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69.マリとルカの日常

ある日のこと。

俺が、ア・ラーナ大迷宮に入って、数週間がたった。



学生寮のポストを調べるマリ。


「……カイから手紙は来ないわよ……」


マリの背後からボソリというルカがいた。


マリは少しとぼけた顔をしながら、だが期待を込めてポストを開ける。やはり何も入っていなかった。

迷宮から手紙が届く訳がない・・・・。



顔を真っ赤にし汗を流すマリ。


「分かってわよ!」(ひょっとして来るかもと思っていた)


「……心配してる?……」


「そりゃぁまぁねー、心配ぐらい・・・・するわよ・・・・」


ルカ曰く、俺が大迷宮に入ってから、ずっとソワソワしていたマリ。授業中もどこか遠くを見たり、食事中もフォークをポロポロ落としたり、階段を踏み外すし、段差のないところでこけたり……集中力が欠けていた。


「……早く帰ってきたらいいのにね……」


ルカはマリを宥めることしか出来ないことが、不甲斐なく感じていた。少しでも気を紛らせることができないかと考えを巡らせる。


「……マリ……久々にクエストを受けない?……」


「ルカからクエスト受けようなんて、珍しいわね」


二人で冒険者ギルドへとやってきた。いつものにぎわいはやや落ち着き気味だった。



「どれも、Dランクばかりね。以前のゴブリン騒ぎからかなり落ち着いたみたいだし、平和なのはいいことだけど……」


「……Cランクのこれ、どうかしら……」


ルカが手に取ったリストには、こう書かれていた。


(呪われた箱の処分を願う!)



~とある民家~



「ギルドの依頼を見てきました」


とある民家から出てきたのは、一人の老婆だった。腰が曲がり、杖をついた姿がいかにも年季の入った冒険の語り手のようでもある。


「あらー、若い子が来たのねー、大丈夫かしらー」


マリとルカを見て、何か心配そうな様子の老婆。とりあえず家の中へと案内してもらう。


「ところで、呪いの箱ってのは……?」


老婆は地下室にあるという。


薄暗い部屋の隅に置いていた、埃をかぶった木箱を指さした。見た目は古いが、至って普通の箱。ただ、異様に重厚な鎖でガッチリと封印されていた。とてもアンバランスだった。


「なんで呪いの箱と言われているんですか?」


「それはねー……」


老婆は、ポケットから小さなカギを一つ取り出した。鎖に掛けられた錠を解除するカギらしい。


「これを外すとね……呪いがわかるわよ」


カギを預かったマリが、恐る恐る箱へと近づく。ルカも警戒しながら召喚した杖を構えていた。


「ルカ……覚悟はいい?」


「……いいよ、何かあったら私の魔法で……」


「それじゃ、いくよ」


マリはそーっと錠のロックを解除した。


(ガチャ)


急いでルカの元へと逃げるマリ。


だが、マリが振り向くと、さっきまでそばにいた老婆の姿がなかった。


「あれ、おばあちゃんは?」


その時だった。木箱がガタガタと揺れだした。箱の中に何かがいるのか!? 魔物か!? 一体どんな呪いなのか!?


「……マリ、気をつけて……」


短剣を抜き構えるマリ、いつでも魔法が発動できるように杖を構えるルカ。


箱は地面を無機質に動き出したと思ったら、狙いを定めたような動きに変わった、木箱はスライドするように動きになり、一直線でマリに向かう。


そして勢いよくマリの脚にブツかった。


「いったぁーーーい!!!」


思わず、痛さで短剣で箱を刺してしまった。だが箱は止まらず、今度はルカの方へと滑り動き出す。


勢いよくルカの脚に箱の角が当たる。


「……っ!!!痛い・痛い・痛い……」


その時、部屋のドアがわずかに開き、老婆が顔を覗かせて説明する。


「その箱は、呪いが掛かっていて、“弁慶の泣き所”と呼ばれてたそうで、脚に向かい飛び込んでくる箱なんです……しかも角で……」


その間も、マリとルカの脚をボカボカ何発もぶつかってくる。


「いったぁぁぁーーーい!」


「痛い・痛い・痛い……」


どうやって駆除、いや退治したら良いのか、マリとルカが必死に考えていた。木の箱なので、燃やせば早いが、家の中で火炎魔法は危険。呪い解除魔法は発動まで時間がかかる、その間に脚を攻撃されてしまう。


「……マリ……箱の上に乗れる? 動きが止まるんじゃない?……」


マリはタイミングよく、箱の上に飛び乗った。


一瞬、動きが止まった。だが、先ほどと変わらず、マリを乗せたまま床を滑り出す。そして再び、ルカの脚へと突進してきた。


「……痛い!!!」


ルカの叫び声が家中に響く。いつになく真剣な顔と目つき。


「マリ、降りて!」


「え、でも、こうやっていれば私には攻撃が来ない……」


ハッとなったルカ、「やられた!」と顔を歪める。


「……お願い降りて……私の足、もう限界……」


ルカのスネは真っ赤に腫れ上がり、涙目でマリを見つめていた。


「それじゃ、二人で乗れば?」


「ダメ、スペースが足らない……だから早く変わって……」


その間も、何発もスネに攻撃を食らうルカ。泣きながら逃げ回るが、箱はしつこく追いかけてくる。


「マリ!変わって!!」(まるで人が変わったかのようだ……)


「ちょっと!ルカ!怖い!!!」


「だ~か~ら~、変われって!!!」


「ひぃ~」


「私が箱に乗り、その間に呪い解除魔法を唱えるから!」


(ルカのスネからは血が出てきた)


「分かったわ、それじゃ……あ~!でも無理!無理!やっぱり無理!痛いもん!」


その瞬間、ルカの目が赤く光り、持っていた杖で木の箱を串刺しにした!


杖は、マリの足と足の間を貫通していた。


「ひぃっ!? ちょ、ちょっとルカ!?」


すると、箱の動きがピタリと止まった。


「あれ? 止まった……」


「はぁはぁはぁはぁ……」


「ルカ……大丈夫……?」


「……見てよこのスネ……」


ルカの足は、見るも無残な真っ赤な腫れ。マリは申し訳なさそうに顔を伏せた。


「ごめんね……私のせいで……」


「……でも、なんで止まったんだろう……」


二人で木箱を観察してみた。刺さった杖を抜こうとした際、上部の板が外れた。


外れた板の裏側には、魔法陣が刻まれていた。ルカの杖が魔法陣を貫通したため、動きが止まったようだ。


「これで、止まったのね……」


二人は脚を引きずりながら、老婆の元へと向かった。



二人は老婆に説明し、呪いの箱は討伐されたと報告した。




「どう? これで痛み消えた?」


マリの回復魔法でルカのスネを治療した。


「……痛みは消えたけど、心の傷は残ったまま……」


「ごめんね、ルカ……」


「……そして、マリがカイと一緒でポンコツなのもよく分かった……」


「それは違うでしょ!!」


二人は、木箱の魔法陣を持って魔法学校へと行き、オリビアに見せた。


「これは古い魔法陣なのね」


「一体どんな魔法なんでしょう」


オリビアが古い文献を見つけ、説明する。


昔、戦争があった時代、敵対国とは戦力が均等していて、お互い消耗戦となっていた。


ある学者が、「敵兵の足を止めるため」にこの魔法を提案した。


それは、敵兵が進んで来るであろう導線の石にこの魔法陣を刻み、歩いてきた敵兵のスネ目掛けて飛んでいき、敵兵の士気を下げるという。


ただ、この魔法の欠点は、敵味方関係なく飛んでいくことだった。


そんなことで、この魔法は却下となった。あの箱はテスト的に作られたものじゃないかと推測される。




静かに本を閉じるオリビア。




そして、深く肩を落とし、あきれ返る二人がいた。



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