第15話 選択と決着
「ど、どうしようカルナ・・・」
まさか人質を出してくるとは思わなかった。
これが実戦なのか、勝つためなら手段を選ばない。
女性10人とカルナの命、どちらも選べない。
最初に僕がゴモラを倒せていたらこんなことにはならなかった。
砂で目つぶしをされてしまった。
その点カルナは戦って追い詰めていた。
それでも倒すまではできなかった。
これが勇者の実力。
こんなのがこの世界には何人もいると言うのか。
ゴモラの前に連れ出され座らせられた女性たちはみな怯えている。
頭を地面につけて背中を丸めて震えている。
カルナは静かに目を閉じて深呼吸した。
「私の首を刎ねなさい。」
ゴモラに聞こえる声で話す。
ゴモラがニヤリと笑う。
覚悟を決めて剣を水平方向に構えた。
カルナの首に剣が来るように構え腰を落とす。
カルナの方は見ない。
見ると手元がぶれてしまう。
一気に行かねばならない。
「カルナ・・・行くよ。」
剣を最大速度で振った。
カルナは咄嗟に膝を折りかがむ。剣がカルナの直立してある耳のすぐ上をかすめた。
「ワープ!」
杖が一瞬光り、彼女の隣にいたカザンが光に包まれて消えた。
ゴモラが自分の背後を振り返り剣を振り下ろす。
金属音が鳴り響いた。
そこにカザンがいた。
カルナのワープでゴモラの背後に瞬間移動させたのだ。
「やっぱこう来るよな。」
動きを読んでいたゴモラだが先ほどの戦闘の傷が響いて力が出せない。
カルナの首を刎ねるために全力で剣を奮ったその剣を受け止めるには力が足りなかった。
カザンに圧されて後ずさりする。
その間もカザンによる絶え間ない剣戟が続く。
ゴモラの顔に焦りが見えた。
「てめぇら、皆殺しにしろ。」
そう叫ぶと最初カルナの魔法で怯えていた山賊たちが自分の得物をもってカルナとカザンめがけて走ってきた。
「させるかー」
カルナが叫び杖が光る。
途端、山賊たちの目の前に炎の壁が現れた。
無理に越えようとした者はその炎に焼かれて転げまわって苦しんでいる。
それを見て他の山賊は再びたじろいでしまった。
「やりなさい。カザン!」
カルナが初めて名前を呼んだ。
胸が熱くなる思い、魔法をかけられたように力が漲った。
「おまえは雑魚なんだよ。失せろ。千本突き!」
ゴモラお得意に無数の剣の突きがカザンを襲う。
カザンは1歩後ろに下がり左に避けゴモラの死角にはいった。
右手で繰り出される攻撃、ゴモラから見て右側に回られると対応できない。
左側ならば左手が空いている為何らかの対応ができるが高速の無数の突きを繰り出すために正面の相手にしか効果がなかった。
ゴモラの剣の突きのほんの少しだけ横に避けてカザンの剣は下段から掬い上げるようにゴモラの腹に入った。
あまりの強さに彼の体は空中を飛びぐしゃりという気味の悪い音を立てて着地した。
ゴモラの戦意喪失である。
カルナが炎の壁を解いた。
山賊たちは自分たちのリーダーが倒れて動かないことに驚嘆の声を上げ、
カルナの獣人の姿に恐れ慄いて散り散りに逃げていった。
カルナがカザンの下までやってくる。
「かっこよかったわよ。カザン。」
「名前初めて呼んでくれたね。」
カルナの顔は炎のように赤くなった。
「はぁ?前から呼んでいるわよ。カザンが気が付いていないだけでしょ。」
そう言ってそっぽを向いてしまった。
カザンは思い出していた。
ゴモラがカルナの首を刎ねろと言った時。
カルナの念話が聞こえた。
「これから作戦を伝えるわ。一回きりだからミスしないでね。
・・・思いっきり私の首を刎ねなさい。手加減したら気づかれるわ。
私が避けるから心配しないで、そしてあなたをその振りぬいた力そのままにあいつの後ろにワープさせる。
それで決着をつけなさい。」
その念話を聞いて覚悟ができたのだ。
カルナは強いなと思うカザンであった。
少ししてエルンストとクロエの二人が広場にやってきた。
広場で倒れているアインザックの下に駆け寄り彼が生きていることを確認する。
水をかけてやると彼は目を覚ました。
そして人質になっていた人々を開放して広場に集める。
その中には勇者一行の1人ザッハもいた。
どうやら鎖で拘束され暴行を受けていたようで元気がない。
肉体的精神的にやられているようだ。
体格も大きく筋骨隆々としていてもまだ10代の青年である、いきなり命のやり取りをする場面に遭遇すれば場数が少ない身には堪えてしまったようだ。
カルナが広場に集めた人々に治癒魔法をかけていく。
皆超常の力に驚いて絶句していたが傷の痛みが癒されていくと感謝の言葉をカルナに送っていた。
「もうすっかり夜だわ。
意外と強かったから時間かかっちゃった。
早く村に帰ってご飯にしましょ」
カルナはさっきまで戦闘していたとは思えない軽い口調で話す。
山賊のリーダーゴモラを縛りあげ、それをザッハが肩に担いだ。
山を下りて村の入り口に辿り着く。
村長と村人全員が出迎えてくれている。
「さすが勇者様です。
この悪逆非道な山賊どもを退治してくれて助かります。
おや?まだリーダーが生きているようですね。
それではここでその首を刎ねてしまいましょう。」
村長は斧を取り出した。
「全部知ってんのよ。もう芝居は止めなさい。」
カルナが前に出てくる。
「おや、お嬢さんですかな。
お嬢さんも怖かったでしょうな。かわいそうに。ゆっくり休んで故郷に帰るといいですよ。」
カルナがため息を漏らしてフードを取った。
そこには獣の耳がある。
「ひっ!ま魔物。」
「あんた山賊とグルでしょ。
ここで旅びとを休ませてその間に山賊たちに情報を渡す。
形だけを見ると山賊に無理やりやらされていたって見えるけど実態は違うわね。
捕らえた人たちをこの村で奴隷として売りさばいていたわね。」
村長と取り巻きの村人が絶句している。
それを聞いた僕たちも驚いていた。
「証拠はあるのですか。突然そのようなことを言われても言いがかりではないですかな。
賞金が欲しいのですか。それならば王都の役所で申請していただかないと。」
「賊にしては綺麗すぎんのよ。山にずっといるのにどいつもこいつもまぁまぁ綺麗なのよね。
それに人質には男も女もいたわ。女はわかるけど男をわざわざ残すなんて普通しないわよね、売り飛ばす以外に使い道ないでしょ。」
「なんという言いがかりでしょうか。賊を退治していただけたことには感謝しますがさすがに我々を犯罪者呼ばわりと言うのは失礼では」
「こっちには賊を倒したカザンがいるのよ。それに勇者一行もね。
村人総出でも勝てないわよ。」
カルナがドスの効いた声で「どうすんの?」と言った。
村長はこれ以上は無理だと判断し大人しく白状した。
エルンストが村長を縛り上げ村にあった牢屋に入れる。
牢屋には山賊に捕らえられた旅人とノキマからの逃れた住人がいた。
ノキマが襲撃されたとき命からがら山に逃げ込んだ人達が捕らえられこの村の牢屋に入れられていた。
今残っているのは奴隷としての価値が低く”売れなかった”人たちだった。病気だったり肉体が貧相だったり。ノキマが襲撃された1カ月前はこの牢屋に入りきらない人がいた。
その多くが奴隷商人によって買い取られてどこかに連れされていったという。
この村の異常に裕福な建物はそういった闇の奴隷商売によって利益を得ていたからだった。
「牢屋があったとは。泊まっていたのに気が付かなかった。」
エルンストたちはこの村で歓待されていたがまったく気が付いておらず真相を聞いてとても落ち込んでいた。
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