表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/219

38.マリとルカ

会議室で待っていると、重々しい雰囲気をまとった試験管と学校関係者らしき人物が数名、部屋に入ってきた。空気が一気に張り詰め、俺は思わず背筋を伸ばした。


「しかし、凄い魔法を使うね君。あの魔法は、どこで習ったのかな?」


真ん中に座っていた、白髪交じりの中年男性が穏やかな声で切り出した。


「あの魔法は……自分で考えてみました」


その言葉に部屋の空気が一瞬止まり、試験管たちは顔を見合わせてから、一様に目を見開いて俺を見た。


「君は、魔法をどこで習ったんだ?」


名前を出していいものか、迷った。転生前のサラリーマン経験が脳裏をよぎる。こういう場面では、誰かの名前を軽々しく出すと迷惑がかかるものだ。


「エステンで少し、魔法が上手な方がいまして……その方に習いました」


嘘は言っていない。


「エステン?あんな片田舎に、そんな高等な魔法使いがいるとは……」


片田舎で悪かったな。うちはもっと奥地だけど……


「はい、少し習いました。あとは独学です」


やはり、嘘は言っていない。


「エステン近辺で高等な魔法使いといえば……黒の魔女ぐらいか……」


「まさか黒の魔女が誰かに魔法を教えるなんて、聞いたことがありませんよ!」


「それはそうか……」


やはり、ヒルダ先生のことだった。


「ところで、私は一体どうなるのでしょうか?」


恐る恐る尋ねる俺。そりゃそうだ。調子に乗って放った魔法で、学校の運動場にクレーターを作ってしまったのだから。


「この後の試験も、ちゃんと受けてもらうよ」


試験管の言葉に、胸をなでおろす。


「本当ですか!?ありがとうございます!」


ほっと息を吐く。


「しかし!今回は運が悪かった」


「え?どういうことですか?」


「午前の筆記試験で唯一の満点。午後の実技に関しても申し分ない。このままだと首席入学は間違いない……が」


学校関係者が言葉を濁した。


「あと、君は目をつけられている。きっと妨害があるだろう」


「……あの王子様、ですか」


俺が冷静に口にすると、関係者たちは一様にため息をついた。


尋問のような話し合いが終わり、試験管が用意してくれた弁当を持って、校内の静かな場所を探すことにした。


木が数本並ぶ中庭の隅に、桜のような花を咲かせる木を見つけた。どこか懐かしく、日本を思い出す。


「ここで食べるか……」


花見気分で弁当を広げ、(酒が欲しいな……)と心でつぶやく。


すると、足音が近づく。振り返ると、制服の上に綺麗なマントを羽織った二人の少女が立っていた。


「私はマリと申します。こちらは幼馴染のルカ。初めまして……」


赤いショートカットに同色の瞳を持つマリは、元気と自信に満ちた表情で微笑んでいる。一方、ルカは青く長い髪を風に揺らしながら、どこかおどおどしていて、胸元をさりげなく押さえていた。


「あ、えっと……俺……私の名前はカイです。マリさん、ルカさん、よろしくお願い申し上げます」


「いつも通り話してもらって構わないわ。私たちのことはマリとルカでいいから」


「あ、はい……」


マリはまさに体育会系という感じで、残念ながら胸は控えめ。対照的に、ルカは見るからに文科系で、胸は……目のやり場に困るレベルだった。


「ところで、なにか御用でしょうか?」


マリが勢いよく聞いてきた。


「さっきの魔法!あれどうなってるの? どういう仕組み?」


どうやら驚かれているらしい。


「通常の土魔法って、防御系が多くて、攻撃でもせいぜいバレットくらいよ。あんな隕石みたいな魔法、初めて見たわ!」


へぇ……そんなに珍しいんだな。


「この世界では“魔法を練る”って言うんですね」


「ええ、そうよ。魔素を編んで、練って形にするの」


「なるほど……」


説明が苦手な俺は、実演で見せることにした。その前に、弁当を口に放り込む。


「ちょっとだけ待ってくれ。飯、食わせて……」


(ごめんなさい、と二人がペコペコするのが微笑ましかった)


俺はソフトボールほどの大きさの小さな岩塊を宙に浮かせて見せた。


「理屈は簡単。土から石を生成して、空中に固定。それを圧縮して大きくするだけ」


「普通、それができないのよ!」


マリが悔しそうに唇を尖らせる。


「ルカ、あなたならできる?」


「……そこまで大きくは、出来ないけど……」


「じゃあ、やって見せて」


ルカが小さな呪文を唱えると、ゴルフボール程度の石の塊が浮かび上がった。


俺はすかさず、彼女の手に自分の手を重ねた。


「え!? な、なにを……っ」


顔を真っ赤にして戸惑うルカ。


「今のイメージは、そのサイズを作るってだけだったな」


「……はい」


「なら、もっと大きなものをイメージしてみよう。スイカくらいの大きさを想像して」


ルカが目を閉じ、集中する。俺の魔素が伝わったのか、塊が徐々に大きくなり、スイカサイズにまで成長した。


「……できたっ!」


「じゃあ、バレットの要領で飛ばしてみて」


「えいっ!」


スイカ大の岩が木に命中、見事に砕けて飛び散った。と思ったら……


「メキメキメキ……」


音を立てて、その木がゆっくりと倒れ始めた。


「やばっ!」


俺はすぐにマリとルカの手を取って、別の場所へ走り出した。


ハァハァと肩で息をしながら、3人は倒れた木から距離を取った。互いの顔を見て、思わず笑い声が漏れる。


「楽しいな……」


自然と、3人は笑い転げた。


「ね、できただろ?」


ルカは恥ずかしそうに、でも確かに嬉しそうにうなずいた。


「俺の先生曰く、『魔法はイメージ』だ。イメージできれば、なんでもできるって」


「おもしろそうな先生ね。今度紹介してよ!」とマリが前のめりに聞いてくる。


ヒルダの顔を思い浮かべながら、俺はちょっとだけ苦笑いして、


「いつかね」と答えた。


すると、二人は俺の手を取って、キラキラした目でこう言った。


「絶対だよ!」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ