第27話 水浴び ②
そこには池が広がっていた。
湧き水があるのか水はなみなみとたたえている。
荷馬車を池の脇に止めて馬も自由にさせてやる。
馬は喉が渇いていたらしく水を飲み始めた。
カルナも荷台から飛び降りて池の側に腰かける。
カザンは靴を脱いでそのまま池に入っていく。
頭まで水中に潜り数秒してから一気に顔を上げた。
「冷たくて気持ちいいね。」
濡れた髪、肌に張り付く服、少しいいなと思うカルナだった。
彼はそのまま服を脱いでしまう。
そのまま服を洗う動作を行う。
「そんなことしなくても毎晩の浄化魔法で服も体も汚れ一つないぞ。」
ごめん、つい癖でと彼ははにかむ笑顔で答えた。
カルナも入ってみたくなった。
池が見えてくるまではそういう想像をしていたが実際に池を間に当たりにすると入るのに躊躇してしまう。
この世界に来てから風呂というか全身を漬かったことはない。
それはカルナ以外も同じでみんな水で体をふいているだけだ。
勇者一行でさえ旅に出てからはお湯で体をふいているだけという。
こういう機会でもないと全身を漬かるということはできないようだ。
同じ女性のクロエでさえカルナからするとそれで大丈夫なのかと思う。
勇者一行は匂いを気にしてか香水のようなものを振りまいてごまかしている。
カルナはそんな状況を知って水が貴重だとそういうことになるのかとショックを受けていた。
蛇口を捻ればいくらでも水が出てくる。
干ばつのニュースを聞いてもどこか自分とは関係ないと思っていたころが懐かしい。
せっかく異世界に来たのだから水浴びくらいはしないといけない。
そして彼に風呂の文化、せめてシャワーや石鹼で体を洗うということを教えたいと思う。
そう思いつつ彼から見えないように木陰に移動した。
カルナがこちらを見ていたと思ったら何かを決心したように立ち上がって木の陰に隠れてしまった。
僕は何か失礼なことをしたのだろうか。
カルナの世界は池に入ることはしないのだろうか。
この池は良く澄んでいる。魚も泳いでいるので毒の類はなさそうだ。
彼女が隠れた木を見ていると淡い光が漏れ出てきた。
魔法の光だ。
何の魔法を使ったのだろうか。
すぐにカルナが木の陰から出てくる。服装が変わっている。魔法で着替えたのか。
あの服も街からもらってきた服なのだろうかと思い見てみるがどうやら下着のようだ。
女性は肌を隠すのが当たり前の環境の中で育った彼には下着姿の彼女の姿は煽情的に映る。
カザンは毎日仕事尽くめで異性との交際経験などなかった。
男兄弟の長男として育ち弟たちのために家族のためにと父とともに働いていた。
街に知り合いもいるが遊んでいられるほど家計に余裕はなかった。
「カルナ、その下着は何?」
「何って水着?」
「ミズギ?」
聞いたことがない単語だ。
お互いに”?”が頭に出ているようだ。
カルナは右手に持っている杖を近くの木に立てかけてから池に歩いてくる。
「下着じゃないの?」
「下着では水に入らんだろう。水に入るための服だ。」
「どちらかというと服っていうよりは下着に近いような。」
上下に別れたそれは胸と下腹部を隠しているだけだ。
上着も来ていなければ、スカートすら履いていない。
それを服というのは無理がある。
「カルナの世界ではそういう服があるのか。」
「・・・この世界には水着はないのか。前に服は高級品だと言っていたな。
それなら水着などないか。
この世界の女どもは水浴びしないのか?」
カルナはこの世界の文化に疑問を思いつつ水の中に入る。
冷たくて心地よい。足は冷やされ上半身は陽の光を浴びて熱い。
身体に冷と熱が同居する感覚が実によかった。
そのまま腰まで水に入る。
底は苔があるためにつるつるしていて滑りやすい。
これが天然の池なのかと思う。
ゆっくり動かないと泥が跳ねてしまうのではないかとも思う。
「気持ちいいわ。」
「そうだね。」
2人で頷き微笑んでいた。
「さっき魔法を使ったみたいだけど何の魔法を使ったの?」
「魔法で倉庫においてあるこの水着を一瞬で着替える魔法よ。」
「倉庫?」
そういえばカルナはリュックらしいものを何一つ持っていない。
普段はローブに体が隠れているがポーチも持っていないようである。
出会った頃に荷物は魔法でしまってあるわ。と言っていたがそれが倉庫の魔法ことなのだろうか。
「それはどんな魔法なの?」
「ふっふーん、特別に教えてあげる。」
水面に器用に浮きながら彼女は話し始めた。
倉庫魔法とは持ち物を魔法で作った異次元の空間に収納でき自由に取り出せる魔法なのだそうだ。
カルナはそれで元の世界の自分の部屋のほとんどすべての物を倉庫にしまっているという。
「こっちでも電気とか使えたなら家電も使いたかったわ。」
彼女は異世界の単語を呟く、貴族や王族よりもいい生活ができる世界から来たのだ、こっちは不便で仕方ないのだろう。
「でもこうやってプライベートビーチとかでもないのに自然を独り占めできるのは素晴らしいわね。」
カルナの世界では自然を楽しむために遠くまで移動しないといけないらしい。
自然を感じるために旅行するというのはイメージができない。
聞いているだけで不思議な世界だと感じる。
もうそろそろあがって服を乾かそうかという話をして岸辺の方を見る。
そこには荷馬車とカルナの杖が立てかけているはずだった。
カザンの身長を優に超えるほど大鷲が彼女の杖を足で掴んでいた。
いつの間に?
と思う。その鷲と目があう。
気づかれたかと言いそうな感じで空を見上げ羽を広げた。
その大きさだけで荷馬車と同程度である。
カザンも始めて見る鳥だ。
魔物かと思ったが瘴気を発していないので本当にただ大きい鷲なのだろう。
翼を羽ばたたかせる動きをする。
こちらにもそよ風程度であるが風圧を感じる。
隣にいるカルナが目を見開いて慌てている。
「ダメよ、ぜったいダメ。それだけはだめー!」
「カルナ、魔法だ!」
そう叫ぶと彼女も今まさにその魔法を放った。
風の刃、ウィンドブレード。
ゴブリンを数体切り裂いた魔法だ。
倒せなくてもびっくりして杖を放すだろう。
風の刃が鷲に当たる。
当たったはずだが鷲はそれに気が付いていないようで翼を大きく上下させ今まさに飛び立とうとする。
カザンが陸に上がろうと進むが水の中ということもあり早くは進めない。
その間もカルナが必死に魔法を放っているがどれも効いている気配がない。
彼が岸に着いた時、鷲はその巨体を空中に浮かび上がらせて空高く飛んで行った。
カルナは鷲が見えなくなるまで魔法を放っていた。
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