第30話 模型造り
池まで戻ってカルナに作戦を説明する。
「鳥の模型を作ってそれを空に飛ばすんだ。」
彼女が首を傾げている。
「ああいう鳥は縄張り意識が強いからその模型が自分の縄張りにあると襲ってくるはず。
模型が壊された後にその後を追えば巣までたどり着けるんじゃないかなと。」
彼女はおおーと感嘆の声を上げた。
「僕が鳥の模型を作るからカルナはそれを空高くまで飛ばせるかな?」
「重くなければできると思う。重くなければだが。」
「枝を組み合わせて作るからそこまで重くならないと思う。
僕が作っている間に魔法の練習と倉庫の中にしまっている魔法の効果を高める道具を探しておいてくれると助かるんだけど。」
「うーむ。やってみる。確かに他にも魔法効果増強アイテムは持ってきているが時間があれば探し出せるだろう。」
希望が見えてきたのでカルナの顔は明るくなってきた。
2人で拳を打ち付けてそれぞれの作業に取り掛かった。
カザンは荷台から斧や鉈を取り出して模型材料の準備を始めた。
カルナは葉っぱを一枚地面に置いてそれを魔法で浮かせる練習に集中している。
魔法は単純に使用した回数と熟練度というものでレベルが上がるらしい。
彼女の場合は魔力の総量は以前と同様な為魔法のレベルが上がればそれなりに使えるようになるらしい。
杖があったころはいとも簡単にやってのけていた魔法も今は精神を集中させないとできないようで額に汗をかきながら練習に励んでいる。
縄張りを犯していると思わせるほどの大きな模型でないといけない。
杖を持っていった鷲は翼を広げると荷馬車の長さにも匹敵していた。
それの気を惹くほどの鳥の模型を作るとなるとただの枝ではいけない。
斧を持ち森の中を歩く、薪造りのために幾多の木を切り倒してきた、その経験が今活きるときだ。
とある一本の木の側で足を止めた。
太さに高さは申し分ない。周りもほどよく空いているので切り倒した後にその場で加工ができる。
斧を構えて幹に向かって振る。今までの戦闘のおかげか斧は勢いよく幹に刃が突き刺さる。刃が当たる衝撃で破片が飛び散る。
斧が幹に食い込むたびに破片が飛び散った。
以前ならば苦痛だった作業が苦痛でなくなっていることに驚く、心のどこかで楽しんでいる自分がいる。
あと何回で切り倒せるか、そんなことを考えている。
木を倒す方向を確認するためにいったん斧を置く。
刃を食い込ませていた側と反対方向に向かって斧を奮う。
そうやって最初の切込みを入れた方向に木を倒すように切っていく。
その反対方向からの斧の衝撃で木はほどなくして倒れた。
木が倒れる時特有の周りの木々の枝と擦れる音、地面に倒れた瞬間の地響き。
懐かしさとやり切ったという感情が彼の全身を震わせた。
切り倒した木を今度は等間隔になるように丸太の状態に切っていく。
薪を作るようではないのでいつもよりも間隔を長くする。
長い丸太を作った後は縦に裂いていく。裂くといっても最初は斧で割り、斧では割れなくなるほど細くなった後は鉈で裂いていく。
そうやって一本の細さと強度を併せ持った丁度良い細長い材料をいくつも作っていく。
木の加工が終わるころには陽が落ちかけて夕方になっていた。
今日の作業はここまでにして出来上がった材料を池の畔で待つカルナのところに持って帰った。
カルナの方は葉っぱを目線の高さくらいまで浮かせていた。
汗をかいているがそれを拭いたりしている様子はない。
カザンが材料集めに出てからずっと休まず魔法を使っていたようだ。
カザンがカルナに近づいて出来上がった材料を地面に置く。
それを見て彼女は魔法を解いた。葉っぱはひらひらと舞うように地面に落ちる。
「それで材料は全部なのか?」
肩で息をしながら話しかける。
「いやまだ骨組みだけだね。明日は接続用の蔓を探しに行ってくるよ。あと風を受けるように葉で羽のようなものを作る感じかな。」
「そうか、明日か明後日には出来上がる感じだな。
それまでに私の方もどうにかしておく。」
カザンが夜ご飯のスープを作っている間、カルナは倉庫魔法を展開させて杖の代わりになる魔道具を出そうと挑戦していた。
しっかりとしたイメージがないと対象の物を取り出すことができない。
今までは杖に頼り切っていた。
それにお気に入りの杖ばかりを使っていたので以前使っていた魔道具がどんなものであったのか鮮明なイメージができないでいた。
倉庫魔法の入り口の異空間からアイテムが出てきては「これは違う。」と言ってまた戻す。
ご飯ができあがるまでその動作を繰り返していた。
夜ごはんが出来上がり昼間と同じように二人で食べる。
食べ終わるとカザンが食器をもって池で洗う。彼はそのまま服を脱いで水浴びもしていた。
今は浄化魔法も効果が薄いので以前のような効果は発揮してくれない。
水着に着替えようにも倉庫魔法から取り出すのに苦労するだろうからやめておいた。
カザンが気持ちよさそうに水浴びする姿を焚火の側でじっと見ていた。
彼が池から上がり体を乾かし終わったころに2人で荷台に入り寝ることにした。
夜中、もぞもぞとカルナが起きる。
彼を起こさないように荷台を降りて焚火があったところに行く。
夜の森は月明り以外のものが何もない。
池があるおかげで空が開けており月明かりが差し込んでいた。
そのおかげでカルナのところは暗さが周りよりもマシだった。
木々が生い茂っているところは闇と言っていいほど光が届いておらず何があるのかさえわからない。
昼間とは違った顔を見せる。
この世界に来た時に魔王城の障壁と攻撃で負傷し遠くまで飛来した。
森に不時着して傷を治すために自身に治癒魔法を施していた。
傷が癒えるまで1日かかり夜になってボスゴブリンを追ってきたカザンと出会った。
あの時は恐怖など微塵も感じなかった。
それなのに今はその夜が怖いと思う。
獣が怖いのではない、魔物が襲ってくるかもと思っているわけでもない。
森が発する闇が自分の心を映しているような覗き込まれているような感覚になるのだ。
昔のことを思い出す。
重犯罪対策チーム。
カルナが警察学校を卒業して配属されたチーム。
警察学校で優秀な成績を収めた彼女には幾多の道が用意されていた。
誰もが彼女に期待したのは出世コースに歩み幹部の一人として職業人生を終えること。
ありきたりだがみなそうなりたくて勉強で好成績を残し厳しい訓練を潜り抜けてきている。
給料も高い、社会的地位も高い、誰もが羨む人生である。
だが彼女はそれを否定した。彼女は王道を行かず現場職のしかも一番過酷と言われているチームに配属希望を出した。
多くの反対を押し切り彼女は重犯罪対策チームの一員となった。
中途半端な獣人。耳としっぽと左腕だけ。獣人の中にいて獣人の力を発揮できないために人間扱いされる。
人間の輪に入ればその見た目により獣人扱いされる。
獣人らしい力もなく、人間らしい見た目をしていない彼女は魔法を極めた。
彼女の努力は実を結び誰もが認める魔法使いとなった、それは同時に誰も近寄ろうとしない孤高な存在にもなっていた。
力を証明する。それが彼女の目的。
一番過酷と言われているところならば自分の力を発揮し居場所もできるかもしれないという願望。
しかし現場上がりの猛者ぞろいの中でのたった一人だけのエリート出身者。
配属初日から腫物扱いだった。
ここでも自分は独りなのかと落胆した。
そんな中でバディを組んだ女の先輩の人間種。男勝りな体格にぶっきらぼうな物言い。髪型もベリーショートであったので初めて会った時は男だと思っていた。
「おいおい、なんだその魔道具は?プロならもっといいものを使わないといけないだろ。」
最初に対面した時に言われた言葉を思い出す。
「これは私が小さい時から使っている愛用のワンドだ。魔法はイメージの力が重要なんだ、使い慣れた道具の方がいい。」
「いやいやさすがにそれはここでは使いもんにならんだろう。まぁ現場で痛い目にあえばわかるか。」
魔法も使えない未熟ものな人間種というのが最初の印象だった。
彼女との相棒生活で数々の死線を潜り抜けてきた、そんなある日の仕事始まり。
「これ使ってみろよ。」
そう言って相棒は新品のワンドを投げてきた。
当時使っていたものよりも太く意匠も細かい、高いものだということはすぐにわかった。
「今日の現場でそれを使ってみ?」
「今のままでも問題ない。余計なお世話だ。」
「前の現場でちょっと限界が見えていただろう。さすがのカルナ様も限界ってわけだ。
隠そうとしてもわかるんだぜ。
まぁ騙されたと思って使ってみ?相性の問題もあるから合わないなら返してくれて構わないぜ。」
まるで男と会話している気分だ。
声もハスキーボイスで男っぽい。
それからというもの私の愛用の魔道具は相棒がくれたワンドになった。
そんな大事な思い出を今のこの瞬間まで忘れていた。
ずっと孤独の中で戦ってきたと思っていた。
自分は過酷な人生を歩んできたのだ、誰にも負けないように孤軍奮闘していたのだと思っていたのに。
彼女との相棒が解消になり、ワンドもさらに高性能なものに買い替えてワンドは長らく部屋の隅の棚に置いたまま放置してあった。
それからは誰とも相棒を組まずにただ独りで仕事にまい進した。
彼女を失い癒されない傷を隠すように。仕事をしていればいつかは忘れる、癒されると思っていたがそんなことはなかった。
異世界に向かうと決めたときに部屋の家具やら家電やら小物やらすべてを倉庫の魔法で収納した。
あれもこの世界に持ってきている。
感情が胸から喉を伝って込みあがってくる。
瞼を閉じると一粒の涙が流れる。
彼女は言っていた。「いつかお前にもベストパートナーが現れる。」と。
当時は世迷言をと思って一蹴したが今なら理解できる。
両手を胸の高さに上げて揃える。
忘れかけていた相棒の顔が浮かび上がる。
倉庫魔法の入り口が開く、ワンドと呼ばれる指揮棒ほどの大きさの魔道具が出てきた。
相棒がくれた愛用のワンドだ。
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