第35話 森の中にある村
いつものようにカザンが御者台に座っている。
荷台にはカルナ、ヨーク、ヨハンナが座っている。
ヨハンナがカルナに話しかけている。
「ノキマの人とは会ったことがあるんですがタカラヒとはどういう街なのですか。」
「まぁありふれた街よ。特徴も特にないかな。金持ちの商人がいて結構羽振りがいいのよ。」
「そのような方がいるんですか!」
僕から聞いた話を自分のことのように話している。
ヨハンナは村の外について知りたがっているようだ。
逆にヨークの声はまったくと聞こえてこない。
荷馬車を走らせてそれほど経たないくらいで村の入り口が見えてきた。
入り口と言っても元々の木を利用した門があるだけでそれをくぐっても村の住宅はまだ見えてこない。
ところどころ柵のようなものが設置されている。
ヨークは荷台の後ろから飛び降りて馬と並走する。
それに合わせる形で馬の速度を落とした。
「なぜ全体に柵を張らないのですか。」
気になったのでカザンは聞いてみることにした。
「動物は悪意を持って村に近づいてくることはないです。
ああやって一部だけでも柵があるとそこに人間の匂いが残りますからその匂いがある間は動物は近寄ってきません。
動物の方も柵があればここは人間の領域なのだと察知して近寄ってこないのです。
それでも迷ったりしてくる動物はいますが数は少ないですね。」
全体に柵を巡らせればそれだけで大きな負担になる。
設置した後は維持のための点検や補修も必要になる。
村が大きくなれば柵を拡張する。そうなればまた設置のやり直しになる。
そういう意味ではこの不十分な柵は野生動物と人間の生活範囲を区切る良い目印になっていた。
「カルナの見た目のことなんですが村の人には黙っていてもらえないでしょうか。」
「・・・承知した。カザン殿たちは魔王討伐の旅の途中だから村に何日も泊まらないだろう。
話さなくても問題ないだろう。」
カルナ自身も獣人の特徴が外観からわからないような服を着ている。
両手には手袋を嵌めていた。
「村にも宿屋がありますので荷馬車はそちらで預かってもらうのがよいでしょう。
ノキマの件は私から村長に話しておきます。
宿屋の手続きが済んだら集会所に来てください。
村の人全員で歓迎いたします。」
言い終えると村の家々が見えてきた。
どの建物も木でできている。
出会う村人はみな足を止めて挨拶をしている。
ヨークと荷台にいるヨハンナも挨拶を返す。
宿屋の荷馬車置き場で停まり荷台のカルナとヨハンナに下りてもらう。
馬も馬具を外して自由にしてやる。
カルナと一緒に宿屋で手続きを行い馬を預けておいた。
部屋に行き荷物を下ろす。
荷物と言っても実際にはカザンがタカラヒを出るときに担いでいたリュックサック一つしかない。
カルナの荷物は倉庫の魔法があるので手に持つものは杖だけだ。
エルンストたちからもらったお金が入った袋もカルナに預かってもらっていた。
部屋を出て村の中で一番大きな建物に2人で向かった。
村の奥にあるその建物は集会所であろう。
建物も大きいが、入り口となる扉が横に何か所も設けられている。
今もその扉すべてが開け放たれており住民が所狭しと床に座っている。
その奥に村長であろう、老人が村人全員と対面になるようにその人だけが椅子に座っていた。
建物の扉前に大量の靴が並べられている。
どうやらこの建物に入るときは靴を脱いでから入るようだ。
どの靴も植物の蔓を編んで作っているようで簡素なものに見える。
カザンが履いている靴はエルンストの父が用意してくれた革で作られた靴だ。
丈夫で手入れを怠らなければ何年でも長持ちするがこの村人が履いている靴は消耗品のように見える。
彼らの作法に倣って靴を脱いでから扉をくぐった。
脇の空いたスペースから前方に移動する。
そこにヨークとヨハンナも座っている。
全体に対して会釈をして座った。
「ここで自己紹介とノキマのことについて説明してもらいたい。
ノキマの住民も全員ここに来ている。」
無言で頷く。
全員が揃ったのだろう、いきなり集会所内が静かになった。
みんなの視線がカザンとカルナに集まっている。
前に座っている長老が咳ばらいをしてそれが集会の開始の合図となった。
ヨハンナが立ち上がりカザンとカルナのことを話し始める。
大鷲との戦いのことには触れず魔王を倒す旅をしているのだと説明した。
それを聞いた村人の反応はどよめきではなく怪しむような反応だった。
そしてヨハンナから立ち上がって説明するように促される。
カザンは立ち上がりヨハンナの説明の続きを話すように話し始める。
ノキマでのグリフォン討伐のこと、ノキマは今復興が始まったばかりであることを話す。
それを聞いた村人から歓声やら泣くものが現れる。
「あんたらは野良の勇者だっていうな。それなら報酬は何を払えばいいんだ?」
村人の中からそんな質問が出た。
「ノキマでは何も報酬をもらってないんだよな。なら誰から報酬をもらうんだ?」
村人同士で顔を突き合わせて話し始める。会場がいっきにうるさくなる。
報酬?
そういうのは要らないと言おうとしたとき、横にいたカルナが立った。
「報酬など、この村で払えるものでは満足できるわけがない。
魔王を倒せたのなら各国の王族貴族から望むものすべてがもらえる。
それまでは我慢している。」
そうだったのか・・・と思ったがカルナの横顔を見て察した。
これはカルナなりの嘘なのだと。
それを聞いた村人たちも口々に確かにな、と言っている。
単に村を出たかった、このまま零細商家の人生を続けたくなかったと言いそうに自分とは違う。
彼女はみなが納得するような答えを言ってくれたのだ。
ノキマから逃れてきた人が20人ばかりいたので彼らは本日中に荷物を整えて明日朝一でノキマに戻ることが決まった。
護衛には村人が数名付いて行くという。
今日はノキマの村人のお別れ会とノキマ解放を祝って宴会が開かれることになった。
村人たちは準備のためにすぐさま集会所を後にした。
残ったのはカザンとカルナ、ヨークとヨハンナ、そして長老だけとなった。
「長老よ、この2人を外して私たちだけで話ができないか。」
「ヨークとヨハンナが聞いてはいけない話か。」
「そうだ。聞かん方がいい。親切で言っている。おぬしらの常識が壊れる。」
「いや、聞かせてもらいたい。最初に会った時のあなたの説明、腑に落ちないところがある。」
やはり怪しまれていたか。カルナが長老と何を話したいのかはわからない。
だが魔法を使っていない時点で彼女なりの配慮だろう。
以前なら話し始める前に魔法を使っていたはず。
カルナはため息をついた。
まぁいいかとつぶやく。
「それでは私からの質問だ。魔王は何年前にこの世界に現れたか?」
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