42.新しい弟子
カイが王都へと向かった日から数日後——
「ふむ……カイが連れて来たのなら、見込みはあるかもしれん・・・・」
ヒルダは、険しい表情で目の前の男を見つめていた。
カーク。自警団員で、王都送りにされたカイと縁がある青年。
弟子入りを願い出たカークに、ヒルダはひとつだけ試練を与えていた。
「この森の巨木を、一本だけでいい。切り倒してみせろ」
森の中でもひときわ太い、樹齢数千年はあろうかという大木の前に、カークは立ち尽くしていた。
「この剣で、ですか?」
「そうだ。魔法は禁止だ。魔素の使い方が見たい」
カークは静かにうなずき、構えた。集中する。剣はうっすらと青白く光りだす。
「一刀、入魂——!」
振り下ろされた剣が、ズン、と鈍い音を立てて巨木に深く喰い込む。
剣は半分ほど食い込んだが、それ以上進まなかった。
「……っく……!」
肩で息をしながらも、カークはまだ目をあきらめていない。
「……なるほど。切れなかったが、魔素のコントロールは悪くない」
ヒルダはその剣の軌道、集中力、そして剣に込めた魔素の流れを見ていた。
「合格だ。弟子入りを認めよう」
「ほんとですか!?ありがとうございます!」
嬉しさのあまり、少年のように飛び跳ねるカーク。
こうして、カークは正式にヒルダの弟子となった。
それからというもの、カークはミーアと一緒に魔法修行に励んでいた。
「カーク、まずは魔力制御をマスターするんだ、基礎中の基礎だ!」
「はい、先生!」
以前はヒルダの姿を見るだけで泡を吹いて倒れていたが、今のカークの目には揺るぎない決意が宿っていた。
ミーアはというと、元からカイと一緒に学んでいたおかげで、そこらの魔導士には引けを取らないレベルまで達していた。
「ミーア、お前は本当に侮れん……やはりエルフ族の血筋は伊達じゃないな」
カークは感心しつつ、火属性の魔法の制御練習に励んでいた。
相手はいつものゴーレムン。模擬戦形式で、魔法の出力を調整する訓練だ。
魔素が尽きれば、例のキノコを口にし、再び戦う——それをただただ繰り返す。
「剣を使わずに、魔法のみでゴーレムン殿を倒せと!?それは……それは少し無茶なのでは!?」
「魔法の出力調整が自由自在になれば、剣術も段違いに強くなる。覚えておけ」
「ですが! このゴーレムン殿、強すぎて魔法を発動してる暇がないのですが!?」
「だから詠唱は飛ばせ。短縮するのだ。体内を流れる魔素をもっとよく感じろ、流れを読め!」
言われた通り、カークは無詠唱での魔法発動を試みる。
だが——
「ぎゃああああ!」
ゴーレムンにボッコボコにされて宙を舞うカーク。
一方その頃、ミーアは——
「水刃!」
無詠唱で発動された水の刃が、ゴーレムン2号の腕をきれいに吹き飛ばした。
「見事だ、ミーア。魔素の流れも安定している。お前はいい魔導士になれるぞ」
「ほんとに……? 僕、先生みたいになれますか?」
ヒルダに褒められて顔を赤くするミーア。その瞳はキラキラと輝いていた。
「魔法学校での正式な教育を受ければ、さらに伸びるだろう。行ってみたいか?」
「うーん……まだ分かんない。でも、カイと同じ学校なら……行ってみたいかも」
ヒルダは静かにうなずく。
そのとき——
「ごおあああああっ!!」
背後で吹き飛ばされるカーク。
「お前は頭で考えすぎだ。もっと体で魔素の流れを覚えるんだ」
「それは……わかってるんですが……なかなか……難しいですね……」
口から血をぬぐいながら、ふらふらと立ち上がるカーク。
「……これでも、自警団じゃそれなりにやってきたつもりなんですが……」
「カイだって、最初はゴーレムンに何もさせてもらえなかったんだ。努力すれば、いつかカイを上回れるぞ」
ヒルダのその一言が、カークの胸に火を灯す。
「……私、やります! 絶対に追いついてみせます!!」
こうして、カイのいない森では、また新たな熱い修行の日々が始まっていた。




