27.清算
「それで、名前は?」
冷たい木の椅子に腰かけさせられ、俺たちはエステンの自警団詰所で事情聴取を受けていた。
目の前に座るのは、いかにも疲れ切った顔の自警団員。机の上に積まれた書類はすでにうんざりした空気を漂わせていた。
「私の名前は、フェイ・ライオット!女神よ!」
フェイがふんぞり返って答えると、自警団員はペンの動きを止めてピクッと眉を上げた。
「はいはい、フェイ・ライオットさんですね。それで職業は?」
「だ・か・ら!女神って言ってるの!」
「……あまり、おいたが過ぎると、刑が重くなるよ?」
「えー!でも、私女神だもの~」
「ちゃんと話してくれるまで、何日でもここにいることになるからね」
「えーーーー」フェイは机に突っ伏してジタバタと足をばたつかせた。
こんな調子で、事情聴取は一向に進まず、俺は顔を手で覆った。
「誰か……助けてくれぇ……」
そのときだった。木製のドアが開く音がして、懐かしい声が響いた。
「カイ殿、ご無沙汰しております」
振り返ると、金髪の長髪に紺のコートを纏った男――エステン自警団のカークさんが、呆れ顔で立っていた。
「あっ……カークさん……!」
俺は今にも泣きそうな顔で、すがるように叫んだ。
「一体どうして、こんなところに?」
俺は事情をすべて説明した。ギャンブル、借金、魔法チート、バレて連行、そして神のクズな行動の数々を……。
話を聞いたカークは、口元をプルプルと震わせていた。
「そうですか……借金が……くっ……」
明らかに笑いをこらえている……。
「……失礼、失礼……ちょうど今、ギャンブル場から連絡がありましてね。お二人を永久出入り禁止にしてくれれば、今回の件は水に流すとおっしゃってます。ただし、自警団としては規律がありますので、目を瞑るわけにはいきません」
「…………」
俺はフェイと目を合わせる。フェイは魂が抜けた魚のような顔をしていた。
「ですが――ちょうどギルドで手を焼いている案件がありまして。それに協力していただけるなら……今回は見逃しましょう」
「おおっ!寛大な判断をありがとうございます、カーク殿!で、その案件とは?」
「実はですね……エステンの東にある古代遺跡に、巨大ムカデが住み着いたようでして。Bランク以上の依頼として出してるのですが、討伐に失敗する冒険者が続出していて……」
「でも、俺、Eランクですよ……?」
「いえいえ、カイ殿の実力は折り紙付きですし。自警団の5名が同行いたします」
(……なんだろう、不安しかない)
翌朝、俺とフェイは自警団5名とともに馬車で遺跡へと向かった。合計7人の小隊である。
フェイは馬車に揺られながら、布を被って丸くなっていた。昨日の説教でだいぶ凹んでいる。
「うぅ……私、もう人間界に来る資格ないかもしれない……」
「いや、そもそも神界から降りてくるなって話だったろ……」
道中の森道を抜け、馬車はゆっくりと進む。速度は遅く、馬はしょっちゅう休む。尻が痛い。
こんなに揺れるなら、走って行った方が早い。
「なぁ、カークさん。その遺跡って、一体なんの遺跡なんですか?」
カークは窓の外を眺めながら答えた。
「数千年前から存在する古代遺跡のようです。中には文字やレリック、そして伝説の武器も発掘されたとか。現在は王国によって管理されています。発掘作業は続いていますが……最近は魔物が多くて、作業が進まないようですね」
「へぇ……じゃあ、俺たちがその魔物を倒せば、掘り放題ってわけだな?」
「ふふ、それはどうでしょう。あくまで王国の管理下ですから」
(くっそ……ロマンだけ振りかけて、ちゃんと国の管理下ってところがキツい)
4日後、目的地の村に到着した。
だが村は、想像以上に暗く、重苦しい空気に包まれていた。
通りには人影が少なく、教会や宿屋には怪我人の姿が溢れ返っていた。
「これ……全部、ムカデのせいですか?」
「えぇ……討伐に向かった冒険者、山菜採りの村人、子供……多くが襲われました」
ベッドの足りない病院。包帯だらけの男たち。
足を失った少女。泣き叫ぶ子ども。
その子どもは、動かなくなった父親の亡骸を、泣きながら小さな手で揺さぶっていた。
「……くそっ」
拳を強く握った。
他人事のはずなのに、怒りが込み上げてくる。
「カイ殿、今夜はこちらで休んでください。明朝、討伐へ向かいましょう。ご準備を」
「……はい、分かりました」
俺は村の空を見上げた。
星が静かに瞬いていた。
明日、ムカデを倒して、この村に平和を取り戻す。それが今、俺にできる“清算”だ――。




