第16話 勇者という存在
村人の中には村長に反感していたものも相当いて彼らが宴会の準備をしてくれた。
「私は疲れたから部屋で休むわ。
この村で一番いい寝床を用意して。」
カルナの要望に村人たちは村長の家を仮の宿として提供してくれた。
ゴモラと一緒に捕らえた数名の山賊も村長と一緒の牢屋に入れておいた。
料理がでてきた。
前までは食事と言えばマメ煮のスープと少しの干し肉がカザンにとっての豪華な食事だった。
鶏も自宅で飼っているが卵を取るためとお金が必要になったときに市場に売るためであり自分たちで食べるのは年数回である。
木を伐りに山に入るが猟をすることはできない。
木を伐るためには土地を持っている領主にお金を払わなければならずそれは猟をするお金とは別料金である。
勝手に許可なく猟をしていることが見つかってしまえば家族全員縛り首にあうか追放されてしまう。
そうならば家族全員が奴隷の身分に落ちてしまうだろう。
この国では奴隷制度は禁止されたと聞いているがそれでも奴隷身分の人はいる。
これだけの立派な料理が自分の目の前にある。
人生のピークを迎えたと思った。
食事を食べ始めた、食べても食べても次々に追加されていく料理に驚く。
腹が満腹になってもまだ彼女がこの場にいなかった。
大皿を一つ用意してもらいそこに料理を盛り付け彼女がいる村長の家に向かった。
家に入り一番奥にある村長の自室のドアを開けるとカルナがテーブルに顔をうずめて寝ていた。
カザンに気が付き「女性の部屋に入るときにはノックをするものよ」と注意した。
それでも怒っている様子はない。
今はローブを脱いでベッドの上に無造作に置かれている。
カルナは自分のことを異世界から来たと言っている。
いままではそれがどういうことかイメージできず異国の地から来た人だと考えていた。
今彼の目の前にいる彼女が来ている服装はこの世界のものではないと彼に認識させた。
初めてこことは異なる世界、異世界から来たという言葉の意味が理解できた。
肌に貼りつくようなズボンと上着。
まるで肌と服が一体になったような見た目である。
袖は半そでで左腕の獣人の腕が露になっている。
爪で攻撃していたので伸びているものと思っていたが今は爪が見えていない。
人間の腕に獣の毛皮が張り付いたようなどこか独特な見た目をしている。
しっぽはだらりと垂れ下がり椅子のすきまから垂れている。
上下に繋がっている服は白色の線がいくつか描かれておりそれが時折光りだす。
貴族だってこんな服は持っていないだろうというのが彼の結論だった。
「それがカルナのいつもの服なの?」
彼女はテーブルから顔を放して背中で伸びをする。
華奢な体のラインが露になる。
カルナは近接戦も強い。右手で魔法、左手で近接攻撃。
左手の力はどこにそんな力があるのかわからない。
「これ、食事置いとくね。」
テーブルに大皿を置いた。そのまま外に出ようかと思ったら
「何立っているのよ、カザン座りなさい。」
そう言って向かいにある椅子に座るように椅子を蹴っている。
カザンはカルナの正面にある椅子に座った。
カルナは大皿に盛られた料理を端でつまんで食べ始める。
食事が終わったころ部屋の扉がノックされた。
「どーぞ」とカルナが言うと扉が開く。
エルンストたち勇者一行の4名が入ってきた。
「助けてもらってありがとう。カザン。」
お互い目を合わせて会話する。
もう何年もこんな距離で話などしていなかった。
エルンストに感謝される日がくるなんて想像すらしていなかった。
「あんたたちには聞きたいことがたくさんあるのよ。」
カルナが質問をぶつけた。
エルンストたちが話した内容をまとめるとこんな具合だ。
・毎年勇者学校で優秀な生徒には勇者にある権利が与えられる。辞退するものも珍しくない。
・毎年勇者が誕生する制度であるため任命された勇者の多くは魔王討伐の旅に出ずそのまま自宅に戻り平穏に暮らしているものが多い。
・そもそも勇者学校と冠しているが勇者育成というのは建前で実態は貴族や有力者の子息令嬢に勉強をさせる教育機関としての側面が強い。
・国民からの反発がある為”勇者”学校としているだけ。
・そのため勇者の役割は魔物の討伐ではなく目立つことにより魔王軍の注意を引くことに段々と移り変わりつつある。
・勇者たちの活動の裏で国の諜報部隊がいてこちらが魔王軍に対抗している。
・王国はすでに大規模な遠征ができるほどの体力はなく街や村にガーディアンを派遣するのがやっとの状態。
諜報部隊も規模は不明だがそれほど大規模な部隊ではないはず。
・弱体する王国に見切りをつけ自分勝手にふるまう貴族も出てき始めている。
「それじゃあエルンストたちは囮だったってこと?」
エルンストは短くそうだと頷く。
「それなのにあんたたちは本当に魔王軍に戦いを挑もうとしたわけね。」
エルンストが答える。
「ノキマの街には諜報部隊の司令部がある。
そこに辿り着いて情報が残っていたら持って帰りたいと思っていた。」
カルナはふーんと息を漏らして素っ気ない返事をする。
「今後は私から質問があるのだが。」
エルンストは気合が入った目でカルナを見た。
「君は何者なんだ?魔物ではないということは理解できたがその獣のような出で立ちはいったい?」
「私は異世界から来たの。あなたたちが魔王と呼ぶやつを捕まえにね。」
「魔王は異世界から来たのか!どういうやつなんだ。」
「あいつはこっちの世界でも大犯罪者よ。
多くの人が犠牲になったわ。
やっとのことで捕まえたのに仲間がミスって逃がしちゃったの。
それで逃げた先があなたたちの世界だったってわけ。」
「なぜ逃がしたんだ。君たちのミスってことじゃないか。」
「ミスしたのは私じゃないわ。責められても困る。
あなたたちの世界がめちゃくちゃになってしまったのには同情はするけどね。」
「倒せるのか?」
「今の力じゃ無理ね。山賊ごときに接戦していたから。
この世界に来て魔法がリセットされたの。
またレベル上げからやり直しなのよ。」
「君たちの世界では魔法が当たり前にあるということか?」
「そうね。あんたたちが勇者学校に通っている様に私は魔法学院というところに通っていたわ。
こっちでは魔法使いなら魔法は使えて当たり前なの。」
エルンストがカルナの体を上から下と見ている。
彼女もその視線に気が付いた。
「私は狼の獣人よ。この世界に獣人はいる?」
エルンストたちは顔を見合わせて互いに首を横に振った。
「いや獣人というのは初めて聞いた。
学校でもそのような存在は聞いたことがない。
父の仕事の関係で多くの人と会うが君のような人は見たことがない。」
カルナは天井付近を見ていてエルンストたちの方には顔も向けていない。
「あんたたちはこの村に残って残務処理をしなさい。
村長のこともあんたたちの裁量に任せるわ。
山にはまだ残党が残っているから全員回収しておきなさい。」
「俺たちにそんな時間はない。
一刻も早くノキマの街に行かないといけないんだ。」
「あんたたちの旅はここで終わりよ。」
カルナが言い放った。
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