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ラスボス育成観察録  作者: 不破焙
第参號 天稟のエニアグラム
69/71

玖頁目 終活生

【學園生徒エントリーシート】


①ベリル・コランダム

概要:セグルア一回生。オラクロン大公国から来た特異体質者

自己PR:友達をいっぱい作って學園生活を豊かにしたい

不記載事項:正体は魔物。名前も経歴も一部偽装。セグルアに対して強い敵意を持つ


②アクア・メルディヌス

概要:セグルア一回生。一度學園を卒業済みの『極位階梯』最年少記録保持者

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不記載事項:ベリルの協力者であり、セグルアに対して強い敵意を持つ


③ラルダ・クラック

概要:セグルア一回生。人界最強エルザディア聖騎士団の現団長

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不記載事項:ベリルらの正体を最初から知っている。二人の野望を阻止する事が目的


④エルジェット・セラフィナイト

概要:セグルア二回生。料理が大好き。愛称はエリー

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不記載事項:※当該項目の閲覧制限中


⑤ピネル・ウィリアムス

概要:セグルア一回生。ベリルと仲良くなった女子

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⑥オリバー・シンジュ

概要:セグルア四回生。學園が誇る留年王

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不記載事項:※当該項目の閲覧制限中

 ~~二週間後~~



「ふんふんふーん!」



 地下貧民街を軽い足取りで進む人影。

 年季の入った本を両手で抱えて跳ねるのは

 セグルア生徒、エルジェット・セラフィナイト。

 あまりにも適当な鼻歌に綴る歌詞は

 いよいよ一ヶ月後に迫った學園祭を待望する歌。



「星灯! 星灯! 星灯祭っ!」


「あらエリーちゃんじゃない」


「ママさん! ちょうどお店に行くところでした」


「そう。じゃあ私もそろそろ戻ろうかしら」


「? なにかあったんですか?」


「いえね……」



 生物学的には雄であるママさんは

 心底不快そうな溜め息を漏らして眉をひそめた。

 やがて辿り着いた古本屋の扉を開けると、

 其処には既に二人の少年たちが

 我が物顔で居座っていた。



「あー! ベリル君たちも来てたんだ!」


「エリー先輩。その後体調は?」


「平気! 絶好調だよ!」


「そいつは良かった。ね、店長さん?」


「……はぁ」



 記憶捕食種『透血鬼(カラーレス)』。

 希少なこの種の生き残り、名をゴイト。

 彼もとい彼女が経営する古本屋『秘密の書(ビブリオ・オブスクラ)』は、

 現在セグルアへの攻撃を目論む

 クソガキ二名の秘密基地となっていた。



 ~~~~



「ホント、面倒ごとだけは持ち込まないで頂戴ね」



 唯一何も知らない純人間のエリーが

 普段は見ない難しい本の解説役として

 知識豊富なアクアを引きずり回す頃、

 書庫を挟んだ対角のカウンターで

 店主ゴイトは魔物の仔に水を出した。

 既に彼らの間に警戒心はほとんどなく、

 ベリルはその水に躊躇なく口をつける。



「迷惑はかけないよ。それは僕も本意じゃないし」


「よく言うわ、初対面でいきなり種族名バラして」


「悪かったって。でもエリー先輩の記憶消去は

 上手くやってくれたみたいじゃん?」


「それをネタにあのアクアって子に

 脅迫されなければ私も文句はなかったけれど」


「あはは……お店貸してくれてありがと」


「密会の頻度はもうちょっと減らして頂戴」



 初接触から数分、否、数秒で、

 ゴイトの命運はアクアたちに握られてしまう。

 上手く潜伏出来ていても同業者の目は誤魔化せない。

 彼女は正体をバラさないでもらう代わりに

 店を二人の秘密基地として利用する許可を出す。

 それが、今この状況を引き起こした事の顛末であった。



「……なんでセグルアに居座るの?」



 純粋な疑問が口をついて出た。

 ギド曰く、彼女たち透血鬼(カラーレス)は警戒心が強く、

 一度逃した相手には二度と近付かないらしい。

 無論今まで出会った事のある他の透血鬼(カラーレス)は

 シェナしかいなかったので

 ベリルにはそんな印象などさらさら無かったが、

 それでもゴイトが逃げずに居座っている現状は

 どうにも理屈に合わないと感じていた。


 そしてそれは彼女自身も思っていたようで、

 そんなの言われなくとも、といった表情の後に

 どこかやるせなさそうな溜め息を吐く。



「私はこの町に縛られてるの、気持ち的に」


「縛られてる?」


「そう。けど坊やにこれ以上話す気はないわよ

 弱みが増えたら溜まったもんじゃないわ!」


「むぅ……」


「むしろ、少しは君の事を教えなさい

 特にそうねぇ――坊やの胸のソレについてとか」



 ゴイトの指先が服の上から少年の胸を撫でる。

 途中硬い物とぶつかりその軌道は変わった。

 彼の胸に埋め込まれているのは

 シェナから受け継いだ透血鬼(カラーレス)の宝。

 記憶を燃料にエネルギーを生み出す技『ロストワン』。

 それを放つための媒介となる結晶であった。



「ロストワン。私たちの種族の正真正銘最終奥義

 坊やが受け継いでるのは事故? それとも――」


「貰った。僕が持ってた方がいいって」


「……無責任な子ねぇ。それは記憶を消す爆弾

 記憶操作能力のない子がもっても苦痛なだけよ」


「そうだね。これ以上忘(・)れ(・)た(・)く(・)な(・)い(・)よ……」



 言葉ではゴイトの発言を肯定しつつも、

 ベリルの目にはじんわりと涙が浮かんでいた。

 ロストワンは想い出を捨てる技。

 その苦しみは、恐ろしさは、

 魔物の仔が背負うにはあまりにも重すぎた。


 だが、いやだからこそ、

 ゴイトはその重荷を背負わせた同族の願いを探る。

 会った事も無い少女の想いを

 可能な限り組み取ろうと努めた。



「――訂正。その子はそれほどまでに

 坊やに生き残ってほしかったのね」


「ははっ……そうかもね

 シェナって名前だったんだけど、知らない?」


「マジで知らない子。悪いわね」



 その時、本棚が揺れてエリーが飛び出す。

 呆れた様子でアクアもやってきて、

 自然と会話は終了した。

 やがて三人は講義に向けて移動を始め、

 薄暗い店内から鈴を鳴らして退店する。



(私たちの種族はね、基本群れないの)



 そんな少年たちの、否、ベリルの背中を

 カウンターからゴイトは

 頬杖を突きながら見つめ続ける。



(けど唯一の繋がりが、

 別れ際に親から継承されるこの輝石(ロストワン)

 最愛の子に贈る最強の武器にして最悪の加護)



 閉ざされた扉の影に、

 知らない同族の姿を幻視する。



(アンタは大切にされていた

 と同時に――忘れてほしかったのかもね)



 學園生活一年目も残りわずか。

 一ヶ月後に迫った學園祭に浮足立つ。

 それはベリルたちも決して例外ではない。

 故にこそ、気を引き締める必要がある。



「もうその技は、使わない方がいいわよ坊や」



 ~~数日後・學園内~~



 學祭シーズンで人々は浮かれている。

 學園内部では教員学生問わず準備に動き、

 學園外からも毎年注目の目が向けられた。


 だがそんな中で別の事に気を回す者もいる。

 先輩たちのようにそこまで大きな仕事もなく、

 かつ學祭のノリもまだ知らない一回生たちだ。

 むしろ彼らにとって今もっとも重要なのは

 學園祭後に行われる『學部選択』であろう。



「えーという事でだ諸君!

 どの學部にするかはいい加減決めておけよ!」



 錬金學部長キンバリーの号令と共に、

 授業を終えた講義室では学生間の会議が始まる。

 彼女の退出と共にその議論は更に活発化して、

 焦り、または希望に満ちた声が咲く。



「ベーリールーくーん? どこにするか決めた?」


「うーん。まだ、かな……正直絞りきれなくて

 ピネルは決めたの?」


「私もまだー! 決まったら教えてー?」



 楽しそうな声色を遮るように

 ラルダがドカッと間に割り込む。



「なにさ?」


「次。私たちの講義だから、場所空けなさい」


(怖っ……けど彼女とも仲良くしなきゃなぁ)



 アクアの指示『聖騎士団長ラルダを堕とせ』。

 目の前の恐ろしい少女が本当に

 自分に好意を持っているのか

 ベリル本人は未だに確証が持てないでいたが、

 それでも現役の聖騎士団長を懐柔するメリットが

 どれほど大きい事かは理解出来る。


 仮に恋仲とまではいかずとも

 信頼を勝ち取るためにも、

 ベリルは不慣れな事にも挑戦してみた。



「ラルダは學部決めた?」


「いや? まだだけど? なんで?」


「――ラルダと同じ學部もありかなって」


「っ~~~~!!!?」



 ラルダは壊れた機械のような異音を発する。

 そして、続く言葉に――



「ふふふふふざけないでっ! 誰が貴方と!」



 照れ隠しの拒絶を選択して顔を逸らした。

 鼻先から耳まで真っ赤な顔を見られまいと、

 いやそれ以上に相手の顔を見てはいられず。

 程なくしてラルダは平静を取り戻し、

 視線をゆっくりと彼の居た場所に送る。



「え、そのっ、どうしてもっていうなら――」


「もう彼行っちゃいましたよ?」


「なっ!?」



 ベリルは彼女の拒絶を

 額面通りに受け取ってしまったらしい。

 自分が何か失敗したのだと納得し、

 下手に注目を浴びるのも嫌う立場故に

 これ以上問題を起こすまいと立ち去ってしまった。


 揺らいだ腰は机の角に強くぶつかり、

 脱力した足は椅子の下まで滑り込む。

 しかしそこは流石の聖騎士団長。

 僅か一秒も立たずして

 あまりにも情けないその姿を律した。


 だが凛々しく座る彼女の耳元に、

 今度は赤毛ツインテールの

 少女が語り掛ける。



「ねーねーラルダちゃん?」


「……ピネル・ウィリアムス、だったわね?

 どうしたの?」


「うん、えーっとねぇ?」



 綺麗な薄桃色の唇が笑みを浮かべた。



「ラルダちゃんはベリル君の事好きなの?」


「ふへッ!?」


「いやよく一緒にいるみたいだしさ?

 もしかしてもう付き合ってるとか?」


「そ、そんなんじゃないから!

 別に好きとかそういうのじゃないから!」


「絶対?」


「絶対! そう絶対、絶対!」


「ふーん? そうなんだぁー」



 ピネルが更に小声で囁いた。



「じゃあ私(・)が(・)盗(・)っ(・)て(・)も(・)問(・)題(・)な(・)い(・)よね?」


「――え?」


「講義頑張ってね! ばいばい!」



 赤毛ツインテールの小悪魔が、

 想い人の使った扉から

 彼の跡を追うように退出していった。

 その残り香が醸し出す不安は

 聖騎士団長の心に僅かな影を産み落とした。



 ~~~~



(人間の女子との接し方、分かんないな……)



 たった今立ち去ったその場所で

 女学生同士の牽制があった事など露知らず、

 ベリルは青空に向けて溜め息を飛ばす。

 損得や利害の一致以外で人間と仲良くする。

 魔物の仔にとってこれ以上難しい任務はない。


 故に彼は再び學部選択に頭を悩ませる事にした。

 九つの学問。九つの秘奥。

 そのどれを選択すれば自分は更に強くなるのかを。

 そして――



「お。アクアのダチじゃねぇか」


「シンジュ先輩!」



 學園祭ムードにも流されない、

 他称・留年王と遭遇する。

 本来ならば絶対に知り合わない相手だが、

 共通の友人を介してこの先輩への信用は

 他の生徒よりも幾分か高まっていた。



「學部決め? どこでも良いならサイコロでも振れ」


「いや、どこでも良い訳じゃなくて……」


「じゃなくて?」


「どの終極術式を身に着けるべきか悩んでます」


「……ぷっ!」



 留年王はケタケタと後輩を嘲笑う。

 スマン笑っちゃ悪いよな、と口では取り繕うが、

 明らかにそれは不可能だろと思っている輩の

 物言いだったのは最早疑いようも無かった。


 しかし僅かに不快感を抱くのみで

 ベリルはそれ以上の悪感情を持たなかった。

 人間たちの秘奥がそんな簡単な物では無いという

 理解も持ち合わせてはいたからだ。

 されど魔物の復権、未来の魔王を目指す者として

 無視できない知恵の果実である事に変わり無い。



「強くなりたい。より効率的に、効果的に」


「お、おう……そうか、笑って悪かったな」


「ただやっぱり終極術式は九つとも有用で

 一つには中々絞り切れなくて……

 事前に適性検査とかできないんですか?」


「それが出来たら苦労は……あ!」



 長らく最高学府にいる先輩は思いついた。

 否、思いついてしまった。

 そしてそれを態度に出してしまえば最後、

 後輩は血の匂いを辿るピラニアの如く

 喰いついてきた。



「何かあるんですね!?」


「あー……まぁ、ちょうどこの後始まるくらいか」


「始まる?」


「一部の講師は学生のために講義とは別で

 時間を設けて質問や相談に乗ってくれんだよ」


「ああ、確か『オフィスアワー』って奴ですね

 それで各学部を周るって事ですか?」


「いや、行くのは一つで良い」



 そう言うとシンジュは

 見通しの良い広場からとある区画を指し示す。

 其処は円形の學内で見ると南東に位置する場所。

 かつてアクアが「おすすめしない」と言っていた、

 とある學部のある区画であった。



「あそこって――」


「ああ。未(・)来(・)視(・)學部棟

 易者(トリックスター)グラディエ・エルサのテリトリーだ」



 ~~未来視學部棟~~



 本来オフィスアワーとは

 そこまで活用されるような制度ではない。

 単に質問や相談事など無い場合もあれば

 心理的ハードルが高い場合もある。

 精々が狂気的な知識欲の持ち主が活用するか、

 或いは存在を宣伝された一回生が

 試しに行ってみるか程度だろう。


 がしかし、グラディエのソレは違った。

 ベリルがまず目を疑ったのは

 彼女の部屋へと続く長蛇の列。

 そしてその先にある、

 やけに艶めかしい装飾の入口であった。



「エ、『エルサの占い館』?」



 そこは完全に講義の質問をするためではなく、

 恋愛相談だとか人生相談を目的とした

 占いの店を化していた。

 いや、客層の雰囲気を見るに

 それともまた少し違った様子にも見える。



「どうだった!?」


「むっちゃ良い匂い、あと妖姿媚態(むっちゃエロい)」


「マジか! くっそこの後バイトじゃなければ!」


(……如何わしい事でもやってんの?)



 其処は七割以上が男性客で、

 九割以上が學部長グラディエ目的だった。

 以前遠目に見た様子では

 確かに妖艶と呼べるだけの色気はあり、

 年頃の男共には些か刺激が強いのかもしれない。


 が、同時にその占いの実力もまた絶大。

 何故ならアクアもシンジュも

 ベリルへの説明には口を揃えてこう告げた。

 未来視學部は名ばかりで、

 その実態は確率計算に重きを置いた数学科。

 されど――



『あの女だけはマジで未来が見えてるぞ』


「――次の方、どうぞ?」



 幕を潜りベリルは彼女のテリトリーに入る。

 其処は水色と桃色に彩られた空間で、

 以前入った魔導工學部長ベニトアの部屋とは

 似ても似つかぬ様相を呈していた。


 床に敷かれたカーペットの踏み心地はよく、

 焚かれたアロマの煙が照明の色を吸う。

 常にそうしているのかは不明だが

 部屋の中心には生徒用の椅子が置かれて、

 対面のグラディエと向き合う形を取っていた。



「新顔さん、なのよね」


「はい。実は――」


「ああ大丈夫。要件は分かるわ」


「! 噂の未来視、ですか」


「ふふっ、ずばり君は――」



 顔を覆うヴェールの下で、

 ぺろりと短い舌が唇を舐める。



「――恋愛相談なのよね!」


「違いますけど?」


「占い師がかっこつけたのだから

 そっちも合わせるのがマナーなのよね」


(し、知らないマナー!)



 仕方がないのでベリルは

 要件をしっかり言葉にして伝えた。

 自分にはどの學部が合っているのか、

 そしてどの終極術式が合っているのかを。



「えー占いで人生決めちゃうの?

 占い師の言葉なんて当たった時だけ

 うっすら思い出す程度で良いのよね」


(自分で言うのか……)


「でもじゃあ早速未来を視ていくのよね」


「え? そんなすぐに?」


「ええ。だってこの未来視は

 君が気になってる終極術式の一つ

 天命観測式『悪魔炯眼(ラプラス)』による奇蹟なのよね」


「それってどのくらい先まで?」


「術者によって変わるのだけれども、

 私の場合は任意発動で三年先まで視られるのよね」


(三ねっ!? 思ったより長い!)



 ベリルは途端に不安を抱く。

 何故なら彼はセグルアへの敵意を持つ魔物。

 今は計画と呼べるほどの計画もないが、

 それゆえに三年後の自分が

 どこまで行っているのか読めていない。

 この未来視によるチェックで、

 魔物だと発覚してしまうリスクがあった。


 そしてその焦りを感じ取ったのだろう。

 グラディエは少年の肩にやさしく触れた。



「プライベートの詮索はお嫌い?」


「……はい。あまり」


「結構そういうお客さん多いのよね

 もっと大人のお客さんだけど」


「大人?」


「みんな色々隠し事してるみたいなのよね

 でもいいわ。私慣れっこ」



 ヴェールをはぎ取り、

 小さなベリルの顔に両手を沿える。

 当然彼の焦点は一点に定まり、

 占い師の宝石のような水色の瞳に浮かぶ、

 青い炎の陽炎に吸い込まれた。



「な、にを――?」


「ランダム抽出で吉凶占い

 お目当ての内容が当たれば良いね」


「ッ――!!」



 そのビジョンはベリルにも垣間見えた。

 といってもそのほとんどが

 真っ青な背景に白い輪郭だけを写した静止画で、

 とても内容を識別できるようなものではない。

 だがそれでも、グラディエにとっては十分。



「ふぅっ! 大変、なのよね」


「……どう、でしたか?」


「結論から言うと選ぶべき吉の學部は三つ

 選んではいけない凶の學部もまた三つ」


「そ、それは?」



 躊躇いもなくグラディエは

 自身の魔術で空中に図を示す。


 描かれた『吉』の學部は、

 占星學、魔鉱石學、錬金學。


 そして『凶』の學部は、

 魔法戦術學、エネルギー変換學、

 そして未来視學であった。



「あら残念、うちは凶なのよね」


(わざわざ自分の所を凶と言ったって事は、

 宣伝とかじゃなく事実なんだろうな……)



 吉の中からは自分で選ぶのよね、と

 教授はあくまで生徒の自主性を

 重んじるような言葉を並べて、

 その日のオフィスアワーはお終いだと

 廊下の連中にも伝えるように依頼を出した。

 だがそれと同時に易者は、

 ベリルを呼び止めもう一つ助言を渡す。



「今度の星灯祭、君は『選択』を迫られる」


「……え?」


「そこでは必ず『一人目』を選びなさい――」



 扉から流れ込む空気が怪しい色香を押し流す。



「すみませんその話もうちょっと詳しく」


「占い師が言った意味深な事は

 深堀せずに一旦スルーするのがマナーなのよね」


(知らないマナーだなぁ!)



 半ば無理やり押し出され、

 ベリルは占い師の部屋を後にした。

 されど収穫は十分。

 吉凶により選択肢は狭まった。


 ――占星學、魔鉱石學、錬金學。

 この三つの中から魔物の仔は

 未来の復讐の武器となる一つを選ぶ事になる。



(そうと決まれば、さっそく復習だ)



 どこか晴れやかな表情を浮かべて、

 ベリルはその場から立ち去った。

 対して、部屋に残された妖艶な美女は

 取り外したヴェールを再びつけ直す。



「午前中のうちに、シンジュ君に

 オフィスアワーの話をしておいて正解だった」



 黒布の下に手早く隠すのは、

 未来を操作出来たという達成感の滲む顔。

 そして――



「これで、學園祭前にやれる事は全部、なのよね」



 焦りと恐怖を、

 同時に内包させたような面持ちだった。



 ~~約一ヶ月後~~



 準備の期間は終わった。

 狂気と見紛う熱意を宿す者たちは

 それぞれがそれぞれの最大利益を求めて

 計画の下準備を進めて来た。

 そして――午前九時、中央塔前広場。



「魔力弁、開放まで三秒! 蒸気圧安定!」


「魔導炉、点火準備──いきます!」



 響く学生の掛け声とともに、

 蒸気式魔導機関の中心にある魔導炉が

 淡い青光を放ち、機関全体が低く唸る。

 吹きあがる蒸気は朝の白露と混ざり合い、

 やがて蒸気と魔力が混じり合うと

 独特の脈動音が響き渡らせ

 巨大な機構がゆっくりと動き始めた。



「――よしよし、ちゃんと動いたな生徒(こども)たち」



 その光景を見届けるように、

 否、共に征くように學長が前へ歩み出た。

 白髭を蒸気に揺らし、

 金属装飾のついた外套を翻しながら、

 まるでこの場の誰よりも楽しんでいるような

 笑みを鉄仮面の下に浮かべて。



「中々点火しない魔力炉を半泣きで叩いてる姿を

 見たときは流石にどうしようかと思ったぞ?」



 広場にくすくすと笑いが広がる。


 トラブルを冗句に会場を和ませて、

 學長タトは杖の先で地面を軽く叩いた。

 その瞬間、魔導工学部の学生が最後のレバーを倒し、

 蒸気式魔導機関が完全起動する。


 機関の脈動が学内の魔力回路へ流れ込み、

 地面に埋め込まれた魔導灯が一斉に点灯した。

 光は細い線となってキャンパス中を走り、

 塔、校舎、歩道、噴水──

 すべてが星図のような光のラインで描かれていく。


 生徒たちが息を呑む。


 學長はその光景を見上げ、

 少しだけ肩をすくめて笑った。



「何はともあれ無事定刻通り!

 ――始めようか、『星灯祭』」


【セグルア・マギア教職員名簿】


No.1 アンデ・シン

役職:魔法戦術學部長。通称『暴君(タイラント)』

詳細:へそ出しインナーと分厚いジャケットな桃髪の美女

状態:稼働中


No.2 アクセル・ハンベルク

役職:エネルギー変換學部長。通称『魔力炉人(マナファーネス)』

詳細:全身を機械に改造した白コートに赤い単眼の男

状態:稼働中


No.3 スコリア・レインハード

役職:魔法薬學部長。通称『爆弾魔(コンパウンダー)』

詳細:全身パンクロック風ファッションの男

状態:稼働中


No.4 グラディエ・エルサ

役職:未来視學部長。通称『易者(トリックスター)』

詳細:紫と水色の混じる長髪にフェイスベールをした女

状態:稼働中


No.5 カウレス・テクター

役職:占星學部長。通称『羅針番人(コンパス)』

詳細:深緑のロングコートを纏う銀髪銀髭の紳士

状態:稼働中


No.6 シルト・チャドウィック

役職:魔鉱石學部長。通称『開拓者(アトラス)』

詳細:丸眼鏡にブロンドヘアーの童顔男

状態:稼働中


No.7 ベニトア・アックス

役職:魔導工學部長。通称『機律裁者(エグゼキューター)』

詳細:眼帯をした長い黒髪の女性

状態:稼働中


No.8 ファニー・キンバリー

役職:錬金學部長。通称『微笑む厄災(ミニ・カラミティ)』

詳細:人間観察の好きなベレー帽の少女。年齢不詳

状態:稼働中


No.9 カルロ・トイカン

役職:古典魔法學部長。通称『墓荒らし(ヴァルチャー)』

詳細:天辺の禿げた大魔導士風の老爺

状態:稼働中

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