第22話 メンバー選抜
朝、日が登り始めた頃カザンとカルナは村に向けて荷馬車を走らせた。
「あのローブ燃えちゃったね。」
グリフォンとの戦闘で炎弾によりカルナが異世界から着てきたローブは燃えてしまった。
「正直油断していたわ。
あれだけ聖堂をぼこぼこに潰したから反撃されないと思っていた。
まさか炎弾を食らうとはね。」
荷台からカルナが答えた。
「あのローブはお気に入りだったの?」
「私の世界だと魔法使いってのはああいう恰好するのがお決まりなのよ。
なんていうか世の中の喧騒から距離を置いているって雰囲気を醸し出すの。」
「ということはカルナの世界だと町中の人があんな格好をして歩いているってこと?」
「普段はあんな格好していないわ。
それにあの服はただの服ではなくて耐魔法防御が編み込まれた繊維で作られていたの。
あのローブがなかったら私もただでは済まなかったわ。」
「そんなすごい服だったんだね。」
「思い出の品でもあったけどなくなってしまってはしょうがないわ。」
「もしかしてだけどその杖も魔法の効果があったりするの?」
「これ?そうよ。私の魔法のレベルが低いのにまぁわりかし使えているのはこの杖のおかげね。
魔法の効果を高めることができるのよ。」
「じゃあカルナの世界だとみんなそういう杖を持って生活しているんだね。」
「そんなわけないでしょーが。
魔法の力を補助する道具はたくさんあるわ。
女の子に人気なのは髪飾りタイプね。
おしゃれアイテムになる上に魔法の力も強めてくれるし。
私は使い慣れたこの杖だけで十分だけど。
私もそういうおしゃれ系魔道具はたくさん持っているわ。」
「そうなんだ。やっぱりカルナも女の子なんだね。」
「どういう意味よ。」
カルナが訝しむ目でカザンを睨む。
失言してしまったと思い正面を向いた。
しばらく無言で馬を進める。
山道に入り木々の葉が奏でる音に耳を澄ませていた。
そのままお互い話すこともなく村に辿り着いた。
村に着き村長の家にいるエルンストに会いに行く。
「ノキマの街の魔物を倒したのか!」
ノキマでのことを伝えるとエルンストとクロエの2人は驚いていた。
「人が魔物に打ち勝つなどおそらくこの国では初めてのことだ。
これは早速王に報告しないと。
そうなればカザンも正式な勇者になれるはずだ。間違いない。
正式な勇者になれば失礼な対応をされることもないし、その名が正式な記録として残り末代まで語り継がれる。
早速王に遣いを走らせよう。」
「それは遠慮しておくわ。」
エルンストの提案をカルナが拒否した。
彼女の言葉としては優しい言い方だなと思う。
「それはどうしてだ?理由を聞かせてもらえないかな。」
「その勇者の認定ってのはどれくらいかかるものなの?
私たちは先を急いでいるわ。
足止めはごめんよ。
ここにはノキマから逃れてきた人を連れに来たのと復興の際にリーダーとして指揮する人を選びにきたの。
勇者の認定証なんて持っておいて力が強くなるわけでもないし。
逆にそういうのを持っていることでトラブルになることも考えられるわ。」
カルナの意見にエルンストは少し考えて。
「認定証を手に入れれば今後も役に立つと思うのだけれど。」
「今後も・・・ね。はっきり聞くわ。世界はそれほど魔王に侵略されてないんじゃないの?」
その発言に彼とその側にいるクロエが息をのんだ。
「魔王によって滅ぼされた国や街はあるんでしょうけど、単に連絡が取れないだけでまだ支配されていない地域がそれなり残っていると思っているのだけれど?」
「それも魔法の力でわかったのかな。」
「こんなの魔法の力を使うまでもないわ。
持てないほどのお金を餞別に渡したりなんか、あんな奇妙なことをしない限りはね。」
「あのバカ・・・」
クロエが毒ついた。
「そうだね。ノキマの街を開放したのだからもう言ってしまっても問題ないだろう。」
そう言って彼はこの世界の秘密にされていることを話してくれた。
・王国の他に魔物に対抗して戦っている国があること。
・人間の中に魔王軍の協力者がいること。
「なんで人間が魔王軍の味方をしているんだ?」
「それは・・・」
カザンの質問にエルンストの言葉が詰まる。
「最初に味方に付いておけば魔王がこの世界を本当に支配した時に人間の中で一番高い地位につかせてくれるって魂胆ね。」
カルナの言葉にエルンストは頷いた。
「そして魔王軍に味方をしているのはこの国にもいるんだ。」
「驚くことじゃないわ。それで合点がいったわ。
諜報部隊をまとめているのは王ね。王が敵と内通していたらそもそも毎年勇者を任命しつつ裏でこそこそする理由はないもの。
それならなおのこと私たちの存在は秘密にしておかないと。
そうね・・・とりあえずノキマを開放したのはあなたたちってことにしておきなさい。
そうすれば魔王に与するやつらも事実確認に時間を要するはずよ。」
「それは事実を捻じ曲げることになる。カザンの命がけで成し遂げたことを何もしていない僕が横取りするなんてできない。」
「きれいごと言ってんじゃないわ。
そもそもあなた、自分のこと囮だとか言っていたじゃない。
それならこのくらいの道化を演じなさいって言ってんのよ。
敵は魔王軍だけじゃない、味方だと思っていた内部にも敵は潜んでいるならまずその味方から騙さないといけない。」
カルナの奇をてらう提案に誰も反論できなかった。
「それにね・・・まぁ僕は気にしてないっていうか。野良勇者っていうのも悪くないかなって思っている。
ノキマの街でさすらいの騎士って言われて格好いい響きだなって思ったんだ。」
その言葉にエルンストは諦めたようだ。
「わかった。僕には僕にしかできない戦いをすると言ったからね。
存分に道化を演じさせてもらうよ。」
エルンストはカザンに右手を差し出した。
その右手をカザンが手に取り互いに握手する。
ノキマの街の復興を指揮するために勇者一行の中から誰かを連れていくことになった。
その話し合いを行っている。
「この街の治安維持にはもう少し時間がかかる。
今王都に使者を出して違法な奴隷売買が行われていたことを告発している。
勇者が山賊になっていた件も併せてね。
これは荒れることになるから僕らのうち誰かがその対応をした方がいい。」
「勇者はノキマ奪還の立役者を演じてもらうから連れて行くのは決定としてあと1人か2人は連れて行きたいわね。」
「それなら俺がエルンストについていくぜ。
復興となりゃ。王からの支援も必要になるだろう。俺の家の力を使えばそのあたりはうまくいくと思う。」
自分の家の政治的な影響力も自分の実力と疑わないアインザックが言う。
「街に魔物がいないのだから支援はすぐに来るでしょう、わざわざ家の力を使う必要はないわ。
彼が指揮を執るならそばで支える人が必要よね。
私が適任だわ。」
クロエがノキマ行きに立候補する。
「ザッハは逆にここで1人残っても告発についてのやり取りで弁が立たないからノキマに行った方がいいよね。
残念だけど消去法で考えるとあなたがこの村に残るべきだと思うのよ。」
残念だわと感情のこもってない声でクロエが話す。
「いやいやエルンストの統率力はクロエがいなくても変わらないんじゃないか。
ノキマにもそういうサポートができる人はいるだろうしクロエがここに残っても問題ないだろう。」
「は?」
クロエがあからさまにキレてアインザックを睨む。
カザンはエルンストに小声で話しかけた。
「エルンストと彼らってどういう仲なの?」
「勇者として一緒に魔王を倒そうと決意した仲間さ。」
はにかむ彼の笑顔が眩しく感じるカザンである。
「クロエもアインザックもお互いをライバルとして切磋琢磨し合っている友達さ。」
カザンの後ろで隠れるように移動したカルナが小声で「ステータスオープン」と言っている。
1人だけ彼らの能力を見ているのだろう。
その画面は彼女にしか見えないのでどういう表示がされているのかわからない。
クロエとアインザックが学生時代の話にまで遡って何やら言い合いをしている。
エルンストは「そういうのあったよね。ついこの間のことなのに懐かしいよ」とつぶやく。
ザッハは終始無言で直立不動だ。彼の声を聴いたことがない気がする。
元村長の部屋は広いが6人もいると手狭に感じるし喧騒さが目立ってきた。雰囲気が一気に悪くなった。
どうにかして場を沈めないとと考えていると。
カルナが口を開いた。
「戦って決着をつけなさい。」
その言葉にクロエとアインザックが彼女の方を向く。
「ノキマの街は魔物が消えたとはいえ魔王軍の最前線であることに変わりないわ。
また魔物が侵攻してきたときは命を捨てて戦ってもらうことになる。
少なくとも住民を避難してもらわないといけない。
強い人が行くといい。」
「そうだな。それなら俺で決まりじゃないか。なぁ。」
アインザックがクロエの方をにやりと見る。
クロエが一歩引いた。
「確かに学校での模擬試合ではクロエは一度も彼には勝てていない。
アインザックの方が適任だろうね。」
エルンストがそう言ったとき。
「実践と模擬試合は違うわ。模擬試合なんてどこまで行っても遊びの延長よ。
あなたたちは山賊との戦いで現実を知ったはず。
今の強さは以前のあなたたちとは違う。」
「たしかにそうだがそれなら同じ経験をした俺とクロエなら俺が勝つじゃないか。
それに俺は貴族だぜ、女性を殴るような真似はできない。」
「戦いに男も女もないわ。そういう態度気に入らないのよ。負けるのが怖いんでしょ。」
アインザックの言葉にクロエがかみついた。
またお互い睨み合う。
「お前たちが本気で戦っても怪我をしないように私が保護魔法をかける。
怪我の心配はしなくていい。」
「それでも俺の槍の刺突だと体に穴があいちまう。嫁入り前の娘にけがを負わせたなんて広まったら家の名に傷がつく。」
「雑魚が吠えるな。できもしないことを言うのは詐欺師だけで十分だ。」
アインザックがカルナを睨みつける。
「私を刺してみろ。槍はどこに置いてあるんだ。あー隣の部屋にあるな。早くとってこい。」
「いやいやだから俺が刺したらー」
「雑魚が吠えるなと言っている。何度も言わせるな猿。」
カルナの煽りにアインザックが憤怒の顔になる。
「貴族きぞくうるさい。家の力を頼らんと何もできないって自己紹介は聞き飽きた。
お前のその取るに足らん実力を測ってやるって言ってる、早くしろ。」
そう言うとカルナは右手に持っていた杖でトスンと床を叩く。
アインザックの横に彼の得物である槍がカランと音を立てて現れた。
「私の魔法で取ってきたやったぞ。ほらさっさとやれ、お前の刺突で私を刺せるんだろ?
現実を見してやる。」
アインザックはカルナを睨みつつ槍を取り構える。
「今ならこれまでの侮辱した発言を取り下げれば許してやる。
獣人の化け物め。」
「猿が」
カルナが言い終わる前にアインザックの槍がカルナの顔面を刺した。
カルナの右目の指一本分のところで槍は静止している。
アインザックが止めたのか、いや彼の動作はまだ終わっていない、しかし動けないでいる。
槍は動作の途中で止められて体の方の動きが途中なのだ。
「保護魔法の力がわかったな。表に出なさい、そこの女と本気で戦えばいい。
学校でのお遊びとは違うってことを知れ。」
刺突の構えを解きアインザックは「いいぜ」と口にした。
クロエも無言でうなずいた。
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