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野良勇者と獣人魔法使い娘の魔王討伐  作者: オツタロ


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第23話 槍と弓の決闘

村の広場に移動した。

何が始まるのかと村人たちも農作業などの手を止めて集まってくる。

エルンストが村人たちに簡単に事情を話して危険がないように下がるように伝えている。


アインザックの得物は槍。

柄に緻密な装飾がされており一兵士が持っている量産品のものとは違う。

高価なものであるとわかるがそれでいて実用向きな面も兼ね備えている業物。

服装は鎧を着ておらず普段着のままだ。

スピード重視なのだろう。

クロエの得物は弓。弓は黒一色で模様などの飾りはない。

ぱっと見ただけではその価値はわからないが弓一筋で成績は次席にまで登りつめた実力の持ち主だとエルンストは言う。

服装は軽装備を身にまとっている。弓兵の場合の戦闘スタイルだそうだ。

アインザックとは相性が悪いらしく模擬試合では勝ったことがない。


2人が距離を開けて対峙する。

カルナが杖を光らせて二人に保護魔法をかける。

「本気で戦っても傷一つつかない。

勝敗は保護魔法と一緒にかけてあるもう一つの魔法で計測する。

圧力を図ることができるのでこれで実戦の場合に致命傷になりえたかどうかわかる。

ただし致命傷でない部位にいくら当てても意味はない。

致命傷になる部位に一撃を与えたものを勝者としノキマの街に連れていく。」


開始の合図は僕にやらせてほしい。

エルンストが右手を上げた。

両者がにらみ合う一瞬の間が開きエルンストが「開始!」と言い同時に右手を下ろした。

即座に動いたのはアインザック。姿勢を低くして槍を構えて突進する。

対してクロエは弓を構えて微動だにしない。狙いを定めている。


「模擬試合では弓は間合いに入られたらその時点で負け判定だったんだ。

だから入学当初弓を選んだ学生も模擬試合で他の武器よりも不利だと知ると弓を止めてしまう。

その中でクロエは弓をずっと使い続けていた。」

「でもそれって弓にあまりにも不利な条件だよね。」

「でも実戦だとそれが正解になる。弓は最初の1本目で相手の動きを止める一撃を与えれないなら2本目を撃つ前に斬られるか、突かれるかするからね。

近距離戦では弓に勝利の余地はない。

間合いに入られたら負けと言うのはあながち間違いではない。」

エルンストの冷静な分析。

遠距離の弓と近距離の槍。弓は矢を構えて弦をしならせて狙いを定めて撃つ。

動作としては槍や剣よりも時間がかかる。

戦場のように相手と十分な距離があって複数人の弓兵がいれば強いのだろうが今は1対1。

たしかに彼の言う通り弓は不利だ。


撃ってこい。その一発を外せばお前は終わりだ。

今まで何度もその矢を弾き、避けてきて。

今日はどちらにしてやろうか。

獣人女のせいでむしゃくしゃする。

クロエは嫌いじゃないが運が悪かったな。


アインザックの攻撃範囲にクロエが入った。

それでもクロエは動かない。彼を凝視している。

槍がクロエの胸めがけて発射される。

神速。

そう言って差支えがないほど彼の槍さばきは早い。

部屋でのアインザックの一撃、誰もそのスピードについていけなかった。

一瞬のうちに槍がカルナの右目を打ち抜こうとした。

きっとカルナ自身も突かれた瞬間はわかっていなかったのでないかとカザンは思っている。

その一撃が今クロエを刺そうとする。

クロエが態勢を崩す。

膝を降り、背中を反る。背中から倒れる形で姿勢を低くする。

それでも弓の構えは解いていない。

下から撃つ構えだ。

槍が発射されてから動いたのではない、彼が間合いに入ったときにそのように動くと決めていた。

近づく彼に弓を撃つのではなく彼が槍を発射し攻撃が空振りになった瞬間に至近距離から弓を放つ。

何度も負けてきた彼女が編み出した1対1での弓での近接戦闘。

だがそれすらも彼は読んでいた。

槍を発射し槍が前進する途中、左手で槍の柄を持つ。

即座に槍の刃に近い方に両手の位置を変えて柄の部分を長くする。そのまま柄の後ろにある普段は地面と接する部分、石突(いしづき)と呼ばれる部分でクロエの顔面に叩きこむ。

寸でのところでクロエは背中をよじり石突は地面に突き刺さり、彼女の矢がアインザックの体を射抜くために発射される。

石突による刺突と矢の発射が同時であったので互いに狙いが外れてしまった。

地面に刺さった石突を抜くのに数瞬の間で彼女は受け身を取り姿勢を持ち直して距離を開けた。


放たれた矢が空を描き村の畑があるエリアに飛んでいく。

このままでは人に当たってしまうかもしれない。

カザンとエルンストの両方が矢を目で追った。

カルナは二人の戦いに夢中で矢に気を留めていない。

今から矢が飛んで行った方向に走っても間に合わないかもしれない。

当たる確率は低いが当たったらひとたまりもない。

エルンストがカザンに静止のジェスチャーをした。そして足元にあった石を拾いそれを飛んでいる矢にめがけて投げた。

普通なら当たらないだろう。エルンストが投げた石は当たり前のように矢の先端に当たった。

方向を乱された矢はふらふらとよろめきながらポトリと落ちてしまった。


矢が地面に落ちた頃再びアインザックとクロエはにらみ合っていた。

距離は槍2本分。

彼が大きく一歩踏み出せばそれで槍の間合いに入る。

クロエは弓を水平に持ち二本の矢を構えている。


「2本複射だね。クロエの持つ技の一つだ。クロエは複射と連射の達人なんだ。」

「どう違うの?」

「今2本とも弓に当てて構えているのが複射。射程は短いけど2本放たれるので相手は両方防ぐのが難しい。連射は手に矢を2本以上持っていて1本放ってすぐさま次の矢を放つ。

矢筒から矢を取る時間分早く撃てる。クロエの本気が見れて嬉しいよ。」


どちらが本命の矢だ?

弓の構造上2本以上まともに打つことはできない。

1本はダミーとして見ても問題ない。

この距離で当たったらどちらも刺さるだろうが致命傷の位置でないなら問題ない。


アインザックが腰を落として槍を構えた。

さっきまでの突進と同時の刺突とは違う槍術本来の構え。

彼が槍の穂先をゆらゆらし狙いを定めた瞬間、クロエは矢を放った。


その2本の矢を冷静に見て槍の先で弾きそのまま一歩進める。

それと同時に槍をクロエに突き刺す。

クロエは彼の動きを読んでいたかのように彼が矢を弾き、一歩踏み出すと同時に後ろに飛んだ。


これで決まった。

最後は正面からの突き。

単純故に素早く避けづらい。

腹に一撃穴をあけてやると思い槍を出した瞬間に目の前に弓と矢と矢筒が飛んできた。

武器を投げたの目くらましか。武器の放棄は模擬試合なら即失格。騎士の名折れだ。

実戦とは言え無様。騎士らしく一突きにしてやろう。


「そこまで!」

エルンストとカルナが同時に叫んだ。

その声に驚きアインザックの槍は途中で止まってしまった。

あと少しでクロエの腹に当たるところで動作が止まってしまった。


「何なんだよ。まだ当たってないぞ。

せめて一突きしてから試合終了にするのがルールだったはずだろ?」

アインザックがやれやれとした感じで槍を地面に突き刺す。


「きちんと当たったよ。気が付いていないのかい?」

エルンストがそんなことを言った。

何を言ってやがるまだ俺の槍は当たってない。

クロエの矢は2本とも弾いて弓も矢も矢筒すら投げてきた。どこに武器があるというんだ。

クククと下を向いた瞬間額から何かが落ちた。

それは小さな刃物だった。

そして胸にもその刃物は刺さっているようだ。

魔法のおかげで実際には刺さっていないが胸のところで横に突き刺さる形でそれはあった。

「暗器?なんでこんなもんが?」

暗殺用に使われる小さな刃物上の武器である。

小さいので袖に隠したりしてすれ違いざまに刺したり、投げたりする。

戦場では役に立たない武器だ。

なんで俺に刺さっているんだ。

クロエを見ると、右手には何も持っていないが何かを投げたかのような振った構えをしている。

弓を投げたからだろうか。

もう片方の手には2本の細長い刃物で投げの構えをしていた。

「投げたのか?」

クロエに聞いた。

「そうよ。」と短く答えた。


俺が負けたのか。

頭が真っ白になった。


カルナが歩いて二人に近づいていく。

「槍の方は油断していたな。実戦だとあんだけ言ってやったのに何の防具も身に着けずに戦った。

お前が頭と胸に軽装備でも身につけていればこんな刃物、何のダメージにならなかっただろう。

しかしお前は服しか来ていない。それでは眉間と胸に刺さった場合は致命傷になる。

突き刺さった瞬間、お前の視界は暗転し、力は入らず、惰性で槍を突き刺す。

そんな攻撃では弓の方の軽装備に穴をあけることができん。

お前の負けだ。」

カルナの後ろに続いてカザンとエルンストも歩く。


「認めねぇ。こんなの戦場じゃあ何の役にもたたねぇじゃねぇか。俺は負けてねぇ。」

アインザックが再び槍をクロエに向ける。

今度は構えない、槍を持った右手だけでクロエを突き刺す動作。

カルナはそれがクロエに対する攻撃とわからず気づくのが遅れた。

カルナの数歩後ろを歩いているカザンは攻撃もモーションにすら気づいていない。

クロエ自身も構えを解いて油断しきっている。エルンストの方を向いて微笑んでいる。

ただ一人彼だけが槍の動きに気付き走った。

槍がクロエの腹を刺す直前に槍の柄を掴みその動作を止めた。


「負けを認めるんだ。アイン。

負けを認めることは成長に欠かせない要素だと、そう教わっただろう。」

アインザックの耳元でエルンストが普段と変わらない口調で語りかける。

彼の槍と手が少し震えたような気がした。

「あー俺の負けだ。完敗だよ。」

そう言って槍から手を放して両手を上げる。

「負けましたよ。まさか暗器を隠しているなんてわからなかった。降参だ。」

エルンストがうんうんと頷いて槍を地面に突き刺す。

カルナは反応が遅れたことが自身のプライドを傷つけられたのか後ろに下がってカザンの横についた。


「でも暗器なんていつの間に習得していたんだ?

学校の武器選択には暗器なんてないだろ?」

訝しむ表情でクロエを見るアインザック。

「まぁ正規の授業では使わないわね。

女には女の戦いがあるのよ。」

「・・・いや、意味わかんねーよ。」

クロエの答えに納得ができないアインザックである。

エルンストは武器を2種類も使いこなすなんて勉強家だね、と感心していた。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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他にも投稿していますので読んでいただけましたら幸いです。

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