エレナ・ヴァルディス視点
女のときだけ人生がうまくいく件 〜拾った指輪でTSした俺の二重生活〜
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ベビーカーを押しながら、私は一定の速度で歩く。呼吸も視線も、いつも通り。手元の感触も、背中に感じる軽い重さも、昨日と変わらない。――だから、本来なら何も揺らぐはずがなかった。
(……今のは)
頭の片隅に、わずかな違和感が引っかかる。思考だけが、微かに揺れる。
「毎週、会ってますよね」
その一言が、胸の奥で小さな波紋を広げる。本来なら、こんな言葉はスルーできる。気づかれないし、覚えられない。違和感すら残らない――それがいつも通りだった。
――それが崩れた。
(……どういうこと?)
足は止めず、振り返ることもない。ただ、頭の中だけが静かに回転し続ける。通りを行き交う人々は、誰一人として私に視線を向けない。視線が触れたとしても、すぐに逸れる。それが“いつも通り”の光景だった。
(……あの男だけが違った)
目の端に残るのは、確かに認識している視線。迷いも偶然もなく、はっきりとこちらを見ていた。
ありえない――けれど、確かに起きている現実。
小さく息を吐き、私は一度、思考を切り替える。焦る必要はないし、怖がる必要もない。まずは、今最優先すべきことを整理する。
(優先するのは……ルシアン様)
視線を落とすと、ベビーカーの中で小さな寝息が規則正しく続いている。頬は柔らかく、指先はわずかに動く。外の騒音にも気づかないほど、深く眠っていた。
「……大丈夫ですよ」
小さな声で呟き、そっと毛布を整える。体がわずかに動いた後、すぐに呼吸は落ち着く。変わらない――それでいい。
(この子が最優先だ)
それだけは揺らがない。どんな状況でも絶対に変わらない。だから、それ以外のことは後回しでいい――はずだった。
(……でも)
思考は、わずかに戻る。
(あの男は……放っておいていいのだろうか?)
答えは簡単に出ない。ただ一つ分かるのは、このまま見過ごしていい相手ではないということだけ。
歩きながら、視線だけをさりげなく周囲へ巡らせる。店先のディスプレイ、路地の暗がり、建物の影――どこにも、それらしい姿は見えない。
(追ってはこない……?)
少なくとも、今のところは大丈夫らしい。
口元から、ほんのわずかに笑みが消える。思考を巡らせるときに出る、素の表情。
(……様子を見よう)
それで十分だ。今はまだ、無理に動く必要はない。
次の瞬間、私は意識的に表情を緩める。自然に、穏やかな母親の顔へと戻す。通りすがりの一人。それ以上でも、それ以下でもない。
完璧に。
外から見れば、何も変わっていない。だが――さっきまでの心の揺れは確かに残っていた。
(……あの男のことは、少しだけ気にしておこう)
そう決めて、私はベビーカーを押し続ける。歩幅も速度も、いつも通り。けれど、頭の片隅では、静かに警戒の火が灯ったままだった。
ユウ「あの女ご近所さんだったのか,,,」
ユウキ「さっきから誰に話しかけてたんだ?」
ユウ「え、ほら隣に赤ちゃんを連れた母親が,,,」
ユウキ「何言ってんだ?誰もいなかっただろ」
ユウ「('_')」




