第33話 大鷲との戦い②
巨木の瘤を起点にすいすいと登っていく。
カルナの強化魔法のおかげで疲れることなく登ることができる。
途中の太い枝に乗り上を見る。
巣の下側が見えている。
枝がいくつもの組み合わさって毬栗のようを連想させる。
音を立てないように登る。
そして巣の端に手をかけた。
覗くとそこには巣に鎮座する大鷲がいた。
大鷲と目が合う。
これが蛇に睨まれたカエルの状態というやつか。
体が硬直して動かない。
鷲の方は顔を傾げたり嘴を動かしたりしている。まるで突く前の準備運動をしているようだ。
視界の端に1本色のが違う枝を見つけた。
間違いないカルナの杖だ。
杖に視線が移った瞬間大鷲の嘴がカザンに向かって振り下ろされた。
とっさに両手を放して巣から離れるように落下し嘴の一撃を避けた。
嘴は彼の頭があった位置に振り下ろされている。
彼の方は落ちる途中にある枝を掴み地面に落下することを防いだ。
「杖があった!巣の中にある。」
大声で叫ぶ。
すると巣の周りに光る玉が複数現れ円の形をする。
その球がぐるぐると回りながら巣に近づいていく。
大鷲は驚き翼を広げて大空に飛び立つ。
その隙をついてカザンが再び枝を伝って登り巣に近寄る。
巣には卵が3つ入っていた。
あの大鷲は卵を温めていたのか。
巣の端の方に巣を形作る枝の一つとして杖が組み込まれている。
それを引き抜き急いで巣を後にした。
あの大鷲も悪気があって杖を持ち去ったのではない。
巣に適した材料となるものを探していたのだろう。
大きな鳥には大きな巣が必要になる。この広大な森でもあの大鷲が満足できる枝はやすやすとは見つからないのだろう。
そういう意味では悪いことをしたなという思いも少しだけある。
登るよりも早くするすると降りていく。
枝から枝に足を使って跳ぶようにして降りるとすぐに地面についた。
カルナの下にいき杖を渡す。
カルナは目に涙を湛えて杖を受け取った。
杖を両手でぎゅっと抱きしめる。
これで一件落着だねと思った時。
空から降りてくる者がいた。
大鷲である。
一度はカルナの魔法で驚き巣から離れたが自分の巣から枝が盗まれたことに怒っているのだろうか祭壇の前に降り立つと二本の足でこちらに歩いてくる。
飛んでいないのに恐ろしい。
カザンは剣を抜いて構える。
カザンと大鷲の距離はおよそ剣5本分、一気に駆け寄り突けば勝てるかもしれない。
大鷲の武器は足の爪と嘴。身体が大きいので蹴られても無事では済まないだろう。
大鷲が翼を大きく広げて威嚇する。
鳴き声も響く。
その時頭上に大きな影が現れた。
咄嗟に上を向くともう一羽の大鷲が両足の爪を広げて滑空してきた。
カルナが杖を地面に突き立て魔法を発動させる。
光る球に風の防壁が同時に現れる。
それでも爪の攻撃は容赦なくカザンめがけて振り下ろされる。
彼が屈んだことと風の防壁で防げはしなかったが狙った位置が少しずれたおかげでなんとか攻撃は当たらずに済んだ。
大鷲の爪が地面に深く突き刺さる。
それをなんとも思う様子もなく軽々と地面から爪を引き抜く。
直撃していたら無事では済まなかった。
空から降りてきた大鷲が振り返り2羽がカザンの前に立ちはだかる。
「どうすれば・・・」
自然とそんな弱音を吐いていた。
カルナの魔法でも防げない。
爪に一掻きされれば致命傷になる。
倒せるとは到底思えない。
縄張りから出ようにも範囲が広すぎて走っても追いつかれるだろう。
「倒す必要はないわ。
攻撃を防いで、飛ばれなければどうとでもなる。」
後ろからカルナが話す。」
彼女の不屈の精神に助けられる。
巣のところで大鷲と目が合った時に自分は捕食される側なのだと感じた。
圧倒的な力の差を感じてしまっていた。
”倒す必要はない”
カルナの言葉に勝機を感じた。
彼女の作戦はわからないがきっとうまくいく。
今までがそうであったように!
手前にいる大鷲が足を持ち上げた。
その足が攻撃する前に素早く剣で斬る。
大鷲は叫ぶが足は無傷。
力を加減したつもりはないが皮膚が固いのだろう。
「調教」
カルナが叫ぶ。
青い光が見える。
これで勝てたのか?
と思ったが大鷲は翼を広げて威嚇する。
(効いていないのか!)
カザンは1歩ずつ後ろに下がって間合いを広げる。
それに合わせてカルナも後ろに下がる。
下がりながら「調教」と言い杖から青い光を出している。
ある程度距離があくと大鷲が一気に足を進めて嘴でついてくる。
それを剣で受け止める。
何度も突かれるがそのたびに剣で受け止める。
防戦一方で反撃の余裕がない。
一撃でも嘴の攻撃を受けたら致命傷になる。
倒す必要はないとカルナの言葉を信じる。
後ろのもう一羽が翼を広げてはためかせている。
飛ぼうとしているのだ。
しかしカザンは嘴と爪の攻撃を防ぐので精一杯でもう一羽に構う余裕がない。
カザンが奥の一羽に向かえばカルナが無防備になるそうなればカルナと言えども無事ではすまない。
その時森の陰から馬が走ってきた。全力疾走で飛ぼうとしていた大鷲に体当たりする。
大鷲は怯み飛ぶ動作を中断する。
お互いに傷はないようで馬も体当たり後しばらくして止まって再度大鷲の体当たりしようとして構えている。
馬が守ってくれたのか?
そんな疑問を思っていると。
「念話で馬を操ってみたわ。意外とうまくいくのね。」
カルナが魔法で操っているようだ。
その後も彼女の「調教」という声と光が2羽の大鷲に浴びせられ続けていた。
何度目からの大鷲からの攻撃を防ぎ、馬が体当たりで飛ばないように邪魔をする。
そしてカルナの青い魔法。
カルナが青い魔法を発動させたのを最後に2話の大鷲はぴたりと動きを止めた。
攻撃のモーションがなくなり敵意がないことが雰囲気でわかる。
何が起きたというのか。
「やっと魔法の効力がでてきたようね。」
後ろからカルナの声がした。
油断したら攻撃されるかもしれないと思い剣を構えたままの姿勢で背中越しに質問する。
「一体何をしたの?」
「テイムの魔法をかけたの。
一発でかかるほど弱い動物じゃないから何回もかけないといけなかったけど、やっとかかったみたいね。
もう攻撃されることはないわ。彼らは私たちの味方よ。」
そんな魔法まであるのかと思う。
なんでもありではないか。
一発でかからないというのもカルナのレベルが低いからだろう。レベルが元に戻ったら一発でかかるのではないだろうか。
そんな怖さを感じさせる魔法の説明だった。
カルナは大鷲に近寄り1羽の体を撫でる。
撫でられた方もまんざらではないようで体を震わしている。
さっきまで殺意を向けられていたのに真反対の変わりように驚いてしまう。
もう一羽にカルナに近寄ってくる。その一羽も彼女は同様に撫でている。
すっかり飼い主とそれに飼われている動物の関係におさまっている。
一気に力が抜けて剣を鞘に納める。
馬の方も無事のようでカザンに寄ってくる。
「彼らは夫婦で今卵を温めているみたいだ。
巣を作るために丈夫な枝が必要だったんだと思う。」
「それなら仕方ないのかしら。特別に許してあげる。
それじゃあ杖も取り返したし池に戻って森を出るか。」
そうだね、と言い馬に乗ろうと手をかけた時。
「そこの2人、離れなさい。」
声がした方を見ると、2人の男女が立っている。
男の方は弓を構えていた。




