第32話 大鷲との戦い
完成した囮の鳥模型をカルナの風魔法で浮かび上がらせる。
以前使っていたというワンドを右手に持ち、その棒で模型を指す。
「風よ。我が声に答えよ!」
風が包み込むように模型を覆う、球の中に模型が収まっている形だ。
彼女が棒を天高く掲げると模型も同じように浮かび上がりそのままあの大鷲が飛んでいた高さまで高度を上げていく。
そのまましばらく待っていた。
「全然、来ないじゃないか。」
カルナが文句を言う。
確かに高度はあっているが一向に大鷲が襲ってくる気配がない。
鳥は目がいいので見えていないとは思わないが・・・
「あれかな。ずっと静止しているから敵だと思っていないんじゃないかな。」
「そういうのはもっと早く言え。腕が疲れてきたぞ。」
カルナは腕を上げたままぐるぐると円を描くように回し始める。
すると模型の方も同じように円を描いて動き出した。
杖の時と大差なく魔法が使えるようになっているようだ。
彼女は性能は杖の方が良いと言っていたが彼の眼にはどちらもすごいとか映っていない。
そんな彼が素朴な疑問を口にした。
「杖の時はあんまり動かしていなかったけど、そのワンドってやつは動かさないと魔法が使えないの?」
いつもは杖を掲げるか手元で左右に振るかくらいで魔法を発動させていた。
この魔道具になってから腕を高く上げたり回したりと忙しそうだ。
それを言われてカルナの顔は赤くなった。
すぐに腕を下ろす。
空に浮かび上がる模型を見るが動きに変化はない。
どうやら腕の動きと連動しているわけではないらしい。
「杖は重たいからな。いちいち動かすのは疲れる。
それに魔法はイメージの力だ。動きを取り入れることでより強力な魔法を行使できる。」
恥ずかしさを取り繕うように聞こえるがそれ以上質問するのは止めておいた。
2人でくるくると上空を周る模型を見ていた。
「「あっ!」」
2人同時に声が上がる。
大鷲が現れて模型に接近したのだ。
まだ攻撃は加えられていない。
周囲を旋回して相手を見極めているようだ。
「杖の恨みを晴らしてくれる!」
カルナが手に持つワンドで模型を指す。
模型を大きく旋回させて大鷲に体当たりさせようとする。
相手もそれがわかるのか翼をはためかせて高度を変えたりして回避する。
「いや、カルナもう十分だ。あとは相手が巣に戻るのを追いかけたらいい。」
「少しは仕返しをしないと気が済まん。なーに飛べなくなるまで痛めつけるようなことはせん。」
器用に模型を操り大鷲にぶつけようとするがなかなか大鷲に近づくことすらできない。
飛ぶという分野では本物の鳥には勝てないようだ。
大鷲が旋回しながらさらに高度を上げる。その姿が段々と小さくなっていく。
風の籠のように包まれているのでそのまま模型を静止させる。
どうやら大鷲が一定の速さで動いているのを利用して一気に加速させてぶつけるようだ。
カルナの目が獲物を狩る獣のような目つきになる。
小声でもうすぐだ、もうすぐだと言っている。
こういうときは好きなようにやらせてあげるのがいいと思うこの戦いを見守ることにした。
大鷲の動きに合わせて模型の向きを変えていく。
ワンドを握る手に力が籠っている。
大鷲は彼女の狙いを察知したのかその場で縦に旋回すると勢いよく模型に爪を突き立て突っ込んできた。
模型は風の籠で包まれておりそれが防御の役目も果たしているはずだがそんなこと関係ないと言わんばかりに大鷲の爪は模型に食い込みそのまま振り回されあっけなく空中分解してしまった。
残骸となった骨組みや葉が落下していく。葉っぱの方は風に流されながらひらひらと舞っている。
相手を倒したことを確認して大鷲は巣に戻ろうする。
「追いかけなきゃ」
カザンが大鷲の飛び去る方向に走り出そうとする。
「待ってくれ!」
その後ろからカルナが叫んだ。
その声で足を止め振り返る。
「私の足ではあいつに追いつけん。」
先日もそうやって森で独り置き去りにしてしまったことを思い出す。
カルナはそういうだけであとは黙ったまま。
彼はどうしようかと思い一つ案が浮かんだ。
「彼を呼ぼう。」
彼?首を傾げるカルナ。
私たち以外に誰がいるというのか。
カルナが誰のことを言っているのだ?と思っているとカルナの後ろからひづめの音が聞こえてきた。
カザンがカルナに近寄り左腕でがっしりとカルナの横腹から腕をまわし抱き上げようとする。
突然のことに驚き彼女は驚いたまま体を硬直させる。
馬のひづめの音が近くまで来たタイミングでカザンは彼女を抱えたまま器用に飛び乗った。
そのままカルナを後ろに座らせて自身は馬の首を掴んでいる。
彼女もどうにかカザンの腰に手をまわす。
「なんという無茶だ。失敗したら大怪我してしまっていたぞ。」
「うまく言えないんだけどなんかうまくいく気がしたんだ。
馬がどこにいてもわかるっていうか、今もまるで一体になった気分なんだ。」
それを聞いてカルナは考え込む。
魔法が馴染んできたのだろうか。それはそれでよい影響だが馬と一体化したような感覚というのはわからない。
発信魔法なんてありふれた魔法だ。
誰でも使えるし何度も使っているがそんな感覚になったことはない。
世界が違えば魔法の効果も変わってくるのかもしれない。
そんなことを考えていると。
「見つけた!」
カザンが大声を上げた。
そこには巨木が聳え立っている。
前方には祭壇らしいものが組まれており何らかの神事が行われている気配がある。
祭壇に供えられている果物がみずみずしい、それほど時間は経っていないのかもしれない。
「この上に巣があるみたい。」
カルナに空は飛べそう?と聞くと顔を横に振る。
あの杖がないと空を飛ぶことはできないらしい。
「僕が木を登って様子を見てくる。杖が取れそうなら取ってくるよ。」
彼女はうんと頷いた。
馬から降りて巨木に向かい登れそうなところを探す。
巨木だけあって幹にはいくつもの瘤があり凸凹している。
彼ならば登るのに苦労はしないだろう。
それよりも頂上にいるあの鳥が厄介だ。
模型を一撃で壊したほどの爪の力、まともに攻撃されたら無事ではすまないだろう。
どうやって彼を援護するか考えることにした。
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