52.古代魔法研究会の新しい仲間
「あらら、魔術テストでミーアさんを賭けて戦うとは、青春なのね」
オリビア先生が呑気に微笑む。その姿を見て、俺は思わずため息をついた。
「先生、ところで魔術テストってなんですか?」
「年に三度、期末に行われる魔法武術大会のことなのね」
「本来はどのような大会なんですか?」
俺がさらに質問すると、オリビア先生は黒板の前に立ち、魔法のチョークを取り出して空中に図を描きながら説明を始めた。
「魔法武術大会とは、年に三度行われる大会で、出場者は学校関係者のみなのね。どんなに成績が悪くても、大会で入賞すれば進級が約束されるのね」
魔法適正が正しく選ばれているか、教師陣で判断する場でもあるようだ。
「そして、年に一度だけ行われる大会は、学校関係者以外も出場できるのね。こちらは学校の威信をかけて学生が戦うのね。こっちの方が大変で、本物の実力が問われる大会なのね」
「ルールは?」
「いたって簡単なのね。コロシアムで試合を行い、魔法の力だけで勝負するのね。勝敗は死ぬか試合放棄で決まるのね。死んでも教師陣の回復魔法で復活できるから、ある意味安心なのね」
「なんとも物騒な大会ですね……」
「というわけで、大会に向けて特別授業をするしかないのね」
「ところで大会っていつやるんですか?」
「二か月後なのね」
「……まだ二か月もあるのか」
拍子抜けして思わず力が抜ける。
グレーン殿下のことだ、何か裏があるはずだ。彼が勝負を仕掛けてきたのは、ただの思いつきではない。何か作戦を立てているに違いない。
考えても分からないことは、考えない。とにかく今は特訓あるのみだ。
放課後、俺とミーアは古代魔術研究会の部屋にいた。
天井まで届く本棚が部屋の四方にぎっしり詰まり、中央には大きな丸テーブルが置かれている。所狭しと積まれた文献、羽ペン、試験用の魔道具……混沌とした空間だった。
「古代魔術研究会の部屋なんか落ち着く……」(現生では本好きだった)
「うん、落ち着く匂い……」
この研究会では、古代魔法について文献を調べ、現代文へ翻訳し、その魔法が実用可能かどうかを検証する。それを先生が論文にまとめて提出する。
古代魔法は少し古い文字で書かれているが、翻訳する本がある。
研究者たちの努力の成果だ。
「今日から仲間が増えるのね」
部屋に現れたのはマリとルカだった。
「よろしくね!」
「……よろしく」
少し緊張気味のルカと、元気いっぱいのマリ。
「それではカイ、あとはよろしくなのね。私は職員室で会議があるのね」
オリビア先生がひらひらと手を振って退室していく。
俺は新しいメンバーに研究の流れを説明しながら、本棚の一角にある気になる一冊を取り出した。
「今日はこの本をやろう。現代文に翻訳して、中身の魔法が使えるか確認するぞ」
その本はかなり古く、表紙も背表紙もひび割れ、埃っぽかった。恐らく、500年前に書かれたもので、魔物との戦争時代の魔法が記されているようだ。
「この時代は魔物の数が今より多くて、魔素も濃かったらしい。それで防具の強化魔法が開発されたようだ」
「これは使えそうな魔法ね」
「強い防具がさらに強くなるなら、凄い魔法……」
「じゃあ、俺のこの上着で試してみようか」
俺は着ていた制服の上着を脱いで、机に置く。
ミーアが文献を確認しながら、詠唱を始めた。彼女の手のひらから白い光があふれ、それが上着を包み込んだ。
「……これで完了みたい。意外と魔素を持っていかれた……」
ミーアが珍しくぐったりしていた。
「どれどれ……」
俺は上着を手に取って着てみた。
「ん?あまり変化がないような……いや、袖が……?」
「少し袖が伸びてるぞ……」
ミーアが首を傾げながら文献の続きを読んでいたが、やがて意味を理解して顔を赤らめた。
「この魔法……縮んだ服を元通りに戻すだけの魔法で、袖や裾を少し伸ばす用途らしい……」
「なんて魔法だ……!」
俺は天井を見上げてため息をついた。
マリがくすっと笑う。
「でも、便利っちゃ便利かも。服が縮んだときには……」
「いや、それはそれで使い道あるけども!」
こうして俺たち古代魔法研究会は、今日もゴールの見えない旅を続けているのであった。




