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33.カニみたいな男

剣を握る手が震えている。

その震えがそのまま、鞘に伝わって――カタカタカタと不安げな音を響かせていた。


「カーク、大丈夫だから、剣から手を放してよ」


カイが前を向いたまま、背後に軽く声をかけた。


「し、しかし……カイ殿……」


振り向けば、カークの顔は死人のように青ざめている。額からは滝のような汗。

右手は白くなるまで剣の柄を握りしめ、今にも“必殺・自滅斬り”を繰り出しそうな勢いだ。


(……剣を握ってようが握ってなかろうが、クロが襲い掛かったら、一撃だろうな)


カイは心の中で冷静にツッコミを入れながら、前方に視線を移した。


「小屋までもう少しなんで、頑張っていきましょい!」


元気づけるように笑ってみせたが、その横でクロ――でっかいオオカミの姿をした魔獣が、尻尾をくねらせながらついてくる。


小屋に着くやいなや、カークは仰向けにぶっ倒れた。

白目を剥いて、口から泡をぶくぶく……原因は、畑仕事をしているゴーレム。

そして、それよりも一回り大きなゴーレムンを見て。


「いきなり泡拭いて倒れたからビックリするじゃないの!」


フェイがカークの腕をぶんぶん振りながら叫ぶ。


「いや、普通びっくりするだろ……」


カイが頭をかきながら呟く。


「しかし、フェイはビビらなかったなぁ」


「そりゃそうよ!私は神よ、女神なの!こんなのザコよザコ!」


「……本当かよ」


フェイは自信満々に腰に手を当てて胸を張るが、その頭に乗っている帽子が風に揺れて、ヒラリと何かが落ちた。


――ぺらっ


ミーアとヒルダが小屋から出てくる。


「相変わらず騒がしい奴らだな」


「先生、お願いがあるんですが!」


「あぁ、知ってる。そのカークって戦士、強くしたいんだろう?」


「話が早い! でもなんでそのことを知ってるんですか?」


カイが驚きに目を丸くする。


「これだよ、これ」


ヒルダが無造作に指さした先には、地面に落ちた――お札。

日本の神社とかでよく見るアレに似ているが、見たことのない文字でびっしりと埋め尽くされていた。


「これで、お前たちが何をしているかを見ていた。魔道具って奴だな」


「そんな便利なものがあるんですね……!」


感心して見つめるカイ。


「けどな、札が貼られていたのがフェイの帽子だったけど、気づかなかったか?」


「え? そういえばなんか、身体の周りでソワソワしてると思ってた」


「……やっぱり、ダメな女神。ダメ神だな」


「ところで、その“強くなりたい戦士”はどこだ?」


ヒルダが辺りを見回す。


カイは顔をひきつらせた。


「……あああああ!!! 畑で泡拭いて倒れたままだった!!!」


急いで畑へ戻ると、カークが地面の上で星を見ていた。


「いやー、生まれて初めてゴーレムを見ましたよ〜、ははは……」


何かが吹っ切れたように、妙に明るく笑っている。


「それで、ここにカイ殿の先生! 師範がおられるんですね! どこですか!?」


「私だ」


ヒルダが前に出る。


カークの目がぱっと見開いた。


「はじめまして! カークと申します! ぜひ先生殿のご指導ご鞭撻をご教示頂きたく参りました!」


「そうか。私は弟子をとる気はないが……弟子になるには、それなりの試験を受けてもらうことになる」


「え? 先生、俺が来たときは試験なんてなかったじゃないですか!」


カイがツッコミを入れる。


「そういうことではない。お前は私の知らない情報を持っていた。それと引き換えに面倒をみている。それに比べ、そこにいる戦士の情報は……私の知っていることばかりだ」


「それでも、試験ってのは……」


「カイ殿! 大丈夫です! 先生の教えを頂けるなら、どんな試験でも受けますよ!!」


「その覚悟、確かに受け取った」


その瞬間、カークがふとヒルダの顔をまじまじと見た。


「ところで、カイ殿の先生って……女性だったんですね。しかも、エルフ族」


「ヒルダがエルフ族って、よく知ってたな」


「ヒルダ?」


「ん?」


「ヒルダって……あの黒の魔女の!?」


「そうだよ、先生が黒の魔女のヒルダだよ」


バタンッ!


――再び泡を吹いて倒れるカーク。

    カニかよ・・・・・。




畑に座り込みながら、カイはふと思った。


(俺はずっと不思議に思っていた。なぜ、ヒルダ先生はこんな森の奥で、一人で住んでるのか。

なぜ、“黒の魔女”なんて呼ばれてるのか――)


思い切って尋ねてみる。


「先生、なぜここに住んでいるんですか?」


ヒルダはゆっくりとこちらを向いた。


「……なぜ私が、この小屋に住んでいるのかだって?」


「へい! そうです!」


ヒルダは目を細め、空を見上げた。


「話せば長くなる」

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