荷運び
ロイドはぽつりと言った。
「……黒石のことを知っているか」
私は一瞬、言葉に詰まった。
(……どういう意味だ)
黒石という言葉を、この世界で知っている人間はいないはずだ。
少なくとも、普通の雑貨屋の店主が気軽に口にする言葉ではない。
私は慎重に答えた。
「……少しだけ」
ロイドの目が、わずかに細くなる。
「少し、か」
私は箱を持ったまま続ける。
「森で見つけたことがあります」
「小さな黒い石ですよね」
ロイドは何も言わない。
ただ、じっとこちらを見ている。
その視線は鋭い。
まるで、私の言葉の一つ一つを測っているようだった。
やがてロイドはゆっくりと口を開いた。
「……あれはただの石じゃない」
私は肩をすくめる。
「そうなんですか?」
ロイドは箱の山の方へ目を向ける。
「この世界では、いろいろな噂がある」
「魔力を貯める石だとか」
「古代文明の遺物だとか」
「モンスターの核だとか」
「まあ……本当のところは誰も知らん」
私は黙って聞いていた。
ロイドは続ける。
「だが」
「確かなことが一つある」
倉庫の中の空気が、少しだけ重くなった気がした。
ロイドは低い声で言う。
「黒石は――」
「この世界の“外”に関係している」
私は思わず顔を上げた。
(……!)
ロイドの目が、こちらを見ている。
その目は、さっきまでとは違っていた。
ただの店主の目ではない。
長い時間を生きた人間の目だ。
ロイドは小さく息を吐く。
「……まあいい」
「お前には関係のない話だ」
そう言って背を向けた。
「仕事を続けろ」
「荷物はまだ残っている」
私は「はい」とだけ答え、箱を持ち上げる。
だが頭の中では、別のことを考えていた。
(今のは……)
(偶然か?)
黒石。
世界の外。
そしてロイドの言い方。
まるで――
知っているかのようだった。
そのとき。
リリィが私の服を引っ張った。
「ユウ」
小さな声だ。
私はしゃがむ。
「どうした?」
リリィは倉庫の奥を指さした。
「なんかね」
「へんなかんじする」
私は一瞬、目を細めた。
「へんな感じ?」
リリィはこくんとうなずく。
「うん」
「ちょっとこわい」
私はその方向を見る。
そこには――
古い木箱が一つ置かれていた。
ほこりをかぶり、他の箱とは少し違う。
そしてその瞬間。
左手の指輪が、わずかに熱を帯びた。
(……黒石)
私は箱を見つめる。
その様子を――
少し離れた場所から、ロイドが静かに見ていた。




