事情聴衆
私は一度深く息をついた。
そして、できるだけ落ち着いた声で説明を始めた。
「……昨日、孤児院で依頼をこなしてたんだ」
アイルは腕を組んだまま、まだ少し警戒した目でこちらを見ている。
私は続けた。
「教会の孤児院で。子どもたちの手伝いをする依頼で,,,,」
「そこでこの子――ルナに会って,,,」
ルナは受付台の上で座り込み、尻尾をゆらゆら揺らしている。
私は指で示した。
「ルナはあの孤児院に住んでる子で、ワーキャットなんだ」
周りの冒険者が少しざわついた。
「ワーキャット?」
私はうなずいた。
「まだ五歳らしい」
「そのときは猫の姿だったし、人間の姿にもなれなかった」
アイルは眉をひそめた。
「じゃあなんでここにいるのよ」
私はため息をついた。
「それが……」
「孤児院から宿に帰ったら、カバンの中に潜んでて、」
一瞬、沈黙。
受付嬢が先に吹き出した。
「ふふっ」
「潜んでたって……」
アイルも呆れたように私を見る。
「……つまり」
「勝手についてきたってこと?」
「たぶん」
ルナはその会話を気にする様子もなく、受付台の端で丸くなっている。
「にゃ」
アイルは机の横に置いてあったタオルを取り、器用に体を拭き始めた。
さっきルナに頭を丸ごとくわえられたせいで、髪も羽も少しよだれで濡れている。
「……」
ごしごし。
タオルで頭を拭く。
「……最悪」
受付嬢が笑いながら言った。
「アイル、初めてじゃない?頭から食べられたの」
「食べられてないわよ!」
アイルは怒鳴った。
「頭入れられただけ!」
私はぽつりとつぶやいた。
「いや、それ普通に食われてるだろ」
アイルが睨んできた。
「あなたは黙ってなさい」
それからタオルで身体を拭きながら、少しだけ表情を緩めた。
「……そんなことがあったのね」
ルナを見る。
ルナはじっとアイルを見ていた。
そして。
「にゃ」
小さく鳴く。
アイルは一瞬言葉に詰まった。
そして小さくため息をついた。
「……とりあえず」
「その子、孤児院に返しに行きなさい」
「今すぐ」
私は肩をすくめた。
「やっぱりそうなるよな」
そのとき。
受付嬢がくすっと笑った。
「でもその前に」
「依頼の報酬、渡さないとね」
私はようやく本来の目的を思い出した。
「あ」
そうだった。
ギルドに来た理由は――
それだった。
その瞬間。
受付台の上で丸くなっていたルナが、急にぴょこんと立ち上がった。
そして――
アイルの方へ、とことこと歩き出した。
アイルの顔が引きつる。
「……ちょっと」
「こっち来ないで!」
ルナは止まらない。
私は小さくつぶやいた。
「……また既視感が,,,,」
ルナ「あむあむ」
アイル「やめてー!!」




