子猫の正体
食堂に入ると、子どもたちが一人、また一人と集まり、長い木のテーブルの席に着いていった。
椅子を引く音や、子どもたちの小さな笑い声が部屋に広がる。
さっきまで外で遊んでいたせいか、みんな少し頬が赤い。
テーブルの上には、すでに温かそうな料理が並べられていた。
焼いたパンに、具だくさんのスープ、そして野菜の煮込み。素朴だが、どれも良い匂いがする。
私は少しだけ遠慮がちにエレナへ声をかけた。
「これって……俺とリリィの分もあるのでしょうか?」
エレナはすぐに微笑んだ。
「ええ、大丈夫ですよ。ちゃんとありますから」
その言葉を聞いて、私はほっと胸をなで下ろした。
もし私たちの分がなかったら、ここに居座ってしまったようで気まずい思いをするところだったからだ。
子どもたちが全員席につくと、エレナが静かに手を合わせた。
「それでは、食べる前にお祈りをしましょう」
子どもたちも慣れた様子で手を合わせる。
私は少し戸惑いながらも、それに倣った。
食堂に、静かな時間が流れる。
「今日もこうして食べ物をいただけることに感謝します。
この恵みを与えてくださったすべての人と、大地に感謝を――」
子どもたちが小さな声で続ける。
「感謝します」
「いただきます」
その合図と同時に、さっきまでの静けさが嘘のように食堂がにぎやかになった。
「スープおいしい!」
「パンおかわりある?」
「リリィお姉ちゃん、これ食べてみて!」
あちこちから声が飛び交う。
リリィは子どもたちに囲まれながら、少し照れたように笑っていた。
耳と尻尾をぴこぴこと動かしながら、楽しそうに話している。
私はそんな様子を眺めながら、スープを口に運んだ。
温かい。
体の奥までじんわりと温まるような味だった。
その後も、子どもたちの話を聞いたり、リリィが一緒に笑ったりしているうちに、食事の時間はあっという間に過ぎていった。
気がつけば、皿はすっかり空になっていた。
それから片付けを手伝ったり、子どもたちと少し話したりしていると、時間はさらにあっという間に過ぎていった。
やがて、エレナがこちらへ歩いてくる。
「今日はありがとうございました」
彼女はとても嬉しそうな顔で言った。
「リリィさんのおかげで、子どもたちが“新しい友だちができた”って、とても喜んでいましたよ」
リリィは少し驚いたように目をぱちぱちさせ、それから照れくさそうに笑った。
「えへへ……。わたしもたのしかった!」
そう言って、近くにいた子どもの頭をそっと撫でる。
私はその様子を見ながら、ふと思い出したことを口にした。
「そういえば……」
「少し休憩しているときに、黒い子猫を見かけました。
あの子は、この教会で飼われている猫なのでしょうか?」
エレナは「ああ」と思い出したように頷いた。
「子猫? ああ、たぶんレナちゃんですね」
「よく一人で屋根の上で日向ぼっこしていたり、日陰で寝ていたりしてるんですよ。
もう、もっと子どもたちと一緒に遊んでほしいんですけどね」
その言い方に、私は少し困惑した。
まるで――
動物と子どもを同じように話しているように聞こえたからだ。
その様子を察したのか、エレナは「ああ」と軽く笑った。
「レナちゃんは、ワーキャットという種族の子なんです」
「まだ五歳なので、人の姿になるのが少し苦手で……。
食堂でみんなとご飯を食べるときくらいしか、人の姿にならないんですよ」
「普段は、だいたい猫の姿で過ごしています」
それを聞いて、私は思わず背筋が少しだけ伸びた。
……危なかった。
さっき見かけたとき、普通の子猫だと思って、
お腹をなでたり、かわいいからと頬ずりしたり、下手をしたらキスをしようとしていた。
もし本当にやっていたら――。
私は、五歳の子どもにそんなことをしていたことになる。
想像して、思わず小さく咳払いをした。
「そ、そうなんですね……」
エレナはくすっと笑う。
「ふふ、大丈夫ですよ。子どもたちもよく撫でていますから」
「レナちゃんも、わりと気にしていませんし」
それでも私は、内心ほっと胸をなで下ろした。
この世界では、猫が子どもだったりするらしい。
どうやら、気軽に動物を撫でるのも少し気をつけたほうがよさそうだ。
レナ「にゃああああ」
ユウ「あ、頭はなでていいかな?」
衛兵「撫でた瞬間貴様を牢屋にぶち込んでやろう」




