35.リストバンド
「魔法学校って、どんなとこなんですか? どうやって授業するんですか? 魔法って座学なんですか? 実技? 試験ってどうやって受けるんですか? それに、そもそも俺……魔法まともに使えないんですけど!」
俺は、ヒルダの前でまくし立てた。
「……行けばわかる」
「ええぇぇ……」
「カーク、お前は行ったことあるか?」
「申し訳ありません、カイ殿。私は魔法の才に恵まれず、魔法学校など夢のまた夢でございました」
……だれも教えてくれないんかい!
しかも、試験では魔法が必要とされるらしい。それなのに、俺はまだまともに魔法を使えない。完全に詰んでる。
「カイ、お前にいいものをやろう」
ヒルダが取り出したのは、緑色の宝石が5つはめ込まれたリストバンドだった。バンド部分は黒くしなやかな革でできており、手に取るとほんのり温かい。
「これはな……“魔素制御バンド”。グリーンクリスタルを使った特製品だ」
「グリーンクリスタル……?」
「この石は魔素を吸収して蓄積する。お前のようなバカみたいに魔素量が多すぎる者は、常に暴走の危険がある。そのために魔素を少しずつこの石に移すんだ。5つの宝石が全て色を変えたら、持ってこい。私が処理してやる」
ヒルダの口ぶりは淡々としていたが、その目は真剣だった。
「試験までは2週間か……その間に基礎魔法を学べ。無茶はするなよ」
「ありがとうございます、先生!」
俺はさっそくバンドを装着してみた。
「うっ……」
装着した瞬間、体中から力が抜ける感覚があった。胃の奥がムカムカする。
「少し気分が悪くなるが、2〜3日もすれば慣れる。大丈夫だ」
そう言われても……でも、これが俺の魔法訓練の第一歩なのだ。
ヒルダは言った通り、グリーンクリスタルが青く変化すると、その魔素を大地へ還す術を見せてくれた。彼女の指先に青白い光が集まり、パチンという音とともに魔素が放出される。
「わかるか? 吸収が終わると色が変わる。それを私が回収してお前の身体への負担を減らす。だから、バンドは絶対に外すな」
……わかったよ先生。
――――――
それから俺は、ヒルダのもとで土魔法と闇魔法の訓練を開始した。
土魔法は、基礎中の基礎「ストーンバレット」。
地面から拳大の岩を固め、それを弾丸のように飛ばす。これが意外に難しい。威力はそこそこだが、命中精度は要練習。
闇魔法の基礎中の基礎「ダークボール」。
黒い球体を生成し、それを相手にぶつける。威力は火や水に比べて高いが、制御が難しく、出せてもせいぜいテニスボール程度。ミニサイズで妥協中。
とはいえ、俺の魔法も多少は形になってきた。
そして、試験5日前……
「ん? ……あれ……」
ふと地図を見て気づく。
「王都……遠っ!」
王都ベルゲンまで、徒歩で1週間。馬車でも3~4日はかかる。
「え!? 明日には出発しないと間に合わなくない!? てかもうギリギリじゃん!」
「落ち着け、カイ。問題ない」
「いやいや問題しかないですって! 今から出ても、試験前日ですよ!?」
「……いや、ギリギリまでお前の魔法の完成度を見ておきたかったのだ」
「はぁ!? 俺が試験落ちたらどうすんの!?」
「大丈夫だ、行かせてやる」
ヒルダがそう言った瞬間、周囲の空気が重くなった。
「……なんか暗くないですか?」
空を見上げると、巨大な影が空を横切っていた。
「うおぉぉぉぉぉっ!? 鷲!? 鷲じゃねぇ!? なんかモンスター級だぞあれ!」
それはヒルダの使い魔、巨大な鷲“ファルコン”。
羽を広げた大きさは優に20mを超えていた。
「これに乗って行け」
「無理無理無理無理!! 空を飛ぶとか聞いてねぇ!!!」
「黙って乗れ!」
ヒルダとゴーレムンに羽交い締めにされ、無理やりファルコンの背に乗せられる。
「ギャーーーーーー!!!!!!」
数秒後、俺は高空へと運ばれていた。
「無理無理無理無理……」
叫びながら、俺は気絶。
――数時間後――
目を開けると、眼下に広がるのは王都ベルゲンだった。
ファルコンが優雅に旋回し、郊外の平原にゆっくりと降り立つ。
俺はヨロヨロと地面に足をつけ、最後の力を振り絞って言った。
「……お、お疲れさまでした……」
ファルコンは優しく鳴き声をあげると、そのまま空へ舞い上がり、やがて一筋の光となって森の方角へと消えていった。
――俺の魔法学校生活が、ここから始まる。




