エレナ・ヴァルディスという人物
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それから数日。
私は気づいてしまった。
――燃えるゴミの日。
そういえば、と思い出す。
昔からだ。ずっと前から。
あの母親と、会っている。
(……なんで、忘れてた?)
喉の奥に、ひっかかるような違和感が残る。
最初は偶然だと思っていた。
月曜日と木曜日。燃えるゴミの日。
木曜の朝、ゴミを捨てに回収所へ向かう。
――いた。
ベビーカー。赤ちゃん。
左手には、何の装飾もない指輪。
前と同じ時間。
同じ場所。
同じ距離。
なのに――
「寒くなってきましたね」
前は違う言葉だった。
たしか、月曜は――
「朝早いですね」
(……違う)
言葉が違うことじゃない。
問題は――
“前に会ったことがあるはずなのに、そこが一切つながっていないことだ”
記憶が毎回まっさらになっている。
それなのに。
まるで、初めて会ったみたいに話しかけてくる。
(……いや違う)
(これは――)
一歩、足を止める。
(“初対面にされているのか?”)
その考えが浮かんだ瞬間、頭の奥がぞくりとした。
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――その女、エレナ・ヴァルディス。
彼女がこの世界に来たのは、偶然だった。いや、事故だった。
とある世界。巨大な城。
白く高い壁。金で縁取られた柱。天井には豪華な装飾。
すべてが、富と権力の象徴だった。
その城の主。国王――アルディウス・レインハルト。
冷静で、絶対的な支配者。
その王の命により、エレナは一人の赤子の世話を任されていた。
王子。名は――ルシアン。
まだ、何も知らない存在。小さな手。小さな呼吸。
エレナは、静かに頭を下げた。
「必ず、お守りいたします」
王は短く答える。
「当然だ。その子は、我が国の未来だ」
冷たい声。だが、エレナは動じない。それが役目だった。
彼女にとって、「命を預かる」ということは、
感情ではなく“管理”に近いものだった。
泣く時間、眠る時間、体温、呼吸。
すべてを把握し、乱れがあれば即座に修正する。
異常は許されない。
それが王に仕える者の在り方だった。
数ヶ月。
ルシアンは成長した。寝返りを打ち、やがて、はいはいができるようになる。
行動範囲が広がり、部屋の中を楽しそうに動き回る。
エレナはその様子を、常に一定の距離から観察していた。
決して目を離さない。
だが、必要以上に干渉もしない。
それが“最適”だからだ。
「ルシアン様、そちらは危ないですよ」
声は柔らかい。だが、その判断は冷静だった。
だが――その日。
ほんのわずか。ほんの一瞬。
視線が外れた。
それは、彼女にとっては“誤差”のはずだった。
ルシアンは部屋の端へと移動していた。
床。厚いカーペット。
その端を、小さな手でめくる。
「……あ」
エレナが気づいたときには、遅かった。
カーペットの下。隠されていた“何か”。
ルシアンは、それを掴んでいた。
銀色の指輪。何の装飾もない、ただの輪。
だが、妙に目を引く。
エレナは一瞬で状況を判断する。
(危険物の可能性。未確認。即時回収が最優先)
ルシアンは、それを掲げて笑った。
「あー!」
嬉しそうに、無邪気に。
エレナは歩み寄る。
「どこで見つけたんですか?」
手を伸ばし、指輪に触れる。取り上げようとした、その瞬間。
――声。
頭の中に、直接響く。
『対象確認』
『転送リング起動』
『――別世界へ転送します』
「……え?」
理解はできない。
だが、“異常事態”であることだけは確定した。
エレナは迷わない。
ルシアンを抱きかかえる。
強く。絶対に離さないように。
自分がどうなるかではない。
優先順位は一つだけ。
――守ること。
次の瞬間。視界が、白に染まる。
光。すべてが消える。音も、感覚も。
――そして。
彼女は、“地球”に落ちた。
最初は混乱した。
知らない建物。知らない言葉。知らない服装。
だが、エレナはすぐに理解する。
(……ここは、異なる世界か)
彼女はまず“観察”を選んだ。
人の動き。言葉の抑揚。距離感。
何が自然で、何が不自然か。
危険の有無。敵意の有無。
秩序の有無。
短時間で情報を整理する。
そして、彼女の特技が発動する。
同化。
無意識に、自然に、周囲を観察し、言葉を覚え、仕草を真似る。
違和感を、消す。
数日。それだけで、彼女は“この世界の住人”になっていた。
選んだ立場は、母親。
最も自然で、最も警戒されない役割。
ルシアンもまた、この世界の“赤ちゃん”として扱われる。
何も問題はない。
完璧だった。
ある日。指輪が、反応した。
エレナが触れた瞬間、表示が浮かぶ。
【プロフィール】
名前:エレナ・ヴァルディス
状態:正常
年齢:30
体力:B
筋力:C
敏捷:C
耐久:D
身体能力:中
特技:同化
彼女はそれを見ても動じなかった。
ただ、理解する。(……そういうものか)
評価にも、数値にも興味はない。
重要なのは――
それが“使えるかどうか”だけだ。
そして――その後、指輪は完全に沈黙した。
二度と、反応することはなかった。
それから一年と数ヶ月。
エレナは、この世界で生きていた。完全に、何事もなかったかのように。
ある日のこと。いつものスーパー。
人の流れ。カートの音。日常のざわめき。
エレナは何気なく足を止めた。
試食コーナー。
小さなホットプレート。焼かれたハンバーグが、細かく切り分けられている。
その前にいた男。
――母親に、無理やり食べさせられていた。
「ほら」
爪楊枝。
――ぶす、ぶす、ぶす、ぶす。
一気に、四つ。
「はい」
そのまま、口に押し込まれる。
「んぐっ……!?」
苦しそうに咀嚼しながら、曖昧にうなずく男。
「味はどう? おいしー?」
さらに、もう一つ。
その拍子に、口元にソースがつく。気づいていない。
その拍子に、口元にソースがつく。気づいていない。
それでも――また、差し出される。
――滑稽だった。
ほんのわずかに、エレナの目が細まる。
(……自分で食事の量も制御できないのか)
咀嚼の遅さ。反応の鈍さ。
差し出されるままに口を開くだけの受動的な動き。
(判断力も、主体性もない)
その瞬間、
エレナの口元が、わずかに緩んだ。
それは――本人に自覚のない変化。
だが、もし男がその表情を見ていれば、
それはきっと、にやりと嘲る笑みに見えただろう。
(……おかしな者もいるものだな)
ほんの一瞬の観察。
それで十分だった。
彼女にとっては――それ以上の価値はない。
ーーーーーーみかん試食コーナーーーーーーーー
母「ほらほらもっと食べなさい!!」
ユウ「んぐっがっ、も、もうたべれ」
母「ほらほらほら」




