第39話 解決策
どうすればよいだろうか。
彼女の要望通りに村を出るときに一緒に出るか。荷台の荷物に紛れて出ればばれないだろう。
だがその後すぐに追手が来るだろう。
そうなれば戦うしかないし、こちらは犯罪者になる。
魔王を倒すどころではなくなる。
彼女はこの村が嫌いではないと言っていた。
だが巫女という制約の多いことが嫌なのだ。
ならば巫女を辞めるという選択はないのだろうか。
「巫女は辞めれないのですか。
他の方に巫女をやってもらうというのは。」
「それは無理だろう。
純潔でないといけないのだから若い人が対象になる。
巫女になれば子孫を残すことができない。普通の親ならばそんな役になってもらいたいとは思わんだろうな。」
「それでも村長になれるならどうだろう。村で一番の権力者だし。」
「村長の権力は王や貴族の権力と同じではない。
村長がすべて取り仕切っているわけではないだろう。
村長の補佐という名目で村の何人かが話し合って決めていると考えるのが妥当だ。」
カルナの発言にヨハンナは頷いた。
「村長が独裁者のようにふるまうということも不可能ではないが・・・無理だろうな。」
ヨハンナの顔を一瞥してそう言った。
たしかに彼女は独裁をするようなタイプに見えない。
歳も若いから村長になっても誰も彼女の意見は聞かないだろう。
「そんな度胸があるなら村を出たいなどと言ってないわな。」
「カルナはどうやったらうまくいくと思う?」
カルナは異世界から来た。ここから遥か遠くの星からだという。
僕たちよりも遥かに進んだ技術を持っている。
カルナの話でも必ずしも巫女は結婚してはならないという決まりがあるわけではないらしい。
その多くの知識を持つ彼女ならばどうするのだろうか。
「手段を選ばなくてよいのならこの村を焼き払うか。」
予想を超えてきた。さすがカルナである。倫理観がない。
「それは・・・やりすぎじゃないかな。」
「連れ戻されるというならば連れ戻す元がなくなればよい。
むしろこの村の住人が全員ノキマに移住してそこで新しい生活を始めるのが全体にとってもいいと思う。」
「それで多くの村の人が被害を被るのはだめじゃないかな。」
「この場合どちらを助けたいか。どちらかしか助けれないならばどっちを助けるかを決めればいい。」
「寄ってたかって村のルールを押し付ける村人か、自分の人生を歩みたいという彼女か。
どちらかしか救えないならどちらを救う?」
カルナがカザンの顔を見る。
「犠牲が少ない方がいいと思うのは多数に所属している者か、その当事者ではない安全なところから物を見ている者の意見ではないか。
自分が犠牲になる側になったとき仕方ないですって受け入れられるか。
今までそうやってきたのだからそれを受け入れろと。
誰も巫女をやりたがらないというのもそれと同じだ。
この村の村長になったところで権力なんてたかが知れている。
巫女になったら最後、生涯独り身になるんだ。親がいるならば巫女になれとは言わんだろう。」
言い終わるとカルナはヨハンナを見る。
「親がいないんじゃないのか。」
そう言われた彼女は視線をだけを反らす。
「私の両親は昔に流行り病で亡くなったと長老から聞きました。
物心ついた頃には長老の家で2人で暮らしていました。」
「優しい長老でよかったじゃないか。」
確かにそうだ。
親がいない子供が辿る人生は過酷になることが多い。
親戚に引き取られたからと言って安全とは限らない。
酷いケースでは奴隷として売られることもある。
長老がここまで彼女を育ててくれたのはそういう意味ではとても幸運なことだ。
「長老に恩を返すためにも巫女として長老の後を継いで村長になるのが誰もが望む道だ。」
カルナが諭すように言う。
彼女もそれはわかっているのだろう。
それを受け入れるのが誰にとっても幸せなことだ。
娘同然に育ててくれた長老への恩返しだ。
「・・・わかりました。」
言い終わる前に彼女は泣き始めた。
声を漏らさないように。
涙が手から漏れて床に落ちる。
かける言葉が見つからない。
カルナがベッドから立ち上がって彼女の側に寄る。
「部屋に帰る。」
そう言うとすぐにワープの魔法を発動させて2人とも消えた。
1人になった部屋でため息を漏らす。
彼女が座っていた椅子を見る。
まだ彼女の泣く声が聞こえてくるようだ。
目の前の空間が一瞬歪んだように見えた。
次の瞬間にはカルナが立っていた。
「部屋に送ってあげたんだ。」
「そうだ。それとあいつは魔法が使えるぞ。
今日私が長老の部屋で話していた時に念話で話しかけてきた。
さっきの相談事のことだったのだろうな。」
「巫女だから魔法が使えるの?」
「使えると言っても念話程度だ、旅の役には立たんだろうな。
力があるわけでもないし、武器も使えない。
念話だけでは足手まといだ。」
「カルナが魔法を教えてあげたら?」
「この世界のやつらが自発的に魔法を発見しそれを己の努力で習得するならば止めることはしない。
だがそれに私が手を貸すことはしない。」
ノキマの諜報部隊の地下司令部で話したことだ。
魔王を倒した後の世界では魔法を持つものによる一方的な戦争が起きるという。
カルナがヨハンナに魔法を教える。
ヨハンナはまた誰かに善意で魔法を教えるだろう。
そうやって効率のよい魔法習得方法が広がって一大勢力になる。
それが新しい戦乱を呼ぶことを懸念している。
そういう意味だとカルナの側にいる僕は特別なのだろうと思う。
「それともカザン、君が彼女を連れ出すか?」
カルナが悪い顔になって僕を見ている。
「巫女の側にいるあの男に勝てればあいつを連れ出しても誰も何も言わないだろう。
犯罪者になるだろうが2人で暮らせばバレやしない。
魔物がはびこる世界なのだ、気に留める奴もすぐにいなくなる。」
「カルナは意地悪だな・・・僕がそんなことをしないってわかっていてそういうことを言う。」
「その通りだ。だが人を1人救うというのはそれほど大変なことだ。自分の人生を掛けるほどにな。」
それが現実なんだと思う。
僕はただの野良の勇者で何の力もない。
「それにしてもカザンよ。汗をかいてないか?私がこの部屋に来るまでに何かしていたのか。」
「あぁ・・・それなら剣の素振りをしていたんだ。」
「いつもそんなことをしているのか?私と一緒の時はしていない気がするが。」
「カルナに迷惑かなと思って、今日みたいな1人の時はやろうって決めている。」
「鍛練か、いい心がけだ。だが汗をかいたままでぐっすり寝れないだろう。」
彼女は杖を掲げて本日2回目の浄化の魔法をしてくれた。
さっきもしてもらったばかりだったが体の至る所から小さな火花を散らしていた。
その後カルナは部屋の扉を開けて出て行った。
その姿を見送って僕も寝ることにした。
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