お昼の準備(男のプライド)
教会の中へ戻ると、ふわりといい香りが漂ってきた。
野菜と肉を煮込んだような、温かい匂いだ。
どこかで、トントンと包丁で何かを切る音も聞こえる。
私は音のする方へ歩いていく。
どうやら厨房らしい。
中を覗くと、エプロンをつけた女性たちが何人かいて、忙しそうに料理をしていた。
その中に――エレナの姿もある。
夕食の準備でもしているのだろうか。
そのとき、エレナがこちらに気づいた。
「あら、ユウさん」
優しく微笑む。
「どうかされました?」
私は少し頭をかく。
「いや、子どもたちほど体力がなくて……」
「外で遊ぶのは早々にギブアップしました」
エレナがくすっと笑う。
「それで、何か雑用でも手伝えないかなと思いまして」
「お邪魔じゃなければですが」
エレナは少し考えるようにしてから、にこりと笑った。
「それなら――」
「夕飯の準備を少し手伝っていただけますか?」
「もちろんです」
私はうなずく。
エレナは厨房の奥を指さした。
そこには大きな鍋が置かれていた。
湯気を上げている。
「そのスープを、食堂まで運んでいただけますか?」
「大鍋なので、少し重いですが……」
私は胸を軽く叩く。
「力仕事なら任せてください」
そう言って鍋に近づき、持ち手をつかむ。
――そして。
持ち上げようとする。
「……っ」
重い。
想像以上に重い。
持ち上がらないわけではないが、ほんの少し浮く程度だ。
(やばい)
(これは……まずい)
背中に冷たい汗が流れる。
(かっこ悪いところ見せることになる)
私は心の中でつぶやく。
(……ブースト、使うか)
誰にも聞こえないよう、小声でつぶやいた。
「ブースト」
その瞬間。
体の奥から力が湧き上がる。
筋肉が熱を帯び、体が軽くなる。
私は改めて鍋を持ち上げた。
今度は――持ち上がる。
「よし」
そのまま慎重に歩き、食堂まで運ぶ。
テーブルの上に鍋を置き、ふうっと息をついた。
そのときだった。
横から声が聞こえる。
「ユウさん、すごいですね!」
振り向くと、エレナが驚いた顔をしていた。
「その鍋、とても重いんですよ」
「私たちはいつも台車を使って、二人がかりで運んでいるんです」
「それを一人で運ぶなんて……本当にすごいです!」
私は一瞬固まる。
(それ、先に言ってくれよ!!!)
心の中で全力で叫んだ。
だが表情には出さない。
私は軽く笑う。
「ええ、まあ」
「これでも冒険者ですから」
「力には少し自信があるんです」
エレナは感心したようにうなずいた。
「頼もしいですね」
その後も、パンを運んだり皿を並べたりと、簡単な手伝いをいくつかこなした。
やがて準備がひと段落する。
エレナが手を軽く叩いた。
「そろそろ夕食の時間ですね」
「子どもたちを呼んできます」
そう言うと、エプロンのまま教会の外へ歩いていった。
厨房には、温かいスープの香りだけが残っていた。
ユウ「お、重すぎるって」
エレナ「ユウさん頑張っててえらい!」
ユウ「ふっこれぐらい軽いもんですよ」




