51.正しい魔法
授業が始まって数日が経過していた。
教室では、先生が魔法の基礎について熱心に説明している。
「正しい魔法とは、魔素を捉え、集中し、詠唱を行い、そして魔法が発動するのです。これは初等魔法から高等魔法まで共通の動作なのね」
俺はノートに書きながら、先生の言葉を反芻していた。
「詠唱は必要なのですか?」
俺が手を挙げて質問する。
先生は穏やかに微笑みながら答えた。
「必要ないと言えば必要ないのね。ただ詠唱なしだと威力が半減するのね。考え方を変えれば、詠唱なしで通常魔法の威力、詠唱ありで威力が増すということなのね。あと、詠唱はカッコいいから唱える魔導士もいるのね」
俺は思わず笑いそうになった。
「そして魔法によっては、魔法発動の際に精霊などに感謝の気持ちを示す必要があるのね。その感謝の気持ちが詠唱の意味合いになるのね。お願いをしてから魔法を発動させるのね」
隣に座るミーアも真剣に聞き入っている。
「先生、命令するのじゃないのですか?」
俺はさらに訊いた。
「命令できるのは、最上級の大魔導士や魔女と呼ばれるハイランクの人たちなのね。精霊に認められれば命令も可能だけど、あなたたちはまだお願いするしかないのね」
ミーアが小さく頷いた。
「なるほど……お願いするんだね……」
先生は続ける。
「一年目は精霊を使わない魔法を覚えるのね。大地、木、空気、火、水、光、影、土の力を借りて発動させる魔法なのね。二年目になると、精霊にお願いして使う魔法を覚えるのね」
「いよいよ学校での授業らしくなってきたな!ミーア、頑張ろうぜ!」
俺が言うと、ミーアは元気よく返す。
「うん!お兄ちゃん!」
兄妹だけのこの魔法教師生活は、なんとも贅沢な感じがした。
昼休憩になり、俺たちは食堂へ向かった。
普段はミーアが手作りのお弁当を持ってきてくれるのだが、今日は寝坊したらしく、たまには食堂もいいかと思った。
食堂に入ると、豪華なメニューに思わず目を見張る。
「まじか!昼からステーキとか出るんだな……こっちはコース料理かよ、どうなってるんだよ!」
ミーアも感嘆の声を上げている。
「うん、すごいねお兄ちゃん」
俺たちは少し戸惑いながらも、日替わりランチのオムライスを注文した。
「おお!オムライスだ、この世界にもあるんだな。こっちの料理、マズイのが多いから、どんな味か楽しみだ!」
俺たちが並んで食べ始めたその時、後ろから声が聞こえた。
「あぁ!いた!カイ!!」
振り返ると、やっぱりマリとルカだったね。
二人とも元気そうだ。
「一緒に食べましょう!」
マリがにっこり笑いながら声をかける。
「一緒に食べる……?」
俺が答える前に、ルカがミーアの方を見て小声で囁いた。
「ねえ、マリ……あれ、カイの恋人?」
マリも小声で答える。
「だって、並んで座ってるし、すごく仲良さそう……」
俺は二人の会話が気になって、慌てて言った。
「ち、違う!ミーアは俺の妹だ!」
マリとルカは同時に驚いた表情を見せる。
「妹!?そうだったの!?」
「なんだ、恋人じゃなかったのか……」
二人は顔を見合わせてくすくす笑った。
「ごめんね、勝手に勘違いしちゃったね」
「まあ、そう思ってしまうのも仕方ない」
俺は少し顔を赤らめながらも苦笑いだ。
「まあ、確かにミーアといると、よく勘違いされるんだよな……」
ミーアは照れくさそうに微笑んでいる。
そこへ、突然騒がしい声が聞こえた。久々だけど聞きたくない声。
「おい!平民!新設されたCクラスはどうだ?」
振り返ると、グレーン殿下とその取り巻き数名がこちらを睨みつけていた。
俺は覚悟を決めて答えた。(めんどくせー)
「お陰様で勉学に集中できています」
しかし、グレーンは不満そうな顔で言い返す。
「なに!?家畜は家畜小屋が馴染むんだな!!」
ミーアが俺の袖を引っ張って囁く。
「お兄ちゃん……この人、誰?」
俺は苦々しく言った。
「ああ、あいつは王子様……グレーン殿下だな」
その美しい姿に惹かれてか、グレーンの目が一瞬ハートマークのようになった。
「お前のような者がAクラスにいないのが不思議だ。どこのクラスにいるのだ?」
「僕はお兄ちゃんと同じCクラスだけど」
「なんと!Cクラス!?この平民と同じCクラスとは!……お兄ちゃん?」
「そう、お兄ちゃん」
「なに!!許さんぞ!この平民風情がこの様な美しい方と兄妹とは!ゆるさん!!」
俺たちのやり取りを聞いていた取り巻きの一人が耳打ちする。
「殿下、それでは……」
グレーンは振り払うように言った。
「ほうほう、それはいい考えだ……おい、平民!今度の魔術テストで勝負だ!そして私に負けたら、その美しい方をAクラスに編入してもらう!」
俺は驚いて聞き返す。
「魔術テスト?」
「この平民は魔術テストも知らないのか!」
マリとルカも隣でざわつく。
「できれば無視したいけど……無視できないよね?」
「おい!平民!無視しようとするな!」
俺は仕方なく答えたのね。
「俺が勝ったらどうなるんだ、殿下?」
「お前に発言権はない!黙れ!!」
「なんて理不尽な……」
「まあ、お前が勝つことはないのだから、何だって言うことを聞いてやる!」
こうして、魔術テストでミーアを賭けて、殿下と戦うことになってしまった。




