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81.オカアサン

カイたち一行は、長旅を終え、エステンの町へと到着していた。

旅の疲れは確かにあったが、見慣れた町並みと人々の笑顔にどこか癒される。


「……変わってねぇな」

カイはぽつりと呟いた。


半年ぶりに見るこの町は、前と同じように穏やかだった。

行き交う人々の顔にも、特に変化はない。日常が、そこにあった。


――でも、自分だけは変わってしまった。

カイはふとそんな思いにとらわれる。


魔物との死闘、世界の秘密、そして自分の出自。

まるで巨大な歯車に巻き込まれているような感覚がずっと胸にあった。

その正体はわからない。ただ、逃れられないということだけは、確かだった。


「今日は久々にベッドでゆっくり寝て、明日の朝、森へ入ろう」

カイの言葉に、皆は静かに頷いた。


エステンの宿屋兼食堂。

柔らかな灯りの下、カイ、ミーア、オリビア、マリ、ルカの五人は、長テーブルを囲んで夕食をとっていた。

焼いた鶏肉の香ばしい香りが鼻をくすぐるが、どこか緊張感があった。


マリとルカは落ち着かない様子で、視線を何度もテーブルとカイに行き来させていた。

明日入る森。そこには危険な魔物がいるという噂がある。だが、最も気になっているのは別の存在――。


マリがフォークで鶏肉を刺しながら、不安げに口を開いた。

「森に入って早々に……黒の魔女に遭遇するってこと、ないよね? でも本当に、そんな人が存在するの?」


少し早口だった。緊張が見え見えだ。


ミーア、カイ、オリビアは顔を見合わせる。

しばらく沈黙が流れ、やがてミーアが口を開いた。


「……魔女なら、いるよ。森に」


その静かな言葉に、マリとルカの表情が固まる。

「あはは、冗談でしょ?」

ルカが引きつった笑顔を浮かべる。けれど、ミーアは真剣だった。


「黒の魔女って……ヒルダっていうんだけど。あの人、私のお母さんなの」


フォークを持つマリの手が止まった。ルカも驚きで言葉を失う。

「……え? ええぇっ!?」


間髪入れずに、カイが言葉を添える。

「俺も助けられた。森で……育ててもらったんだ、ヒルダに」


マリとルカの視線がカイに突き刺さる。何か言おうと口を開きかけたその時、オリビアがいつもの調子でさらりと口を開いた。


「私のお母さんでもあるのね、ヒルダは」


「ちょ、ちょっと待って!? なに!? 今の一瞬で爆弾が三つぐらい投げ込まれた気がするんだけど……」

マリが目をぱちくりさせながら叫んだ。


ルカは、思考が追いつかず、ただポカンとしていた。


夕食を終え、皆はマリとルカの部屋に集まっていた。

ベッドに腰掛け、まだ動揺の残る表情で話を続けていた。


マリが鋭い目つきでオリビアとミーア、そしてカイを順に睨む。

「整理させて……ルカと、オリビア先生は……姉妹ってことになるの?」


オリビアはため息まじりに苦笑すると、長く垂れた髪を片方に寄せて、耳を見せた。

すらりと尖った耳。月明かりに照らされて、特徴的な輪郭が浮かぶ。


「エルフ族なのね。隠していたつもりはなかったけど、聞かれなかったから答えなかっただけなのね」

淡々と語るオリビアに続いて、ルカも髪をかき上げ、同じように耳を見せた。


マリとルカは同時に息を呑んだ。

「本当に、エルフ……」


部屋には、しばし言葉のない時間が流れた。


やがて、ミーアがゆっくりと自分の過去を語り出した。

つらい出来事、逃げ場のない日々、そしてヒルダとの出会い――。

その全てが、彼女を救い、今の穏やかな生活をつくったこと。


オリビアもまた、同じように母ヒルダに助けられ、研究者としての道を歩むことができたことを語った。

ミーアもまた、今はお兄ちゃんであるカイと一緒に過ごせていることに感謝をしていると伝えた。


その話を聞いて、マリもルカも、簡単な言葉で返すことができなかった。

胸が詰まり、軽々しい慰めなんて言えない。


ようやく、マリが重い口を開いた。


「……それじゃ、黒の魔女って呼ばれてるヒルダって人は……

 ずっと、捕らわれてるエルフたちを……助けてきたの?」


ミーアが、静かに頷いた。


「誰も……そんなこと、何も教えてくれなかった……」

ルカの声が震えていた。目元には涙が光っている。


「……ミーアも、オリビア先生も……大変だったのね……

 つらい過去があったのね……」


その一言に、誰も返せなかった。

焚き火もない部屋の中で、ただ静かに感情が交錯する。


マリは恐る恐るカイに聞く

「カイは……エルフ族じゃないよね…?」


まさかの問いにカイは驚いた様子だった

「俺は、人間だ、人間族だ」

(最初から見えてる耳を、髪をかき分けるマネをして見せた)


なにか、ほっとしたような表情にも見えた、マリとルカ。


カイは心の中で、改めて思っていた。

――ヒルダは、ただの“黒の魔女”なんかじゃない。


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