38.マリとルカ
会議室で待っていると、重々しい雰囲気をまとった試験管と学校関係者らしき人物が数名、部屋に入ってきた。空気が一気に張り詰め、俺は思わず背筋を伸ばした。
「しかし、凄い魔法を使うね君。あの魔法は、どこで習ったのかな?」
真ん中に座っていた、白髪交じりの中年男性が穏やかな声で切り出した。
「あの魔法は……自分で考えてみました」
その言葉に部屋の空気が一瞬止まり、試験管たちは顔を見合わせてから、一様に目を見開いて俺を見た。
「君は、魔法をどこで習ったんだ?」
名前を出していいものか、迷った。転生前のサラリーマン経験が脳裏をよぎる。こういう場面では、誰かの名前を軽々しく出すと迷惑がかかるものだ。
「エステンで少し、魔法が上手な方がいまして……その方に習いました」
嘘は言っていない。
「エステン?あんな片田舎に、そんな高等な魔法使いがいるとは……」
片田舎で悪かったな。うちはもっと奥地だけど……
「はい、少し習いました。あとは独学です」
やはり、嘘は言っていない。
「エステン近辺で高等な魔法使いといえば……黒の魔女ぐらいか……」
「まさか黒の魔女が誰かに魔法を教えるなんて、聞いたことがありませんよ!」
「それはそうか……」
やはり、ヒルダ先生のことだった。
「ところで、私は一体どうなるのでしょうか?」
恐る恐る尋ねる俺。そりゃそうだ。調子に乗って放った魔法で、学校の運動場にクレーターを作ってしまったのだから。
「この後の試験も、ちゃんと受けてもらうよ」
試験管の言葉に、胸をなでおろす。
「本当ですか!?ありがとうございます!」
ほっと息を吐く。
「しかし!今回は運が悪かった」
「え?どういうことですか?」
「午前の筆記試験で唯一の満点。午後の実技に関しても申し分ない。このままだと首席入学は間違いない……が」
学校関係者が言葉を濁した。
「あと、君は目をつけられている。きっと妨害があるだろう」
「……あの王子様、ですか」
俺が冷静に口にすると、関係者たちは一様にため息をついた。
尋問のような話し合いが終わり、試験管が用意してくれた弁当を持って、校内の静かな場所を探すことにした。
木が数本並ぶ中庭の隅に、桜のような花を咲かせる木を見つけた。どこか懐かしく、日本を思い出す。
「ここで食べるか……」
花見気分で弁当を広げ、(酒が欲しいな……)と心でつぶやく。
すると、足音が近づく。振り返ると、制服の上に綺麗なマントを羽織った二人の少女が立っていた。
「私はマリと申します。こちらは幼馴染のルカ。初めまして……」
赤いショートカットに同色の瞳を持つマリは、元気と自信に満ちた表情で微笑んでいる。一方、ルカは青く長い髪を風に揺らしながら、どこかおどおどしていて、胸元をさりげなく押さえていた。
「あ、えっと……俺……私の名前はカイです。マリさん、ルカさん、よろしくお願い申し上げます」
「いつも通り話してもらって構わないわ。私たちのことはマリとルカでいいから」
「あ、はい……」
マリはまさに体育会系という感じで、残念ながら胸は控えめ。対照的に、ルカは見るからに文科系で、胸は……目のやり場に困るレベルだった。
「ところで、なにか御用でしょうか?」
マリが勢いよく聞いてきた。
「さっきの魔法!あれどうなってるの? どういう仕組み?」
どうやら驚かれているらしい。
「通常の土魔法って、防御系が多くて、攻撃でもせいぜいバレットくらいよ。あんな隕石みたいな魔法、初めて見たわ!」
へぇ……そんなに珍しいんだな。
「この世界では“魔法を練る”って言うんですね」
「ええ、そうよ。魔素を編んで、練って形にするの」
「なるほど……」
説明が苦手な俺は、実演で見せることにした。その前に、弁当を口に放り込む。
「ちょっとだけ待ってくれ。飯、食わせて……」
(ごめんなさい、と二人がペコペコするのが微笑ましかった)
俺はソフトボールほどの大きさの小さな岩塊を宙に浮かせて見せた。
「理屈は簡単。土から石を生成して、空中に固定。それを圧縮して大きくするだけ」
「普通、それができないのよ!」
マリが悔しそうに唇を尖らせる。
「ルカ、あなたならできる?」
「……そこまで大きくは、出来ないけど……」
「じゃあ、やって見せて」
ルカが小さな呪文を唱えると、ゴルフボール程度の石の塊が浮かび上がった。
俺はすかさず、彼女の手に自分の手を重ねた。
「え!? な、なにを……っ」
顔を真っ赤にして戸惑うルカ。
「今のイメージは、そのサイズを作るってだけだったな」
「……はい」
「なら、もっと大きなものをイメージしてみよう。スイカくらいの大きさを想像して」
ルカが目を閉じ、集中する。俺の魔素が伝わったのか、塊が徐々に大きくなり、スイカサイズにまで成長した。
「……できたっ!」
「じゃあ、バレットの要領で飛ばしてみて」
「えいっ!」
スイカ大の岩が木に命中、見事に砕けて飛び散った。と思ったら……
「メキメキメキ……」
音を立てて、その木がゆっくりと倒れ始めた。
「やばっ!」
俺はすぐにマリとルカの手を取って、別の場所へ走り出した。
ハァハァと肩で息をしながら、3人は倒れた木から距離を取った。互いの顔を見て、思わず笑い声が漏れる。
「楽しいな……」
自然と、3人は笑い転げた。
「ね、できただろ?」
ルカは恥ずかしそうに、でも確かに嬉しそうにうなずいた。
「俺の先生曰く、『魔法はイメージ』だ。イメージできれば、なんでもできるって」
「おもしろそうな先生ね。今度紹介してよ!」とマリが前のめりに聞いてくる。
ヒルダの顔を思い浮かべながら、俺はちょっとだけ苦笑いして、
「いつかね」と答えた。
すると、二人は俺の手を取って、キラキラした目でこう言った。
「絶対だよ!」




