりカザンの後ろ、カルナの前に3人の男が彼女らに近づこうとしている。
カザンもそっちに行きたいが体力がない、そして目の前のヨークから目が離せない。
首を動かしたら最後一気に距離を詰めて襲い掛かってくるだろう。
それこそ拳での格闘になるかもしれない。
輪の外にいた男がヨークに一本の鉈を渡した。
鉈というには大きすぎる得物。
彼の体格でも見劣りしない巨大な鉈である。
それを両手で握り構える。
何に使う道具だろうか。本来鉈は森の中で枝を斬り落としたりするのに使う片手で持てる道具である。
両手で持つ鉈など見たことない。
まるで丸太のようなものを切り落とすときに使うようだ。
例えば牛の首を切り落とすとかに使いそうに見える。
大鉈を構える姿が悔しいがとても似合っていると感じる。
一方カルナの方に近づく3人の男。
「少々手荒な真似をしますよ。仕方ないですよね、巫女様を誘拐しようとしたんだから相応の罰を受けてもらいます。」
「下種が。」
カルナは彼らを睨みつける。
その威勢に驚いたのか3人の動きが止まる。
続けて彼女にめがけて矢が放たれた。
左右から5本。
それを見えない風の壁で作り軌道を変える。
矢は荷馬車の荷台や積み荷、幌にそれぞれ刺さる。
「集中して見えんだろうが。邪魔だ。」
左右にいた弓を構えた男たちを1人ずつ睨んでいく。
睨まれた方は白目をむいて泡を出しながら倒れる。
ついでと言った感じで正面にいた3人も睨みつける。
彼らも同様に倒れてしまう。
それを見て驚愕の色が隠せないヨハンナ。
足は震えて自分の足だけで立つこともできなくなっている。
荷台の端を両手でつかんでどうにか立っている。
こんなに怒った村人は見たことがない。
彼らはいつも自分に対してとてもやさしく親切に接してくれる。
親がいない彼女だが長老や村人からの愛情を一心に浴びて成長した。
その村人が見せる憤怒の顔、カルナを取り押さえようと近づいた時の下種な顔。
悪魔が乗り移ったかのような変わりように驚く。
そして極めつけは彼女だ。
荷台の上に立ち微動だにしない。
魔法を使っているのはあきらかだが自分が使える念話など話にならないほど強力な魔法。
昨日突然部屋に現れて瞬間移動で宿屋に連れてこられた。
その時に感じた少し暖かい感情が今はない。
まるで虫同士の戦いを熱心に見つめている少年のようなどこか残虐さを秘めたものを感じる。
「どうして・・・こんなことを・・・昨日は諦めろって・・・言ってましたよね。」
「事情が変わった。」
「ジジョウ・・・?」
何の話だ。巫女として長老の後を継げと言った後に何があったというのか。
部屋に戻されてひとしきり泣いて、疲れて眠ってしまった後に何があったのか。
「何があったのでしょうか。」
「黙れ。女だからって黙っているだけで自分の都合の良い世界が来るとでも思っているのか。
お前が1人で貯めこんで何も行動しなかった結果だろうが。
望んだよな?
村から出たいって、それがこの結果だ。
これがお前が望んだ結果だ。」
ヨークが見たことない道具で戦っている。
物語に出てくる牛の化け物のようだ。
そんな彼の一撃を躱し、受け、反撃している彼は何者なのか。
魔王を倒すというのはこういう戦いなのか。
想像を超えている。眼を反らしたいのにそれをしたら荷台にいる彼女から怒られそうで怖くて目を反らせない。
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