ギルドでの騒ぎ
私は奥の方へ視線を向けた。
ギルドの掲示板の前あたりで、数人の冒険者が集まっている。
声を荒げているわけではないが、明らかに空気がざわついていた。
「なんだ?」
私が小さくつぶやくと、アイルがカウンターから身を乗り出す。
「ちょっと見てくるわ」
そう言って立ち上がろうとした瞬間――
「ちょっと待って」
リリィがまた袖を引っ張った。
私はしゃがんで目線を合わせる。
「どうした?」
リリィは少し不安そうな顔をして、奥のほうを指さした。
「……あれ」
「あれ?」
「へんなの」
私は奥をもう一度見る。
しかし、普通の冒険者たちにしか見えない。
鎧の男。
ローブの魔法使い。
大剣を背負った女。
どこにでもいるギルドの風景だ。
「……どれのこと?」
リリィは耳をぴくぴく動かしながら、小さな声で言った。
「あの、おじさん」
指さした先にいたのは、黒いコートを着た中年の男だった。
フードを深くかぶり、壁にもたれて立っている。
私は少し目を細める。
「……?」
特に変わったところはない。
ただの冒険者に見える。
アイルもそちらを見た。
「誰?」
「知らないですね」
そのとき、奥の冒険者たちの声が聞こえてきた。
「だから言ってんだろ!」
「俺は盗んでねえ!」
「じゃあなんで治療薬が消えてんだよ!」
「知らねえよ!」
どうやら口論になっているらしい。
アイルが小さく舌打ちした。
「はぁ……面倒な」
「治療薬?」
私は少し眉をひそめる。
すると別の冒険者が言った。
「さっき納品されたばかりだぞ」
「倉庫から一箱消えてんだ」
「誰か持ち出したに決まってるだろ」
アイルが呆れたように言う。
「……盗難ね」
私は肩をすくめた。
「ギルドでもあるんですね」
「そりゃあるわよ」
アイルはため息をつく。
「人間が集まれば、だいたい問題は起きるもの」
そのときだった。
リリィが私の腕をぎゅっとつかんだ。
「……こわい」
「ん?」
「なんか……」
リリィは奥の男をじっと見ている。
狐耳がぴくぴく動いていた。
「いやなかんじ」
私はもう一度その男を見る。
黒いコートの男。
相変わらず壁にもたれて、静かに様子を見ているだけだ。
だが――
ふと。
男の視線がこちらを向いた。
一瞬だけ。
そしてすぐに目をそらした。
「……」
私は少しだけ違和感を覚える。
ただの偶然かもしれない。
しかし。
リリィは小さくつぶやいた。
「……あのひと」
「どうした?」
「なんか……」
少し考えてから言った。
「わるいにおい」
私は思わず苦笑した。
「匂い?」
リリィは真剣な顔でうなずく。
「うん」
アイルが面白そうに笑う。
「へえ、狐耳の勘ってやつ?」
「かもしれませんね」
私はそう言いながらも、もう一度男を見た。
その瞬間。
奥の冒険者が叫んだ。
「おい!」
「待て!」
全員の視線が動く。
黒いコートの男が、静かに出口へ向かって歩き出していた。
冒険者の一人が怒鳴る。
「お前だろ!」
「さっき倉庫にいたの見たぞ!」
男は振り返らない。
そのまま扉へ向かう。
アイルが眉をひそめる。
「……あー、これは」
私は小さく息を吐いた。
「面倒なことになりそうですね」
そして次の瞬間。
冒険者の一人が剣を抜いた。
ギルドの空気が、一気に張り詰めた。
その横で――
リリィが小さくつぶやいた。
「……やっぱり」
「わるいひと」
リリィ「ユウ いいひと」
ユウ「え?ありがとう」
リリィ「アイル うまい」
アイル「!?!?!?!」




