第19話 ノキマへ接近
朝になった。カルナと二人で荷馬車の荷台で夜を明かした。
「ノキマの行く前に馬と荷馬車を隠しましょう。
魔物に襲われたらひとたまりもないわ。
せっかくの色々もらったのに無駄になっちゃう。」
確かにそうだと思ったがどうするのだろうか。
カルナは朝食を食べるといつものフードとローブを身にまとった。
「馬はその辺で放しておけば勝手に生きてくれると思うわ。荷馬車の方は土で隠しておくか。」
そう言って杖を振りかざす。
杖が光り出し、あっという間に荷馬車の周りの土が荷馬車を覆うように盛り上がる。
さすがに馬もびっくりして慌てている。
カルナが器用にもう一つの魔法を展開し馬の馬具を外す。
馬はすぐさまどこかに走り出してしまった。
盛り上がった土は荷馬車を包み今や突然現れた玉のような物体になっている。
明らかに不自然ではあるが盗難には遭わないだろうとは思った。
「馬逃げちゃったけど大丈夫?」
「大丈夫よ。馬には発信魔法を埋め込んでおいたからどこにいてもわかるし馬にも念話みたいに話しかけることができるの。
簡単な命令なら言うことを聞いてくれるはずよ。」
ほれ、と言ってカルナが光る玉をこちらに投げた。
キャッチしようとした玉はカザンの手のひらから体内に入っていく。
その瞬間カザンの脳内に馬の位置が映し出された。
一瞬馬が走っている姿が見えたすぐに消えた。それでも馬がどこにいるのか感覚としてわかる。
何とも不思議な体験だった。
これが魔法なのか。
傍から見ていてもすごいの一言だが強化魔法とは違った驚きを与えてくれた。
2人は歩いてノキマの街を目指した。
山を下りてから平原を歩く、しばらくするとノキマの街と思われる崩れた壁が見えてきた。
門だと思われる場所は崩れており瓦礫の山となっている。
魔物が襲ってくるかと思ったがその姿はどこにもない。
想像ではうじゃうじゃいると思っていた。
街の中にいるのだろうか。
難なく壁までたどり着き崩れて通れるようになった場所から街に入る。
家屋は壊れており家財は道路に散乱している。
それでも魔物の姿は見えなかった。
「ふーむ。死体が少ないな。」
カルナが呟いた。
たしかに思っていたほど死体がない。魔物に食われたのかと思っていたがそれにしては地面には血痕すらない。
あの村の牢屋にいた人々はその多くがノキマの住人だった。
彼らは命からがら逃げて山賊に捕まったと言っていた。
その多くが奴隷商人に売られ村にはわずかな人しか残っていない。
タカラヒと同程度の規模の街でその多くが捕らえられてしまったのだろうか。
「いくらかは魔物のエサとしてこの街に捕らえられていると思うわ。
瘴気によって生み出された魔物は瘴気だけでは肉体を維持できない。
私たちと同じように何らかのものを食べないと生きていけない。
どれだけの人が無事で残っているかしらね。」
そう言いながらカルナは心ここにあらずと言った感じだ。
歩いているうちに街の大通りにでる。
街の中心に大きな建物が見えた。
四角い建物で神殿を思わせるような荘厳さがある。
その建物に近づいていく。
「聖堂かしら?それとも街の集会所?まぁ聖堂って方がしっくりくるわね。」
「そうだね。なんていうかわからないけどエルンストたちが通っていた学園都市には似たような建物があるよ。」
聖堂をぐるりと取り囲むように道が舗装されている。
そこから等間隔にそれぞれの道が伸びている街の造りになっている。
2人は今、そのぐるりと囲む道の端に到着した。
カルナがフードを外す、狼の耳が露になる。
「このあたりでいいかしらね。」
彼女はそう言うと杖を前に突き出す。
「透視」
そう唱えた。
彼女の目が光ったように見えた。
「いるわね。一際デカいのが1つ。残りのもまあまあ大きいわ。
ここがボスゴブリンの発生源とみて間違いないわ
瘴気は濃度が濃くなるとその分生み出される魔物は強力なのよ。」
彼女は魔法によって建物の中が見えるようになったようだ。
「瘴気って風通しのいいところだと溜まらなくなるのよね。
建物ごと壊しちゃうか。」
「それは・・・どうだろう。破壊するってことだよね。」
「今更1つや2つ壊れたからって何も変わらないわ。
気にしないことよ。」
カルナは目的達成のためならば犠牲は仕方ないと思うタイプなのだと心の中で思う。
「向こうからこっちは視えてるのかな。」
「視えてるんじゃない?
ここまで歩いてきておいてそれを言っちゃうかー。」
カルナが意地悪そうなにジト目で彼を見てくる。
平原から崩れた壁、その壁から街の中心近くまで、魔物に遭うことなく近づくことができた。
不安ではあったがカルナが何食わぬ顔で歩いて行くのをただついて来ていたと言った方がいい。
カザン自身は何も考えていなかった。
「向こうさん準備が整ったみたいよ。」
その発言と同時に聖堂の正面にある大扉が開いた。
ぞろぞろとボスゴブリンが出てくる。
10体を超えてもこの勢いは止まらない。
「あんだけ濃い瘴気でもボスゴブリンしか生み出せないってことは親となるやつの強さが影響してるとみて間違いないわね。」
カルナはカザンに強化魔法をかける。
「私をあそこの物見台まで運んで。その後はあなたはボスゴブリン共を倒しておいて。」
そう言ってカルナはカザンの首に両手を回すとぴょんとジャンプした。
あまりのことに咄嗟にジャンプしたカルナを抱きしめる。
彼が戸惑っていると
「お姫様抱っこってやつよ。知らないの?」
「初めてなもので・・・」
鶏ならこういう掴み方をしたことがあるなと思う。
「さあ、早く運んで」
彼女に急かされる。
ボスゴブリンたちもこちらに近づいてくる。
彼女に触れて恥ずかしくなっている場合ではないと思い彼は家屋の屋根に跳び乗った。
そのまま屋根伝いに物見台に向かう。
物見台が今のこの街で一番高いところだ。
彼女のことだ何か作戦があるのだろう。
ボスゴブリンも追いかけてくるが足が遅く段々と引き離していく。物見台の下までたどり着いた。
そこでカルナを下ろす。
「あとは空を飛んで上までいけるよね?」
跳躍だけでは物見台の上までいけない。
物見台の一階部分の入口は破壊されて中を通って入れなさそうだった。
カルナは不思議そうにこちらを見る。
ここなら人もいないから空を飛んでも怪しまれないと思ったが彼女は違う考えだったようだ。
うんうんと頷いて杖の先端の瘤になっている部分でカザンの両手両足に触れた。
触れられた箇所が眩く光る。
「これで大丈夫よ。」
そう言って彼女はカザンの背中に覆い被さった。
今度は背中にカルナが乗っている。
「両手が塞がっていたら登れないよね。
魔法で手足を吸盤のようにしたから壁はすいすい登れると思うわ。
今のレベルでどこまでできるのか測るいい機会ね。」
「敵が側にいるのに?」
「今の貴方からしたら雑魚よ。さぁ早く登る!」
記憶の中で母にあれこれ指示をされて動いている父の日常を思い出す。
実家の風景を思い出しながら物見台の壁を登る。
カルナの重さは見た目通りというか体も華奢なのであまり感じなかった。
薪を担いでいた時の方が重かったなと思っていたら物見台の上まで着いた。
カルナが背中から降りる。
彼女がローブを翻して大きく声を張り上げた。
「戦闘開始よ!」
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