気づいたら船の上でした
また、I話抜けてる、別の作品に集中しすぎて、頭がいたい。 ミス多くてすみません、、
――嫌な予感は、現実になった。
「きゃあああああっ!!」
甲板に裂けるような悲鳴が響き、周囲の人々の流れが一気に崩れた。押し合い、転び、叫び声が混ざり合い、騒然とした空気が一瞬で恐怖に染まる。
「下がれ!下がれ!!」
乗員たちの怒声が飛び交う中、私は流されそうになりながら、必死に足を踏ん張った。板張りの甲板がしなる。手すりにしがみつこうにも、波の揺れと人々の衝撃で思うように体が動かない。
(……何が起きているんだ……)
足元から、鈍い衝撃が伝わる。――船全体が、波ではない衝撃に揺れる。明らかに、“何かがぶつかった”。
「まさか……」
誰かの呟きが耳に届いた。
視線を甲板の端に向けると、海面が盛り上がり、黒い影がゆっくりと現れた。
「……うわ」
思わず、声が漏れる。目の前に広がるのは、太くぬめりを帯びた巨大な触手。一本、二本、三本……次々と海面から持ち上がる。その下には、もっと巨大な影。客船の半分ほどもあるクラーケンだ。
(……あれが本気で暴れたら、この船は……)
甲板に響く緊迫の声。
「総員、戦闘配置!!」
鋭い号令に、乗員たちが一斉に動き出す。混乱の中でも動きは統制され、戦闘態勢が整っていく。私も自然と周囲を見渡した。甲板の側面には、巨大な弩がずらりと並んでいる。
「……バリスタか」
装填される鉄の矢。緊張感で手が震える。
「距離維持!近づけるな!」
「装填急げ!」
「撃てぇ!!」
重い発射音が甲板に響き、矢が一直線に飛んで触手に突き刺さる。だが、乗員の声がすぐに怒鳴る。
「浅い!」
クラーケンは怯むどころか、触手を振り上げて反撃する。ブンッ――甲板を叩きつけ、木材がきしみ、人が吹き飛ぶ。怒号と悲鳴、まるで戦場そのものだ。
(……無理だろ、これ……)
唇を噛み締める。バリスタの矢は確かに効いている。でも、決定打には程遠い。
その時、視界の端でクラーケンの本体が少しだけ浮かび上がった。巨大な口が、ゆっくりと開く。円形の奥に吸盤のような器官が並び、暗い闇が覗く。
(……あれに飲まれたら終わりだな……)
ぞっとした。だが、同時にあることに気づく。
(……あそこ、柔らかそうだ……)
外側の硬い甲殻とは違い、口の内部は無防備なはず。だが――
(届くわけない……バリスタの角度も足りない……)
考えている間にも、触手は振り下ろされ、甲板がドゴォンと衝撃で揺れる。
(……このままだと、押し切られる……)
カバンの中で、何かが触れた。手を突っ込むと、小さな袋が出てきた。唐辛子の粉と胡椒。
(……あ、元の世界から持ってきたやつだ……)
完全に忘れていた。だが、相手は巨大生物。これで何ができるか……自分でも分からない。
クラーケンが再び口を大きく開く。こちらを飲み込もうとする動き。
(……いや……いやいやいや……)
頭で理屈を考えても、迷っている暇はない。私は甲板の縁に向かって全力で走り、袋を握りしめた。風が強く、海がすぐそこに迫る。心臓が張り裂けそうに脈打つ。
(……届くか……タイミング次第……)
投げる瞬間、全神経を集中させる。
「……いけっ!!」
袋が宙を舞う。風に煽られ、ぎりぎりの距離でクラーケンの口に吸い込まれた。
一瞬の静寂――そして、絶叫。
「ギィィィィィィィィィィッッ!!?」
クラーケンが暴れ狂う。触手が海を叩き、船が大きく揺れる。乗員たちの悲鳴と怒号が混ざる中、私は息を切らし、手の震えを感じながら見守った。
(……効いたのか……?)
口を何度も開閉するクラーケン。その異常な動きに、ようやく唐辛子の効果を実感する。強烈な刺激が、あの巨大生物を混乱させていた。
「今だ!!撃てぇ!!」
叫びとともに、バリスタが一斉に動く。矢が開いた口めがけて連続で飛ぶ。ズドォン! ズドォン! 内部を貫き、さらに絶叫が響く。触手の力が徐々に抜け、やがてクラーケンはゆっくりと海の中に沈んでいった。
波だけが残り、静寂が戻る。しばらく誰も動かない。やがて、かすかな声が漏れる。
「……た、助かった……?」
歓声が甲板に広がる。私はその場にしゃがみ込み、息を整える。
(……マジで効いたのか……)
背中に、ぞわりとした視線を感じる。振り向くと、乗員たちと指示を出していた男――全員がこちらを見つめていた。
「……え?」
甲板が静まり返る。そして低く響く声が一つ。
「今、何を投げた?」
私は手の中の空になった袋を見つめ、ぽつりと呟いた。
(……あー………やばいな、なんて言い訳すれば……)




