39.試験結果
バタバタとしている間に昼休憩が終わり、実技3問目が始まった。
やっぱりマリとルカは上流階級組だった。赤い絨毯の上に並ぶ彼女たちが、こちらに小さく手を振ってくれる。
「……かわいいなぁ」
などと呟きつつも、問題はここからだった。
今回の3問目は、試験管がランダムに魔法の属性を指定し、その魔法を発動させるという内容。
列に並びながら前の受験者の様子を伺っていると、「火」「水」「土」系ばかりが指定されていた。
「なるほど、そういう流れか……なら、大丈夫だな」
胸をなでおろすカイ。特に水と土魔法を指定された受験生はレベルが低く、球体にならない水がジョボジョボと垂れるだけだったり、土を粒状にしかできなかったりと、見ているこちらが不安になるほどだった。
次がカイの番。前の試験官に近づいたところ、そこへ別の試験官がやってきて何か耳打ちをする。その直後——
「次、お前は“闇”魔法を出せ」
「……はい?」
明らかに今までとは異なる指示にカイは戸惑う。
「火・水・土じゃないんですか? それ以外の魔法は……」
「とにかく“闇”だ。やるんだ」
試験官は困ったような顔をしながらも、視線の先にはニヤついた顔のグレーンがいた。
「そういうことか……」
カイは内心でため息をつきながらも、構える素振りもなく手を掲げる。
「……ダークボール」
黒く小さな球体が、ぽうっとカイの手のひらの上に現れた。それはまだテニスボールほどの大きさだったが、明らかに魔素が込められているのが周囲にも伝わる。
「う、うそだろ……!?」
試験官の顔が青ざめる。闇魔法を扱える者など、貴族の中でもほんの一握り。その上、あの年齢で?とざわめく周囲。
ヒルダの言葉がカイの頭をよぎった——「今の時代、魔法は使えなくても生きていける。だから誰も本気で学ばなくなった。闇や古代魔法は忘れ去られようとしてるのよ」
泡を吹きかけている試験官を横目に、グレーンの顔が歪むのを見た。
——試験は、全員分が終了した。
普段であれば即日発表なのだが、今回は“特例”として翌日の朝に発表されることとなった。
「……つまり、何か揉めてるんだな」
カイは深くため息をつきながら、財布を取り出す。
「もう一泊かぁ……王都は高いってのによ……」
財布の中は寂しく、泊まる金など心許ない。
「どうぞ、哀れな私を泊めてくれる宿屋を恵んでくださーい……」
独り言を呟きながら石畳の道を彷徨っていると、近くで馬車の止まる音がした。
「……このパターンは……あいつか」
身構えるカイ。例の王子・グレーンが嫌味を言いに来たと思った——が。
「カイ!」
「……あ、マリ?」
馬車の扉が開き、笑顔のマリが手招きしていた。
「どうしたの、こんなとこで?」
「試験の発表が明日でさ、泊まる金がもうなくて……宿屋、高すぎるんだよ、王都」
「なるほど、じゃあうちにいらっしゃい!」
「え?」
気がつけばカイは馬車の中にいた。夢か幻か——などと考えていたが、マリが続けて言う。
「うちは宿屋を経営してるの。今日はタダでいいわ、コーチ代としてね♪」
「ま、マジで!?」
「もちろん! それと、忘れないでよ。あなたの先生、いつか会わせてくれるって約束!」
「……ああ、そうだな」
マリのショートカットと無邪気な笑顔に、年甲斐もなく胸が高鳴るカイだった。
——とはいえ、何事もなく朝は来た。
「……なーんも起きねぇ」
目覚めて窓の外を見ると、バケツをひっくり返したような雨。
「嵐じゃねーかこれ……」
この世界で初めての雨だった。日本で言えば台風レベルの豪雨。
宿の玄関先で足止めされていると、またもや馬車が目の前で止まる。
「……今度こそマリか?」
と思いきや、現れたのは——
「おい、平民! 濡れネズミみたいだぞ!」
「……グレーンかよ」
雨を避けるようにしてサッと馬車に乗り込むカイ。
「お前なぜ平民が、我が馬車に……」
「学校行くだけだし、いいじゃん」
一言返すと、馬車は走り出す。
到着する頃には、グレーンの顔がトマトのように真っ赤になっていた。
「ありがとな! トマト食べろよ、血圧に効くからな!」
「ムキー!」
言葉にならない声をあげるグレーンを尻目に、カイは学校の掲示板へと向かう。
——が、先に見ていたマリとルカにネタバレされてしまった。
「おめでとう、カイ!」
「自分の目で確かめたかったー!」
掲示板を見上げると、そこには合格者の名前。最上段には「グレーン」と書かれていた。
「やっぱりアイツが主席か……」
しかし、次の列にももう一つ「1位」があった。
「……あれ? 俺の名前?」
カイの名が、同率首席として載っていた。
「やったー! 学費免除だー!!」
思わず踊り出すカイ。
だが、名前の位置的にはグレーンが上で、形式上は彼が主席扱いされているようだった。
そこへ、学校関係者らしき人物が話しかけてくる。
「合格おめでとうございます、カイさん」
「ありがとうございます!」
「入学式では主席が新入生挨拶をする予定ですが……今回は、グレーン殿下にお任せすることになりました」
「ま、別にいいっすよ。俺、スピーチとか苦手だし」
「本来なら、あなたが一位でした……申し訳ありません」
「いや、気にしてないですって」
「ただ……入学金のご用意は大丈夫でしょうか?」
「え? えぇ? 授業料は免除って言いましたよね?」
「はい、ですが入学金10万ギド(金貨10枚)が必要でして……」
「10万ギド!? バカじゃねーの!?」
絶望するカイ。
「……どうしよう」
そこへ、マリとルカがやってきた。
「どうしたの? 暗い顔して」
「……授業料は免除だけど、入学金10万ギド払わないといけなくてさ」
「それくらい……持ってないの?」
「昨日、安宿探してたの見てたでしょ……?」
カイは頭を抱えた。
「どこかで稼がないと……」
「ギルドに行ってみれば?」とルカ。
「ギルド? この街にもあるの?」
「もちろん!」とマリ。
「よし、案内してくれ!」
かくして、カイは王都ギルドへ向かうことになった。




