第38話 巫女の秘密
カルナへの質問が終わり宿屋の部屋に戻る。
部屋を出るときにヨハンナが宿まで送ると言ってついてきた。
その後ろにヨークも付いてくる。
村の広場では宴会の準備が進んでいる。
ノキマの住人も積極的に手伝っているようだ。
宿の部屋の前でカルナと分かれる。
宴会ではほどほどにしておきなさいと言われた。
部屋に戻り剣を抜く、宴会が始まるまで剣の鍛錬をしておくことにする。
大鷲との戦いすべて防げたとはいえ防戦一方だった。
この剣で刺すことができれば倒すことができたのだろうか。
あの時の戦いをイメージして剣を振る。
宴会の始まりの鐘が鳴らされる。
剣の練習を止めて村の広場に行くことにした。
カルナは帽子をかぶり獣人とわからない格好になっていた。
宴会は村の広場で行われ椅子がわりの丸太などが並べられている。
中央には大きな篝火がたかれている。
宴会の途中カルナが席を外しそのまま宿屋に戻ると言ったのでその後についていく。
部屋の前で浄化の魔法をかけてもらった。
部屋に戻り再度剣の鍛練を行う。
ヨハンナは集会所の中に設けられた巫女用の敷物の上に座り長老と静かに宴会の食事を食べている。
ヨークの方はいうと集会所の扉のところで警備をしている。
警備の役割をしている人はほかにもいてヨークと一緒に扉にもう一名、村の正面の入口に2名、東側にある入口に2名と言った具合だ。
村人たちが酒やご馳走を囲んで楽しく飲み食いしている姿とヨークたちの姿は対照的に映っている。
鍛練が終わるころにはまた大量の汗をかいていた。
これではカルナにかけてもらった浄化の魔法も意味がないなと思う。
外の喧騒も静かになり宴会も終わったようだ。
まだ何人かは広場中央のある焚火ていどに小さくなった篝火を囲んで話しながら飲んでいる。
そんな姿を窓から見ていた時。
(今からそっちに行くわ。)
カルナから念話が来た。
カルナは隣の部屋にいる。
何が起きたのだろうか。
扉の方を見る。
瞬間視界が遮られたと思ったら扉の側にカルナが現れた。
てっきり扉を開けて入ってくると思っていた。
「何驚いているの?
部屋に行くっていったじゃない。」
そう言うカルナの横にはヨハンナもいる。
巫女の装束ではなく村人が良く来ている素朴な色合いのワンピースを着ている。
頭にも耳にも装飾品をつけていない。
素朴な感じだが清楚で気品があるのが伝わってくる。
「ワープの魔法で連れてきた。」
彼女は短くそう答える。
「彼女、話があるんですって。」
「夜分遅くにすみません。お二人に折り入ってお願いがあります。」
カルナとヨハンナ、少しだけだがヨハンナの方が高い。
その彼女が覚悟を決めた顔で口を開く。
「私をお2人の旅に連れて行ってもらえませんか。」
カザンは面食らった様子だったがカルナは小さくため息を漏らす。
「相談ってこのことだったのね・・・」
ヨハンナに顔が見られない位置だからか彼女はめんどくさそうな表情になっている。
「でもヨハンナさんはこの村の巫女であり将来の村長さんですよね。
正直そう遠くない日に村長になると思いますが。」
不謹慎な話だが村長の年齢を考えれば不思議でも何でもない。
明日にでも彼女が村長になっていることだってありうる。
「正式に村長になったら私は本当にこの村から出ることはできなくなります。
大鷲様の祭壇とこの村とを往復するだけの日々。
そんな生活はもう嫌なのです。
お二人は魔王討伐のために旅をしているのですよね。
ずっと一緒でなくてもいいのです。途中の街まででも構いません、この村の人たちが知らないところまで連れて行ってくれませんか。」
連れ出すだけならば荷馬車の荷台に乗ってもらって移動すればいい。
彼女は健康体だから歩くこともできる。
しかし問題はそこではない。
「他の村や街で暮らす当てはあるのでしょうか。」
「文字は読めるのでどうにかなるかなと思います。
小さいころからお金や貴金属の類を貯めてましたのでそれで当面はしのげるかと。」
誰も知りあいがいない土地に1人で暮らすというのは実際にやったことがないカザンでさえも無謀だと思う。
行商人がお金を貯めて村や街で店を持つというのが聞いたことがある。
街や村に勝手に住むことはできない。
村ならば村長の許可がいる。村長が許可しなければ村に居つくことなどできはしない。
誰も知り合いがいない土地に来てお金があるから家を買いたいと言っても誰も歓迎などしないだろう。
「現実的ではないな。」
カルナが素っ気なく答える。
「今の状況から抜け出したいという気持ちはわかるがそれでこの村から出るというのはよい案とは言えない。しかも誰もいないところに行くなど、まだノキマで亡くなった誰かの名前を使って生活をする方がよい案だ。」
倫理的には終わっているがノキマは今、人を必要としている。
多くの人が亡くなり、また奴隷としても異国の地に連れていかれた。
彼らはもう戻ってくることはないだろう。
エルンストに事情を説明すれば彼女一人の身分を偽るくらい融通を効かせてくれる可能性だってある。
「ノキマには私のことを知っている人が大勢います。
ノキマに住んでもこの村に連れ戻されます。」
カルナがそうだろうなという表情をしている。
「どうして村を出たいのですか。巫女という仕事が嫌なのですか。それとも村長や村の人たちとトラブルを抱えているとか。」
彼女は首を横に振る。
どちらも違うということか。
「村長も昔は巫女だったという。今も巫女なのかもしれんな。
こういう制度というのは古今東西どの地方にもある。ルールは多少違うがな。
聞いたことがあるのが巫女は結婚できない、そして子供を産むことが許されない。」
彼女が沈痛な顔で頷いた。
宗教というものに疎い彼には理解できなかった。
カザンの年齢ならばすでに結婚して子供がいてもおかしくはない。
カザンに恋愛経験も女性の影がなかったのは彼が毎日仕事尽くめで家族のために自分の人生を犠牲にしてきたからだ。
街の人々も貧相な生活をしている彼らに縁談など持ってこない。
カザンもそういうのは薄々気が付いていたが自分には縁のない分野だと思い気にしていなかった。
しかしこの目の前にいるヨハンナという女性は違う。
年相応に恋をして結婚をして子供を産みたいと願っている。
相手はヨークだろうか。常に一緒にいるようだから不思議でもなんでもない。
「巫女だと結婚できないってこと?」
「こういうのは純潔さが求められるもんだ。
この村で崇められているやつの”意思”なんだろうな。」
カルナがバカにするようにふっと鼻で笑う。
カルナは心神深いタイプではないだろう。
神様に祈るよりもその両手で相手を殴るタイプに見える。
祈りの言葉を吐くよりも相手の喉笛を嚙みちぎろうとするだろう。
カルナが彼女から離れるようにベッドに腰かける。
椅子に座ったらどうだ?
と彼女に伝える。
カザンも窓を閉めてカルナと少し間をあけてベッドに腰かけた。
「ヨークとかいう奴は連れて行かなくていいのか。」
カルナが聞く。
「彼はこの村に残るでしょう。彼にとって大事なのはこの村のしきたりを守ることなのです。」
「そういう話をしたことがあるのだな。」
彼女は頷いてから話し始めた。
「まだ巫女のしきたりに無頓着だったころ。彼に村の外に行ってみたいと言ったことがあって、そしたら彼はとても怒っていました。”巫女なんだから村を出たらだめだ”と。
数ヶ月前にもこの村を出ていきたいと彼に言ってしまったんです。
そしたら彼は”俺は誰とも結婚しない”と。」
「お互い純潔のまま生涯を終える。悲哀な物語なら心打たれる読者もいるだろう。
実際にされる当事者としては納得できないだがな。」
2人の会話を聞いていて思う。
(彼は生涯独身を貫くことができるのだろうか。
僕のような貧乏の家ではないようだ。
体格もいい。この村で一番の男と言っても言い過ぎではない。
そんな彼を独身者として一生を終えることに周りは納得しないんじゃないだろうか。
独身者が男社会で受ける扱いは僕にもなんとなくわかる。
半人前の烙印を押されて生きるのだ。
その扱いに耐えれるとは思えない。
村の集まりがあれば間違いなく末席になるだろうし、村の持ち回りも一番大変で危険な役を押し付けられる。
タカラヒの街がそうであったようにこの村にもそういうことがあるのではないだろうか。
彼が周りの圧力に屈し結婚という選択を選ぶとき、その祭事を取り扱うのは村長となったヨハンナさんだ。
彼に子供ができたとき赤ん坊に祝福を授けるのもヨハンナさんになる。
それは気が狂うような出来事ではないだろうか。)
まるでカルナが考えそうなことだと思った。
恋愛に疎いカザンでさえその光景を思い浮かべると自然と表情が暗くなる。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ブックマークしていただける執筆の励みになります。
他にも投稿していますので読んでいただけましたら幸いです。




