第26話 水浴び ①
聖堂前に戻ってきた。
一部の人は昼ごはんの炊き出しの準備をしている。
それ以外の人は瓦礫の撤去に勤しんでいる。
「私たちはもう街を出ることにするわ。
次の街の魔物を倒しに行く。」
カルナがエルンストたちに宣言するように言う。
「そうだね。それがいい。ここのことは僕に任せてくれ。」
彼が握手の手を出してきた。カザンがその手を取って握手をする。
エルンストが勇者学校に行ってから遠い存在になったのだと思っていた。
それがこうして握手をしても彼の顔を直視しても恥ずかしいとか自分には相応しくないとかいう気持ちが湧いてこない。
自分が成長できたのだと実感する。
カルナは荷馬車の荷台に乗り、カザンが荷台の前についている御者台に座る。
街の人たちも作業の手を止めてお別れの言葉を投げかけてくれている。
見えなくなるまで彼らに手を振りつつ馬を操っていた。
門は瓦礫に埋まっていたが荷馬車が通れるくらいにカルナが魔法で瓦礫を除去してくれた。
「瓦礫を簡単に除去できるなら手伝ってあげてもよかったんじゃない?」
「そんなの彼らのためにならないわ。
私たちには目的地があるの。この街のことは彼らに任せたのだから彼らが責任を持ってやらないと。
親切のつもりで手を貸したなら今度はいつまで経っても出発できなくなる。
あの手この手で足止めを食らうわよ。」
まるで経験してきたかのようなセリフだ。
カルナの方を振り向いた時にあるものが目についた。
アインザックからもらったお金である。
「復興にお金かかるからそのお金をいくらか彼らに渡した方がよかったかな。」
「こんなの復興にかかる費用の足しにもならないわ。
それにあの剣とか弓とかの実家って商売とかしているんじゃないの?」
剣・・・エルンストのことか。それなら弓はクロエか。
そういえば村にいたときはアインザックのことを槍の方って言っていた気がする。
「勇者学校に通えるほどの人たちだから実家はみんな裕福だと思う。」
「それならこういう復興はお金儲けに最適ね。
彼らの両親がこのことを知ったら喜んでお金を出すでしょう。
復興して街が機能したらいくらでもお金を生んでくれるわけだし。」
「そこは親切心とかじゃないんだね。」
「そりゃそうよ。こういうときでも商人の頭の中は損得勘定でいっぱいよ。」
あの人の好さそうなエルンストの父もそうなのだろうか。
そういう姿を見せないところに本当の凄さがあるのだろうなと思う。
エルンストたちから勇者学校の実情についても教えてもらったことを思い出す。
元々貴族や有力者の子弟は王立軍訓練所に通うのが伝統だったらしい。
しかし訓練所は国軍の士官を養成するための学校であり生半可な気持ちで入ったら後悔するような場所でもあった。
自分のかわいい子供を鍛えてほしいという要望があるがきつすぎる訓練所には入れたくない。
そういう親の要望で生まれたのが勇者学校なのだという。
国の財政は魔物との戦いで余裕はないため王立と冠しているが貴族などからの出資によって建てられたそうだ。
王が意味のあるものにすべし、と指令を出し勇者を育成するという目的が付与された。
なので建前上は勇者を育成するための学校だが実態は貴族や有力者の子息、令嬢が人脈を広げることを目的に入学することがほとんだという。
歴代の勇者として卒業した者も街で盛大に見送られた後は実家に隠れてほとぼりが冷めるのを待ち、みんなが忘れたころに社交界で元勇者の称号を使って商売や出世をしていくというのがほぼ慣例になりつつあった。
庶民が抱いている理想像とはかけ離れた姿になってしまっていた。
そんな中で本当に魔王を倒そうと学業に励んでいたエルンストは相当な変わりものだったようだ。
クロエがそう話してくれた。
王はそんな勇者学校を逆手にとって彼らを隠れ蓑にして独自に訓練所で諜報部隊を養成し世界の状況を調べているという。
今はまだそのネットワークが頑強ではないため”諜報”と裏方を表すような看板を立てているがそのうち本来の目的である魔王討伐の狼煙を上げるだろうというのがエルンストの予想だった。
荷馬車が小高い丘を越える。
丘に隠れて見えていなかった景色が一望できる。
遠くにではあるが広大な森が広がっていた。
森を越えた先に魔王軍が支配する拠点の都市がある。
その森へ続く道を進む。
「こんな立派な森をこの目で見るのは初めてだ。」
「たしかにすごい広い森だね。立派な木がたくさんある。いい薪が取れると思う。」
薪職人として多くの木を切り倒してきた血が騒ぐのかカザンはきょろきょろと周りの木を見ていた。
「木なんてどれも一緒だろう」
そんな彼を見てカルナが呟いた。
「そんなことはないよ。木の種類によって水分をどれだけ含んでいるのか、硬さはどうか、いい香りがするのかとか種類によって違うんだ。
木を伐ったらすぐに薪として使えるわけじゃない。
雨のかからないところで乾燥させないといけないんだ。
それに斧が入りやすい木、切り倒しやすい木ってのもあるんだよ。
木材用として植えられているところはそういう種類だけを植樹しているんだ。」
普段の遠慮がちな話し方の彼とは違い軽快な口調で話す。
木の香りっていうのは知っているが興味が湧かない話題にカルナはテキトーな相槌を打っておく。
その相槌で聞いてくれていると思ってくれたのか彼の口調がより得意げなものなっていく。
本来はこれほどしゃべる性格だったのかと、違うところが気になるカルナであった。
そんな彼の説明をBGM代わりに聞きながら荷台でくつろいでいるとき、水音が聞こえてきた。
「ちょっと止まれ。」
カルナが静止を命じる。
すぐに馬を止めるカザン。
「どうしたの?」
水の音がする。
カルナはある想像をしながらその水音がどこから聞こえてくるのか聞いていた。
カルナが手で先に進めるように促したので再度馬を進める。
今度はゆっくりで荷馬車の音がカルナを邪魔をしないにする。
少し進んだくらいから彼の耳にもその水音が聞こえてきた。
「こっちに行こう」
カルナが道から外れた方向を杖で差す。
そっちから水音がする。地面を見てみると道としては整備されていないが草は伸びておらずいくらか土がむき出しになっている。
日常的に誰かがこの道ではない道を通っているのだろう。
カルナが示した方向に馬を進ませる。
荷馬車でも通れるほどに広い。
そのまま進むと正面がキラキラと光って見えてきた。
水面に陽の明かり反射しているのだ。
それを見てカルナが荷台から身を乗り出して眺めている。
瞳に水面の反射が映っているのかキラキラしているように見える。
ひさびさに水浴びもいいなと思うカザンであった。
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