第40話 出発
夢を見ている。
夢だと気づいているのに目が覚める気配がない。
身体から自分が抜け出し宿屋の天井をすり抜けて空に浮かぶ。
まるで空を飛んでいる気分だ。
カルナがノキマで空を飛んでいたことがあった、こういう気分だったのかな。
地面に足がつかない感覚。
これが浮遊感というものか、鳥は忙しく羽ばたいているがこれは鷲が翼を広げて悠々と空を飛んでいる気分に近いに違いない。
村の全景が見える。
村の中央広場、宴会の跡が残っている。
何人かはその場で寝ている。
すぐ近くに集会所の大きな建物が見える。
その隣に長老とヨハンナさんが住む家がある。
円を描くように住居が広がっているようだ。
その円にいびつな形でくっつくように家々の集団がある。
それがなければ調和のとれたいい村なのにと思う。
そのいびつにくっついているのはノキマからの避難民が暮らす家だ。
村の家と比べて質素である。
即席に建てられた簡素な小屋。
彼らが村から歓迎されていないのが空から見てもわかる。
見ていると気分が悪くなる、村に余裕がないのだから住まわしてもらえるだけありがたいと思うべきだがそう思えない自分がいる。
せっかく空を飛べるのだ。もっと自由に見て回ろう。
そう思って空を飛んでいた。
巨木が見える。高さは周りとあまり変わらないが葉の生い茂り方が他よりも勢いがある。
森のボス植物と言った貫禄。
その上に大鷲の巣が見えた。
巨木の足元に誰かがいる。暗くて誰かわからない。
もっと近づいてみようと思ったら少し離れたところにもう1人いる。
カルナだ。
服装は異世界の服を着ている。
肌と服が密着した体のラインが露になっている服だ。
彼女の世界では普段着だったそうだが正直刺激が強すぎる。
異世界の男性は目のやり場に苦労しているだろう。
その彼女が悪い顔になって何かを話している。
遠くからだからか聞こえない。
夢なのだから聞こえてもいいだろうに。
祭壇の前にいる人に話しかけているようだ。
カルナは黙っていればとてもかわいくて美人なのにもったいないと思う。
元の世界でもさぞかしモテたのではないだろうか。
本人からそういう話は聞いたことはないが服のセンスは悪くない。
あの口の悪さが大きすぎて総合でマイナスになってしまっているのが残念だ。
彼女は悪い顔のまま時折笑ったりしている。
目も口も、手の動きも相手を見下していることを隠していない。
杖を無くした時の塩らしさが少し残っていてくれていたらと思う。
気が付くと朝になっていた。
ベッドの上にいる、空に浮かんでいない。
突然意識がなくなったように目が覚めてしまった。
彼女の夢を見れたのは嬉しいが夢ならばもっとはつらつとした笑顔が見たかったものだ。
朝になって宿屋の1階に下りて出された朝食を受け取りテーブルに座った。
今日、ノキマからの避難民が帰ることになっている。
彼らも早く帰りたいのだろう、故郷なのだから当然だ。
付き添いとしてヨークが同行するという。
それに合わせて僕たちもこの村を出る。
結局ヨハンナさんのことは何もできなかった。
自分の非力さが情けない。
カルナが起きてきた。
ただの村人の服装をしている。
手袋と帽子を被って獣人だということをばれないようにしている。
カルナが向かいの席に座り朝食を食べる。
朝食と言っても野菜を煮たスープに麦のお粥だ。
肉が恋しいと思いながら2人で食べた。
出発の準備のため村にいる商人から食材やら薪を買う。
火を長持ちさせるために炭もいくつか買っておいた。
お金はアインザックたちがくれたお金を使う。
お金を気にせず買い物ができるなんて、なんて幸せなことだろう。
使いすぎないように気を付けないといけない。
荷馬車と馬を受け取り荷台に買った荷物を積んでいく。
すでにノキマの住人たちも出発の準備を整えたらしい。
先頭にヨークがいるのがわかる。
近づいて話すこともないと思い目が合った時に会釈だけで挨拶をしておいた。
荷馬車を村のもう一つの入り口に誘導する。カルナを待っていると彼女がやってきた。
その後ろにヨハンナが居る。
どうして彼女がいるのだと思いカルナの手元を見るとカルナが彼女の手を握って引っ張っているようだ。
彼女の方も驚いているようで引っ張られるままに歩いている。
「お前も荷台に乗れ。村を出たいんだろう。」
カルナが荷馬車の後ろから乗り込むと彼女に手を差し伸べる。
ヨハンナの方はその手を取るべきか迷っているようだ。
「何をしている。止まれ!」
ヨークの声がした。
カザンはカルナの側に寄る。
カルナは不敵な笑みを浮かべている。
「巫女様をどうするつもりだ。」
ヨークを先頭に村の人たちが集まってくる。
「魔王討伐の一員として彼女を連れていくことにした。」
何だと?と眉間に皺を寄せて彼が呟いた。
「巫女様は村にとってかけがえのない存在、連れていかれては困る。」
「今世界がどうなっているか知らぬわけではないだろう。
魔王討伐と言う大義の前にこの村の事情など知ったことではない。」
周りの人たちもざわついている。
「巫女様に戦う力などない。彼女は村のために大鷲様に祈りを捧げる大切な役割がある。
連れていくなら他に腕っぷしのいい者にしてくれ。」
「戦いとは何も腕力だけで勝負が決まるわけではない。
巫女の役など誰かが代わりにやればいい。
魔王を討伐したら返すと言っているんだ。箔が付くぞ。」
「それならば俺が旅に同行しよう。
俺はこの周辺の地理にも詳しい。文字も読める。
弓も剣も使える。申し分ないだろう。」
「んー。私が見たところ私のカザンの方が強いな。
雑魚は要らないんだ。
やはり巫女が適任だ。連れていく。」
(剣を抜け)
カザンの頭の中にカルナの声が響いた。
思わず彼女の方を振り向く。
その顔と目は獲物を狙う狼の目になっている。
(早く抜け。あの男を倒せ。)
「え、いや、だって・・・昨日はそんなはなし・・・」
(早くしろ。)
カルナの目は大鷲に睨まれたときより怖いかもしれない。
言われるがまま剣を抜いた。
村人たちが騒ぎ出した。
そりゃあ突然巫女を連れ出すと言って、連れの男が剣を抜いたのだ。
賊の類がすることだろう。
みんな困惑しているし怒っている。
周りを見るのが怖くて正面にいるヨークだけを見ることにした。
朝食を食べていた彼女の穏やかな様子からはまったく想像できない展開にただ困惑するばかりだ。
ヨークの側の男性が彼に鉈を差し出す。
剣ではないのはこの村には武器の類がないのだろうか。
狩人だから弓だと思ったが間違ってヨハンナに当たることを懸念してでのことか。
「もう一度言う。巫女様を離せ。彼女はこの村で一番重要な人物だ。」
「ただのお祈り役だろう。魔王討伐の方がよっぽど有意義だ。
こういう時村人は喜んで旅の出発を祝うものだがな。」
「黙れよ。よそ者が!人の事情も知らないくせに!」
ヨークが左腕を後ろに回す、その瞬間何かを投げた。
小刀だった。腰につけている携帯用小刀か。
だが位置が高い、これでは僕には当たらない。
ただの陽動か。咄嗟のことで外したか。
このまま小刀が行けばカザンの頭の少し上を通りすぎる。
通り過ぎた先にいるのは・・・カルナだ。
カルナを狙ったのか。
思わず握っていた剣を高く上げて小刀を弾いた。
小刀を弾いて安心した瞬間、目の前に怒りの形相をしたヨークが鉈を振り下ろしていた。
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