68.ミーアの日常
俺がア・ラーナ大迷宮にいたころ
学校が休みだったミーアは、俺がいないもんだから、何をしていいのか悩んでいた。
その姿は少し肩が落ち、寂しそうにみえた・・・・
「お兄ちゃんがいないから退屈……どうしようかなぁ……」
その時、勢いよく扉が開いた。
「ミーア!カイがいないから寂しいでしょう!」
元気よく飛び込んできたのはマリ。そして後ろにはのそっとルカもいた。
「……おはよう……」
「おはようございます」
「退屈してるなら、私たちと街に出ましょうよ!」
少しだけ顔をほころばせて、ミーアは小さくうなずいた。
「……うん……行く……」
こうして、ミーア、マリ、ルカの三人は街へと繰り出すことになった。
日曜日のベンゲルは人でにぎわっていた。屋台の香ばしい匂い、子どもの笑い声、楽団の演奏、どれも活気に満ちていた。
この街での庶民は、家でご飯を食べる文化があまりなく、外食が当たり前。路肩にはテラス席が並び、家族連れや恋人たちがそれぞれの朝を楽しんでいた。
「ここのパンケーキが有名なの。いつかは食べてみようと思ってたのよね!」
マリのテンションが高い。
「……うん、美味しい……」
「ふふ、美味しい……」
三人はパンケーキを頬張りながら、にこやかに朝食を楽しんだ。
「さて、ミーア!行きたいところある?」
「うーん……」
特にこれと言って思いつかなかったが、三人は街中をぶらぶらと歩き始めた。
「この服、お兄ちゃんに似合うかな……」
服屋のショーウィンドウを覗きながら、ミーアがぽつりと言う。
「やっぱりミーアはカイのこと考えてるのね〜!」
「……うん……お兄ちゃんに似合うと思う……」
「でもセンスいいね、その服、かっこいい!」
騒がしくも和やかに、三人はブラインドショッピングを楽しんだ。
武器屋では——
「あ!この短刀いいね!買おうかしら」
「……マリは短刀を買いすぎ……」
「いいじゃない!腐るもんじゃないし!」
雑貨屋では——
「あ!これ見て!変わったアイテム!」
「……どんなの……?」
「レアアイテムを見つけやすくするチョーカーだって!」
「……それ自体がレアアイテム……」
「安いし、買っちゃおう♪」
買ったチョーカーを嬉しそうに着けるマリ。
「……首輪みたい……」
ルカのつぶやきに、マリの拳がルカの頭に軽くヒットした。
「こらぁ!」
そんなこんなで歩き疲れた三人は、噴水広場のベンチに腰を下ろした。
「はぁ〜、結構歩いたわね。そういえば、オリビア先生って何してるのかしら」
「……先生の休日は謎……」
「先生、本を探してるって言ってたよ?」
ボソリと言うミーア。
「じゃあ、本屋に行けば会えるかもね!」
気まぐれに、大きな本屋へと向かう三人。
「先生、いなかったわね」
「……違う本屋かも……」
「残念……」
その時だった。
「何が残念なのね?」
突然、背後から聞き慣れた声が。
「わっ、先生!?」
「何をしてるのね?」
「先生に会えるかもと思って、本屋巡りしてたんです!」
「それは奇遇なのね。せっかくだから、お茶でも飲みに行くのね。少し遠いけど、景色のいいお店があるのね」
こうして四人は、オリビアのおすすめするカフェへと向かうことに。
カフェは街の外れ、小高い丘の上にあった。
到着した頃には、夕暮れ時。
「夕日が……綺麗……」
「うわ、素敵!」
「……うん、とても綺麗……」
「ここのお店は、いつ来ても違う表情を見せてくれるのね。今日の夕日は格別なのね」
紅茶とデザートを味わいながら、穏やかな時間が流れていった。
「たまたま先生に会えて、いいお店まで知れて……これって、あのチョーカーのおかげ?」
「……チョーカーの効果かも……」
四人は顔を見合わせ、くすっと笑い合った。
その時だった。
「ねえ……あれ、なに……?」
ルカが指さした先、地平線の向こうから光る物体が蛇行しながらこちらへと向かってくる。
「なんか来てるわよ!? 何アレ!」
「魔法反応……ないのね」
「……未知の生命体……?」
少しづつ近づいてくる光、目をよく凝らして見てみると、そんなに大きくない。
大き目なパンと同じぐらいの大きさだった。
光りはよく見ると、丼の型をしていた、
そして、ゆっくりと軒先に着陸。
「ちょ、ちょっと!?着陸したわよ!?」
蓋が開き、隙間から白い光が放たれる。
光のせいでよく見えないが
中からタコかイカのような異形の軟体な存在が確認された。
「魔物!?」
「……でも敵意は……ない……」
「手、振ってる……?」
四人も反射的に思わず手を振り返す、ポカンとする四人。
やがて丼の蓋が閉まり、光とともに空へ浮かび上がり、左右に揺れながら闇の空へ消えていった。
「な、なによアレ……」
「……わからない……」
「幻だったのか……」
「見なかったことにするのね……」
そしてその時、マリのチョーカーがほんのりと怪しく光を放っていた。




