37.入学試験
ゆっくりと宿で一泊し、試験当日の朝を迎えた。
朝靄に包まれる王都の空気はひんやりと肌に心地よく、俺は深く息を吸い込んだ。今日が俺の、異世界での本格的な第一歩になる――そんな気がしていた。
学校の校門には既に多くの受験生が集まっていた。ざわざわとした空気、張りつめた緊張感。俺はヒルダにもらった入試の紙を手に、列に並ぶ。
そいえば、カークの弟子入り試験はどうなったんだろう・・・まぁカークなら問題ないか・・・
門の前では、係の者が二手に分けて案内していた。左か右か――その判断は、服装だけで決まっているようだった。
豪華なドレスや刺繍の入ったマントに身を包んだ者たちは、何も見せずに堂々と左へと進んでいく。一方、見た目は整っていても、質素な装いの者たちは右へ。
「はい、お前は右だ」と俺も当然のように右に回された。
(まあ、そうだよな……ジャージっぽい服だし)
納得しつつも、服だけで判断される現実に、少しだけモヤモヤする。
校舎へと入り、案内されたのは、試験会場となる大教室だった。既に100人近い受験生が席についており、熱気がこもっていた。
午前は筆記、午後は実技と聞いていた。ヒルダは「楽勝だ」と自信満々に言っていたが、あの人の楽勝はあまり信用ならない。
とはいえ、筆記試験は拍子抜けするほど簡単だった。日本でいう小学高学年から中学生程度の内容で、計算問題や簡単な社会問題。余裕だ。
(ヒルダの「楽勝」は本当だったんだな……)
午後の実技試験では、まず魔力測定。続いて得意魔法の披露、そして最後に試験官の指示による魔法発動。
運動場に出ると、そこでまた現れた「差別の壁」。
左側、つまり貴族たちの足元には赤い絨毯が敷かれていた。まるで舞踏会でも始まるのかという光景に、俺は軽く引いた。
「マジかよ……絨毯?屋外で?」
右側――俺たち平民は、もちろん土の上。雨が降ったら泥だろうが関係なし。
魔力測定の球体すら、こっちはどこかくすんで見える。
俺の前に測定を終えた受験生は「魔力79」「魔力50」といった数値を出していた。
「魔力105!」と驚かれている少女もいた。おそらく上位合格間違いなしだ。
そして俺の番。
内心、嫌な予感がしていた。
「どうせ割れるか、爆発するかだろ……定番すぎるパターンだ」
球体に手を置く。
しかし、数値が出ない。球の中に黒いモヤが浮かび、グツグツと渦を巻く。
「なんだこれは……?」
ざわつく受験生たち。
「おい、魔力量が測れないのは失格だぞ」と試験官が不機嫌そうに言った。
俺は焦って両手を当て、気を送るようにして集中した。
そのときだった。
球の中に、不気味な顔が浮かび上がった。
鋭い牙、額の角、どす黒い肌――明らかに人間ではない。
「……うわ、なんだこいつ」
顔の目がギラリと光った瞬間、球は爆音と共に砕け散り、灰になった。
「うわぁ……やっちゃった……」
俺は苦笑しながらつぶやいた。
試験官が激怒して近寄ってくる。
「貴様!備品を壊してどうする気だ!?」
「す、すいません……でも、勝手に壊れたんです!」
すると試験官が、「もう一回やれ。今度はあっちの球でだ」と言った。
赤い絨毯の方にある、上流階級用の新品同様の球を指さす。
「いいか、これ壊したら失格だからな!俺のクビも飛ぶからな!」
(こっちもプレッシャーすごいな……)
今度はそ~っと、指先を球に触れる。
モヤがまた湧いたが、今度は暴走しなかった。数秒後、数字が浮かび上がった。
「魔力……34!」
「低っ!」と、誰かが笑った。
「これでもヒルダの弟子か……」と、俺自身も落胆した。
そこへ、現れたのはグレーンだった。
「フン、魔力34?そんな者がこの学び舎を目指すなど、笑止千万!」
俺は軽く肩をすくめて言った。
「はいはい、試験が終わったらちゃんと帰りますよ……」
次は攻撃魔法の試験。
20メートル先の的に魔法を当てるだけ。
俺は、最初ストーンバレットで行こうと思っていたが、閃いた。
(そうだ……あれ、やってみるか)
俺は両手をゆっくりと天に掲げた。
周囲がざわつく。
「……なんだ?空に向かって祈ってるのか?」
しかしそのとき、空に影ができた。
見上げると、巨大な岩塊が浮いていた。
「な、なにあれ……!?」「岩!?空から!?」
「俺の必殺技!名付けて――メテオ!」
俺は腕を振り下ろした。
岩塊は音を置き去りにしながら落下。
的が蒸発した。
直後、凄まじい衝撃波と爆風が受験生たちを襲った。砂煙が舞い、視界が奪われる。
しばらくして、クレーターと化した試験場に静寂が戻った。
「試験官、どうっすか!?」
「貴様ァ!学校を破壊するつもりか!」
怒号と共に昼休憩となった。
そして俺は、当然のごとく呼び出されるのであった――。




