第20話 グリフォン決戦
「何か作業を始めるときその成否は準備の段階で決まっている。」
カルナが何かを言い出した。
頭のいいことのような当たり前のことような、そんな言葉だ。
自分の今までの人生でなにがあるかなと想像してみる。
「さあ戦いを始めるわよ!」
カルナが言うと街の四方から巨大な岩が空を飛んできた。
それは街中央にある聖堂に次々と衝突していく。
その光景はさながら投石機による攻撃を彷彿とさせる。
聖堂の屋根や壁が破壊されていく。
破壊された箇所から黒や紫の瘴気が溢れ出てくるが、外に漏れた瘴気のガスはまたたく間に蒸発して消えていく。
中からボスゴブリンが顔を出すが飛んでくる巨石に粉砕されてその全体像を見せることなく消えていく。
彼女が魔法で巨石を飛ばしているんだ。
いつのまにそんな準備をしていたのか。
何も考えず周りの景色をただ眺めながら歩いていた自分と違い彼女は街に点在する巨石を探していたのか。
聖堂に向かって歩いている時の姿を思い出す、どこか心ここにあらずと言った様子だった。
杖を優雅に振りながら巨石や家の一部と思われる大きな端材が聖堂を攻撃している。
優雅な動きとは似合わぬその威力に驚く。
「カザンな周りの雑魚を片付けてその間に次の準備を終わらせておくわ。」
自分の役割を忘れてはならない。
彼女がいるこの物見台を守らなければならない。
下を見渡すとボスゴブリンが3体近づいてきていた。
手には何も持っていない。
カルナが強化魔法を付与する。
「それじゃあ行ってくる」
その言葉に彼女が頷いた。
剣を抜き物見台の手すりを越える。
そのまま下にいる敵の真上に落下した。
脳天に剣を突き刺し落下の力でそのまま頭ごと押しつぶす。
頭は胴体にのめり込み倒れた。
2体目もすぐ近くにいた。
走りすぐさま家の壁を蹴る。
その反動を利用して敵の顔近くまで跳んだ。
敵が両手で掴もうとする前に縦に一閃頭から切り捨てた。
3体目。走って数秒程度で真下に来る。
腰を落として力を入れ敵の両足を一気に斬る。
巨体が覆い被さるように落ちてくるが胸を一突き心臓を破壊して体が霧散して消えた。
魔物は死ぬと霧散して消える。
最初から居なかったかのように血糊でさえ消えてしまう。
これが魔物との戦い方なのだと感覚として身体が覚える。
4体目、5体目もこちらに近づいてくる。
カザンに負けるという想像はなかった。
その光景を物見台からカルナは眺める。
最初はただの村人だと思った。
何の才も学もない人がここまで戦えている。
最初遠視で彼がゴブリンと戦っている姿を見た時は初心者のそれだった。
拙い、今日初めて剣を握りましたと言わんばかり。
隣の兵士の動きを真似て剣を振るうだけの存在。
相手がゴブリンでなかったら死んでいただろう。
運よく数体のゴブリンがちまちま攻撃してきたからこそ生き残れたにすぎない。
それがボスゴブリン、山賊との戦闘での動きが見違えるようになった。
一回の戦闘で最大限の成長を遂げている。
これほど他人の成長が胸踊る気分にさせてくれたことはない。
以前の自分ならこんな気分にはなっていなかっただろう。
周りは仲間であると同時に限られたポストを奪い合うライバルでもある。
成長して戦力が増えるという嬉しさと自分が追い出されてしまうのではないかという焦り。
今は違う。
心の底から彼の成長を喜べることが嬉しい。
彼はもっと強くなるだろう。
彼のステータスを見る。そこには以前と変わらない表示が映っている。
能力なし。
最初は自分の魔法のレベルが低いせいだと思った。
しかし彼の戦い方は洗練されてきている。
それでもノーアビリティなのだ。
ステータスで全てが決まる世界にいた彼女からしたら信じられないことだ。
今彼は10体目のボスゴブリンを倒したところだ。
既に強化魔法は切れている。
それでも動きは落ちていない。
「愚かな人間どもめ。おとなしく蹂躙されておればいいものを。」
聖堂の中から低く響くような声がした。
建物がボロボロになりとうとうその姿を現した。
どんな姿をしているのかと思い聖堂だったものを凝視する。
突如聖堂から黒い炎弾が発射され物見台に直撃した。
物見台は粉々になり崩れ落ちた。
突然の攻撃にカザンは動きをとめ物見台のカルナがいた場所を見た。
土煙が風に流され薄くなる。
その空中にカルナは浮いていた。
ローブは焼け焦げたようで既にない。
彼女の異世界の服が露になっていた。
彼女が両手を広げて何か祈りのように捧げている。
その間にも破壊された聖堂からはボスゴブリンが何体も出てきた。
まだ彼らのボスは姿を見せていない。
カルナが詠唱を止めて杖で聖堂を指すと聖堂から火の手が上がった。
獣の呻き声が響いた。
焼かれて苦しんでいる。
そう思ったとき聖堂の中から一匹の猛獣が姿を表した。
頭は鷲、体は獅子、尾は蛇で翼を持つという。
その尾の蛇と鷲の目がそれぞれカルナとカザンを睨みつけていた。
(やっとお出ましになったわ。
ボスゴブリンをいくら倒しても意味ない。
グリフォンを倒さないと瘴気はなくならない。)
彼女から念話が届いた。
念話ならば距離に関係なく相手に声を届けることができるのかと感心していた。
獅子というにはあまりにも大きく高さだけでもボスゴブリンと同程度である。
聖堂の正面の扉からでは翼を折りたたんでも通るのは厳しかったのではないだろうか。
再びカルナから念話が届く。
(強い魔物を生み出すために風が届かない屋内にいたんじゃないかな。
この街で一番大きな建物だしね。
それにあそこには街の住民が逃げ込んでいたから食糧にも困らなかったようね。)
魔物は人を食べる。
瘴気から生まれるが瘴気だけでは体を維持できない。そこで人間を食べるのだと。
怒りに体が震える。
毎日食べられていく街の人々を想像しこの眼の前にいる魔物への殺意が増大していく。
カザンが剣を構えたときグリフォンが彼との距離を一気に縮める。
近づくと同時に前足をカザンに振り下ろす。
剣では防げないと思い後ろに跳躍する。
カルナがグリフォンの後ろに着地した。
尾の蛇がカルナを睨む。
周りをボスゴブリンたちが取り囲み始めた。
それをチャンスと見てカルナが魔法を唱える。
「地面よ沼となれ」
するとボスゴブリンたちの足元がぬかるんだ状態になり身動きが取れなくなったようだ。
「さらにこれはどう? 拘束」
ボスゴブリンたちの動きが止まる。しかし拘束する力が弱いのか腕が少しだけ動かせるようだ。
「こいつらを利用してグリフォンを倒すのよ!」
カルナが左腕の獣の腕を構えた。
蛇が彼女に嚙みつこうと攻撃を加えるがカルナは左腕の爪を強化して攻撃を防ぐ。
カザンの方はカルナが用意してくれたボスゴブリンの足場を使い、跳躍し上からグリフォンに斬りつける。
ボスゴブリンの拘束が解けないように何度もカルナが魔法を唱える。
その合間に彼への強化魔法も忘れない。
グリフォンが炎弾を放った。
ボスゴブリンの陰に隠れて盾にして回避する。
グリフォンは苛立っているのかボスゴブリンに対しても攻撃の手を緩めず前足の爪で切り裂き、炎弾の放つが彼がボスゴブリンを盾にする為攻撃で味方を減らすばかりである。
「なぜだ。人間ども。われを恐れよ。」
「はぁバカじゃないの。ボスゴブリン程度しか生み出せない雑魚が。
それにしゃべっている暇なんてないでしょうが!」
そういってカルナが地面全体に炎を放つ。
あまりのことにカザンもその炎でやけどをするところだった。
寸でのところでボスゴブリンの頭に飛び乗る。
グリフォンにとっても熱いらしく翼を動かし空中に逃げようとする。
すさまじい風圧にボスゴブリンたちも倒れてしまう。
カザン自身もボスゴブリンが倒れた勢いで投げ出されしまう。
「やっと飛んだわね。飛ぶのってむずいでしょ。特に飛び始めはね!」
カルナが不敵に微笑む。
「撃て!」
彼女が叫んだと同時に1本の巨大な矢がグリフォンの体に突き刺さった。
その矢の勢いで聖堂の壁にたたきつけられる。
矢をそのまま巨大にした形をしている。
しかも全体が金属でできている。巨人が矢を放ったというのだろうか。
「これはバリスタという攻城兵器の一つ。主に城壁とかを攻撃するときに使うんだけどね。
ここって街中でしょ。家々に金属製品があったから聖堂を破壊する合間に作っておいたの。」
彼女は得意満面に語る。
勝つためには何でもやるのが彼女なのだ。
グリフォンはうめき声をあげている。
矢が胴体にささり壁に食い込んでいる為動くことができない。
尾の蛇が巻き付いて抜こうとしているが深く食い込んでいる為微動だにしない。
その蛇の頭をカザンが剣で一閃して斬り落とした。
「魔王様より生み出された我を手にかけることはすなわち魔王様への反逆の意志ありとして」
「意思も何もその魔王を倒しに来たのよ。
魔王と念話でもできるの?それなら伝えておきなさい。今度は逃げても無駄よ。」
カルナが言い終わると同時にカザンが剣でグリフォンの頭を両断した。
グリフォンの体は霧散した。
「私はこの建物の中を見てくる。カザンは周りの雑魚をお願い。」
周りにはまだボスゴブリンが数体残っている。
カルナの魔法で地面がぬかるみに変えられた為身動きが取れないでいる。
「拘束の魔法は解除しておいた。それに強化魔法もなし。
練習だと思って倒しておいて。」
カルナはそう言って廃墟となった聖堂の中に入っていく。
カザンが残っていたボスゴブリンを倒し終わったころカルナが戻ってきた。
「地下に避難していた住民が50人ほどいたわ。
瘴気の方は浄化しておいたから問題ないわね。
治癒魔法もしておいたから時期に地上に上がってくると思う。」
「地下に入って確かめたってこと?」
「入ってないわ。そんなことしなくても透視の魔法で見れるもの。
瘴気の濃度が濃い地下に入ったらそれだけでダメージを受けるしね。」
それよりも、と言い彼女は近くの家の中に歩いて行った。
何軒かの家に入りその都度服装が少し変わっている。
やっとお気に入りの服で身を固めたのかカザンの前に出てきた。
腕を隠すための長袖に頭の耳を覆う帽子を着ている。
靴にスカートと年頃の女性らしくなっている。
しっぽもスカートの中にしまっているようだ。
町娘と言うよりは小金持ちの商人の娘さんと言った服装になっていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ブックマークしていただける執筆の励みになります。
他にも投稿していますので読んでいただけましたら幸いです。




