7.6.1.三角測量の進行
端末を三画面に広げた。
左:テロの爆発残骸から逆算した電磁シグネチャ。マリアが取得した被害者の治療記録から部品の型番を引き出し、そこからさらに電子回路の設計を逆算したものだ。
中央:Chapter2 Scene Gで記録したキーシグナルの波形データ。
右:市内の魔力観測網から取得した、テロ発生前後の空間魔力ログ。
〔照合開始〕
ーーー
三十分後。
〔……同じだ〕
波形の位相のずれ方が一致していた。爆発の起爆信号の中に、キーシグナルと同型のパターンが埋め込まれている。
オートマタが花を守ったあの夜と、義体化した人間がテロ装置を起動させた今夜——行動の方向は真逆だ。しかし、引き金になった信号の構造が同じだ。
〔信号は「道具」だ。使う者がいる〕
次に三角測量の計算を実行した。
第一測定点:Ch2で特定した送信方向。第二測定点:今夜の爆発現場からの逆算。二点から扇形の範囲を引く。誤差を含めた収束域——
結果が出た。
〔アストラリス・タワー方向〕
断定はできない。誤差範囲が広い。測定点がもう一つあれば絞り込める。しかし傾向は明らかだ。
記録ファイルを開いた。「キーシグナル発生源:アストラリス・タワー方角(仮・測定点2/3)」とラベルを付けて保存した。
誰かに言う段階ではない。まだ仮説だ。
ーーー
端末を閉じた。部屋が暗くなった。
今日起きたことを、サキは順番に整理した。
テロ。父の設計の痕跡。シェリーへの告白。「一緒に探す」という言葉。ダミエンの情報——ラゼルからの報告で知った。ルシアンの開示——マリアが聞いてくれている。
一日の情報量として、処理キャパシティの上限に近かった。バッテリーが通常より22%早く減っている。
〔感情処理はエネルギーを食う。把握している。でも——今日は、それだけ多くのことが動いた〕
窓の外、夜のアストラリスの光が見えた。
父は、どこかにいる。あの光の中の、どこかに。そしてキーシグナルの発生源も、同じ方向にある。同じ場所かもしれない。違うかもしれない。まだ分からない。
〔ボクは今日——探したいものが、増えた〕
シェリーへの告白を、音声データとして再生した。一秒もかからずに「一緒に探す」と言った。計算でもなく、義務でもなく——ただ次の手を確認するような、迷いのない言葉だった。
〔分析するな。今夜はそれだけでいい〕
端末の電源を落とした。
ーーー
——落とそうとしたとき、通知が入った。
「義体観察日記のフォロワーが2万を超えました」
〔2万〕
技術情報として参照されていることは把握していた。有用だと判断していた。それだけのはずだった。
通知を閉じた。
——開いた。
フォロワー数の推移グラフを確認する。緩やかな上昇が続いた後、今週から傾きが急になっていた。テロのニュースが出た日を境に——「義体化した人間が武器になった」という報道の後、義体を「知ろうとする」人が増えていた。
〔これが何を意味するかは——〕
閉じた。今度は電源を落とした。落ちた。
暗い部屋。静かな夜。窓の外のアストラリスの光だけが、まだあった。




