46.世の中、金
三人でギルドまでやってきた。俺は魔法袋からゴブリンの討伐部位、すなわち大量の左耳を取り出していった。
「やめてください! それ以上出さなくて結構ですから!!」
カウンターの向こうで、受付嬢が半泣きになって叫んだ。
「え、まだ半分も出してないんだけど……」
魔法袋の中には、まだまだゴブリンの耳が残っていた。
「しかし、これほどまでの数を……おひとりで討伐されたのですか?」
受付嬢が顔を引きつらせながら訊いてくる。
ヤバい。このまま正直に答えたら、きっと面倒なことになる。平民の俺が目立ちすぎると、間違いなく面白くない貴族たちが何かしてくる。出る杭は打たれる。いや、杭どころか木槌で粉砕される未来が見えた。
「いやいや! 三人で狩りました!」
俺はとっさにマリとルカの肩を抱き寄せ、愛想笑いを浮かべながらそう言った。
「え……わ、私……」
「…………」
ルカが口を開きかけたが、すぐに口を閉じた。
その後、ギルドの隅のテーブルに三人で腰掛ける。
「頼む、三人でやったってことにして! 本当にお願い!」
「なんでそんなことにしたいの?」とマリが不思議そうに眉を寄せる。
「……私は何もしてない……」とルカは小さく呟いた。
俺はこっそり周囲を見渡しながら説明を続けた。
「俺みたいな平民が目立ちすぎると、必ず問題が起きる。上級貴族の子息とか、目をつけられたら厄介だろ? 出来れば静かに穏便に過ごしたいんだよ」
「……分かったわ」
「……分かった……」
俺の必死な様子に、二人はしぶしぶ了承してくれた。ありがたい、マジで。
「ほんとはさ、魔物たちも出来ることなら狩りたくない。話し合いでなんとかならないか、そう思ってる」
俺の声は、どこか遠くを見つめていた。
「……カイがそこまで思うのは、今までに何かあったんだね」マリがそっと言った。
「そう。俺の国では、戦争や病気や震災で多くの人が死んだ。それを知ってるのに、命を奪うことが、こんなにも簡単でいいのかって……」
「でも、カイの国には魔物はいなかったの?」とルカが首をかしげる。
「ああ。魔物はいなかった。でも……この世界にはいる。だったら、この世界の歴史や考え方も、ちゃんと知る必要があるのかもな」
「うん。歴史を知ることで、何をすべきか見えてくるかも」とマリが笑ってうなずく。
「でもさ、こういうのって答えがないじゃん? 正しい答えが。だから悩むんだよな……」
俺は腕を組み、深いため息をついた。
そんな時、ギルドのカウンターから呼び声が上がった。
「カイ様、討伐報酬の計算が完了しましたので、カウンターまでお越しください」
「お、おう……」
考え事をしながらフラフラと歩いて行くと、カウンターの上には見たこともない量の金貨が、まるで山のように積み上がっていた。
「合計で510万ギドとなりました」
「ご、ごひゃく……じゅう……まん……ギドォ!?」
俺の目が、金貨の光で溶けそうだった。キラキラキラ……視界が金色で埋め尽くされる。
「ありがとうございますっ!!」
その瞬間、俺の中で何かが弾けた。
――難しいこと?倫理?人権?歴史?
全部金でなんとかなる!!!
「金だよ金! 金があれば温泉付きの家が建てられるし、風呂にもサウナにも入り放題! おまけに専属シェフとメイドさんと、馬車じゃなくて馬車馬の二頭使いが雇える!」
「うわ……」
「……壊れた?」
マリとルカが呆れた顔で俺を見ていたが、そんなの関係ねぇ!
金!金!金のために、明日も狩るぞ!ゴブリンでもドラゴンでも、なんでも来いやあああああ!!
こうして、金貨に目が眩んだ俺の戦いは、ますます過熱していくのだった――。




