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半分の吸血姫、半分の…?  作者: u-nyu
7.偽旗
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7.1.3.夜と、一万人のこと

 サキのラボの電灯は、夜になっても消えていなかった。


 端末を膝の上に置いて、デスクチェアに座っていた。窓から外の灯りが入っている。他に、光源はなかった。


 通知を、また開いた。


 「義体観察日記のフォロワーが1万を超えました」


 〔1万〕


 一度閉じた。また開いた。グラフがある。緩やかな上昇の後、今週から傾きが急になっていた。テロのニュースが出た日を境に。


 〔これは何か〕


 技術情報を必要とする人が増えた、という解釈はできる。義体化した人間が「武器になる」という報道の後、義体を「知ろうとする」人が増えた——それは合理的な行動だ。サキが記録することに意味がある、という証拠でもある。


 でも。


 〔でも、なんだ〕


 分からなかった。


ーーー


 ドアが開いた。一回のノック。返事を待たない入り方だった。シェリーが手にコップを持って入ってきた。


 「まだ起きてたの」


 「充電中です」とサキが言った。「必ずしも眠っている必要はない」


 「そっか」とシェリーが言って、作業机の端のスツールに腰を下ろした。


 何も聞かなかった。


ーーー


 しばらく、二人で外の光を見ていた。


 「義体観察日記、見てるよ」とシェリーが言った。


 「参考になりましたか」


 「なった。でも——それより」シェリーが少し考えた。「なんていうか、ちゃんとサキがいる感じがする。映像のなかに、アバターなのに」


 〔ボクがいる〕


 サキは意味を考えた。「……義体化している人間が書いた、という意味ですか」


 「そうじゃなくて——サキが見てるものを、サキが見てる順番で見ている、っていうか」


 〔それは当然では〕と思ったが、言わなかった。シェリーが「うまく言えないな」と苦笑した。「でも見ていて、ちゃんとそこにいる感じがするんだよ。それだけ」


 〔ちゃんとそこにいる〕


 〔ボクが創ったものを、ボクとして見ている〕


 それがどういうことなのか、今夜考え切れる気がしなかった。でも——残しておく価値のある感覚だった。


ーーー


 「フォロワーが増えました」とサキが言った。「1万を超えた」


 「そっか、すごい」


 「すごい、かどうか分かりません。テロの後に急増したので——義体を脅威と見る人が増えた結果かもしれない。ボクが創っていることへの共感ではなく、義体化人間の動向を確認するために読んでいる人が混じっている可能性がある」


 シェリーが少しの間、黙った。


 「どっちもいると思う」と言った。「でも——どっちの人が見ていても、サキが作ったものは変わらないよ」


 サキはそれを処理した。


 〔創ったものの価値は、見る側の動機によって変わらない〕


 「……なるほど」


 「そういう意味で言ったかどうかはわかんないけど」とシェリーが笑った。


ーーー


 もう少しして、シェリーが「寝るわ」と言って立ち上がった。「おやすみ」


 「おやすみ」


 シェリーが廊下へ消えた。静かになった。


 サキは端末を見た。通知は、さっきのままだった。


 〔ボクが創ったものは変わらない〕


 閉じた。今度は開かなかった。

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