旅人の小宿ルミナ
ギルドの中は、先ほどの騒ぎが嘘のように落ち着いていた。
冒険者たちはいつものように掲示板を見たり、依頼について話したりしている。
私はその様子を眺めながら、小さく息を吐いた。
「……とりあえず一件落着ですね」
アイルはカウンターの上で翼をぱたぱたさせた。
「まあね。盗品も見つかったし、あとはギルド側で処理するだけよ」
リリィはカウンターの前でぴょんぴょん跳ねている。
「アイルすごかった!!」
「どーんって!」
両手を広げて、さっきの魔法を再現している。
アイルは少し得意げな顔になった。
「ふふん。これくらい、受付の基本スキルよ」
私は思わず苦笑する。
アイルはさらっと言った。
「冒険者ギルドの受付は、ある程度自衛できないと務まらないのよ!」
なるほど、と私はうなずいた。
確かに、ここにいるのは荒くれの冒険者ばかりだ。
弱いと舐められるのかもしれない。
そのときだった。
リリィが私の袖をくいっと引っ張る。
「ねえ」
「ん?」
「ユウ」
「どうした?」
リリィはきょろきょろと周りを見回す。
そして、少し不安そうに言った。
「……お父さん、どこ?」
私は一瞬、言葉に詰まった。
(……そうだ)
盗難騒ぎに気を取られていたが、本来の問題はそこだった。
リリィは迷子だ。
私はアイルを見る。
「迷子の届け、どうなりそうです?」
アイルは書類をぱらぱらとめくる。
「うーん……たぶん、少し時間がかかるわね」
「近隣の街にも問い合わせは出すけど、すぐに返事が来るとは限らないし……」
ちらっと窓の外を見る。
「もう夕方だし」
私も外に目をやる。
空は赤く染まり始めていた。
冒険者たちも、ちらほら帰り支度をしている。
そのとき。
リリィがぽつりと言った。
「ゆう」
「ん?」
「きょう、どこでねるの?」
私は完全に固まった。
「……」
(そういえばこの子……宿もないじゃないか)
アイルがにやにやしながらこちらを見る。
「どうするの?」
「どうするって……」
私は頭をかく。
「さすがに、このまま外に置いていくわけにもいきませんし」
リリィは私の服をぎゅっと握る。
「ユウといっしょ?」
私は小さくため息をついた。
「……まあ」
少し間を置いてから。
「今日は、ですけどね」
リリィの顔がぱっと明るくなる。
「やった!」
アイルが楽しそうに笑った。
「完全に保護者じゃない」
「違います」
私は即座に否定する。
「一時的な保護です」
「はいはい」
アイルは手をひらひら振る。
「じゃあ宿よね。この子を連れて泊まれるところ……」
少し考えてから言った。
「旅人の小宿ルミナがいいわね」
「この街じゃ評判いい宿よ。女将さんも優しいし、子供がいても文句言わないタイプよ」
私はうなずいた。
「なるほど」
リリィが私の手をぎゅっと握る。
「おやど!」
「おやど!」
完全に旅行気分である。
私は苦笑するしかなかった。
「じゃあ、今日はそこに泊まりますか」
アイルが言った。
「迷子の情報は回しておくわ。何か分かったら連絡するから」
「助かります」
私は軽く頭を下げた。
リリィもぺこっと頭を下げる。
「ありがとー!」
アイルは笑った。
「どういたしまして」
そして、小さくつぶやく。
「……ほんと、不思議な子ね」
私はリリィを見る。
狐耳をぴこぴこ動かしながら、楽しそうにしている。
「まあ……そうかもしれませんね」
私はリリィの手を軽く引いた。
「行きますか」
「おやど!」
ギルドの扉を開ける。
外は夕焼けに染まり始めていた。
街の灯りが、一つ、また一つと点き始めている。
リリィは空を見上げた。
「わあ……きれい」
私は歩きながら言った。
「アイルの話だと、この先にあるみたいだな」
リリィは元気よくうなずく。
「うん!」
そして私の手をぎゅっと握ったまま歩き出した。
こうして私たちは――
「旅人の小宿ルミナ」へ向かうことになった。
ユウ「リリィをアイルの家に泊まらせもらうことって」
アイル「いやよ、あたしがこの子に寝込みを襲われたらどうするのよ」
リリィ「リリィ アイル タベナイヨ」
アイル「信じられないわ!」




