陸頁目 魔の根底
【學園生徒エントリーシート】
①ベリル・コランダム
概要:セグルア一回生。オラクロン大公国から来た特異体質者
自己PR:友達をいっぱい作って學園生活を豊かにしたい
不記載事項:正体は魔物。名前も経歴も一部偽装。セグルアに対して強い敵意を持つ
②アクア・メルディヌス
概要:セグルア一回生。一度學園を卒業済みの『極位階梯』最年少記録保持者
自己PR:友達をいっぱい作って學園生活を豊かにしたい
不記載事項:ベリルの協力者であり、セグルアに対して強い敵意を持つ
③ラルダ・クラック
概要:セグルア一回生。人界最強エルザディア聖騎士団の現団長
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不記載事項:ベリルらの正体を最初から知っている。二人の野望を阻止する事が目的
④エルジェット・セラフィナイト
概要:セグルア二回生。料理が大好き。愛称はエリー
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不記載事項:※当該項目の閲覧制限中
⑤ピネル・ウィリアムス
概要:セグルア一回生。ベリルと仲良くなった女子
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⑥オリバー・シンジュ
概要:セグルア四回生。學園が誇る留年王
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~~セグルア国内・とある町~~
魔導大国の首都は學園都市アルカナシティ。
其処はモノレールと巨大歯車、
そして無数の精霊たちが舞う魔法とギアの世界。
だが一歩でもその外壁を飛び越えると
文明の様相は大きく変わる。
田園風景。風車の村。牧歌の舞台。
精霊はそれでも多少見受けられるが、
気まぐれな風が運んで来るのは
花の香りであって油の匂いではない。
そして、そんな村の入口には
アーチ状に組まれた石と木のゲートには、
掠れた文字で町の名前と、
観光客向けの宣伝文句が綴られていた。
――勇者と魔法使いが産まれた町、と。
「コランダムさん……飲みすぎですよ」
若い羊飼いが呆れた声で、
昼間っから酒を呷る男に文句を述べる。
しかし無精髭も乱れたその男は
病的な眼球をぎょろりと回して睨むだけ。
碌に返事もせずに背を向けた。
「……はぁ全く、しょうがない人だ」
「アンタもう止めときな。あの人に関わるのは」
「酒場の奥さん。……いやそうもいかないですよ
勇者と魔法使いの父親があんなザマじゃ」
「恰好が付かない、かい?
もういいじゃないの……二人の事は忘れさせて」
「けどっ!」
「勇者様は失踪し、魔法使い様は命を落とした
あの兄妹の物語はそこで終わったんだ」
「……いや、勇者と魔法使いとしての物語なら
魔王を撃墜した時点でとっくに終わってたよ」
「なら尚更もういいじゃないか
セグルアと併合されてから町は豊かになった
もうあの子らの名声が無くともやってける」
「それは、そうですけど……」
その時、天まで届くような声が響く。
最初は雑音かと思ったその声は、
やがて接近するにつれて文章と化す。
怒号と熱狂を帯びた集団の声と――
「「魔物を保護せよ! 魔物を護れ!」」
「またあいつらか……」
「……豊かになると、贅肉も膨らむね」
羊飼いは覚悟を決めた様子で立ち去ると、
警戒心を釣り上げる男衆の輪に混ざる。
そんな彼らの背中を見つめながら、
酒場の女主人は魔法使いの背中を幻視した。
無いものねだりをするような、胡乱な瞳の奥で。
片足が魔導機構の義足の魔法使いの後ろ姿を。
「サフィアちゃんも死に損だよ」
~~最高学府セグルア・マギア~~
「卒業条件の一つ、大術証左『極位階梯』
ベリルさんはこれを目指していますか?」
「まぁ……一応?」
「一応なんて感覚取れるものではありません
舐めないでください。反省するように」
会話の流れで叱られたベリルは
稲妻のような苛立ちを腹の奥に仕舞い込む。
何せ相手はこの魔導大国セグルアの重要人物。
魔導工學部長のベニトア・アックス女史だ。
何故か現在は彼女の研究室に連れ込まれ
紅茶を振る舞われているが、
こういった飲み物は魔物の口には合わない。
「ごめんなさい。こういった飲み物も合わなくて」
「む、そのレベルの特異体質でしたか。失礼
これは私の配慮不足ですね。反省です」
(便利な言い訳貰っといて良かった)
「しかし我らが學園の秘奥を軽視した罰は重い
私の研究室の人間なら反省文を書かせていました」
(面倒臭いなこの先生……)
そんな事を思いながらも
ベリルは室内の様子に気を配る。
厳格な眼帯女教師の秘密基地は荘厳で、
棚には分厚い書籍と歯車の模型。
そして専門外であるはずの薬品が並ぶ。
だが一際目を引くのは壁に並んだ白黒写真。
添えられた太字には『極位階梯の記録保持者』。
当然、そこにはアクアの顔もあった。
「最年少記録保持者。アクア・メルディヌス
彼も今年二度目の一回生ですが、会いましたか?」
「友達です」
「おぉ! それは素晴らしい
世の中には他も記録保持者は居ますが
私の知る彼以上の魔法使いは二人だけです」
「二人?」
「ええ。一人は我らが學園長!
世界で唯一、九つの大術証左を全て収めた傑物!
その叡智と功績を称えて人は彼を
最多記録保持者『タト・ザ・ナイン』と呼ぶ!」
「へぇー」
「反応薄いですね?」
(いやへぇー以外の感想も無いよ!?)
他に浮かぶ感想など
精々がラルダに次ぐ脅威となるかもな、くらい。
連絡橋落橋事故の時に少し魔法を見た程で
他に詳細など分からぬ現状では、
少なくともタト個人に向ける注意も並程度だ。
この學園のほぼ全てが敵なのだから。
「それで、もう一人はどんな人なんです?」
「……! ええ。それが今回君を連れ込んだ理由」
ベニトアは自身の視線も額縁に向けた。
眼帯をした方の横顔からは
その感情を読み取るのも至難の技だったが、
ベリルは僅かに悔しさのような物を感じ取る。
「残る一人の名は、サフィア・コランダム
勇者パーティの魔法使いで、私の学友……」
「勇者パーティの!?」
「学友の方で驚いて欲しかったです
勇者パーティの情報なんて義務教育でしょう?」
(受けてないんだよこっちは!
つくづく噛み合わないなこの人と……!)
「改めて、彼女こそ勇者パーティの最高火力
義足の魔法使い、サフィア
極位階梯の『最短記録』保持者です」
(最短って事は四年未満で習得したのか……
そして……ヴェルデと同じ勇者パーティ!)
今度は明確な敵意を腹の内で煮え滾らせる。
人類を憎む要因の一つ、シェナの死。
その実行犯である戦士ヴェルデも脅威だったが、
彼を差し置いて最高火力と呼ばれるのであれば
最早そこには畏怖の念すら浮かんで来る。
「彼女は魔王が死んだ翌年に命を落としました」
(……故人かい)
「それは今から十八年前のこと
それって丁度……君の産まれた年なんじゃない?」
「え?」
刹那、ベニトアは再び
ベリルの両頬を掴んでその顔を覗き込む。
白黒写真では判別不能な瞳の色を、
己の記憶を頼りにもう一度照合し始めた。
そして唇を震わせながら、彼女は問う。
「答えて。君はあの子のなんなの?」
「いや、知らな――」
直後、研究室の扉をノックする音が響く。
そして乗り込んで来たのは、ギドだった。
予期せぬ人物の登場にベリルは驚愕するが
少年が何かを口走るよりも早く
生き残りの魔物はベニトアに告げる。
「トイカン古典魔法學部長よりお届け物です」
「あぁ、確か臨時講師のアレキサンダーさん?」
「おやアックス魔導工學部長?
こんな少年を自室に連れ込んで一体何を?」
「……つまらない冗句は嫌いです
荷物を置いてさっさと出ていきなさい」
「おや。私は邪魔者でしたかな?」
「ッ……ベリルさんも、もう結構です」
半ば追い出される形で、
魔物たちは研究室を後にした。
彼女以上にベリルは消化不良で、
尚且つ聞きたい事は山程あったが、
何よりもまず、今はギドに愚痴りたい。
「こうなるって分かってて
苗字をコランダムにしたんでしょ?」
「あはは! ここまで直球なのは予想外でしたよ
ま、彼女の知り合いが何か反応を示せば
面白いとは思ってましたけどね」
「じゃあ本当に?」
「ええ。勇者の妹、サフィア・コランダム
彼女が君の母親です」
〜〜同日・講義室〜〜
「どうしたのベリル君? 不機嫌そ〜」
巨大な黒板の聳える四角い部屋の中、
堅苦しい長机において隣に座ったピネルが
ベリルの顔を覗き込む。
いつものようにギドは多くの事を語らずに、
授業が始まるからと姿を消してしまったのだ。
その事が不満で魔法使いの子は頬を含ませていた。
(いっつも自分だけ全部分かったような顔して!)
思い出したかのように
彼は服の中に仕舞うペンダントに手を伸ばす。
ギドがくれた宝石付きのアクセサリー。
これまでのギドの言動、登場タイミングから
その機能は何となくだが読み取れる。
(一人で行動したい時は外そっかな)
「隣、良い?」
「うん、どうぞご自由に」
「あら、今回は逃げないのね?」
聞き覚えのある声に振り向くと
そこには敵対者ラルダが立っていた。
だが気付いた頃には時すでに遅し、
前門の聖騎士団長、後門には無知な同期。
長机の狭間は退路なき袋小路である。
(暴れるより大人しくする方が利口か……)
「そう。それでいいの
今日こそは絶対に逃がさないんだから」
「はいはい……」
顔を近付け威嚇するラルダを
ベリルは気だるげな返事でいなした。
しかしそんな二人の姿を観察したピネルは
少なくとも当人たちにとっては
予想外の質問を投げかける。
「二人って付き合ってるの?」
「「え?」」
「だって聖騎士団長と一般人なのに
なんかすっごく距離感近いからさー」
「違うよ?」
「そそそそそうよ! なんで私が!?
私はただ監っ……えっと、注目してるだけで!
いや注目っていってもそういうのじゃなくて!」
「あー、ハイハイなるほどね?」
「いや本当にそういうのじゃ――」
直後、ベリルの座席がやや強く揺れる。
背後から何者かに蹴られたのだ。
不快な面持ちで振り返ってみるとそこには
彼以上に険しい顔のアクアがいた。
以前アクアはこう言った。
ラルダはお前に好意を抱いている。
だから堕として味方に引き入れろ、と。
その指示を想えば今の問答は落第点。
そう言いたげな顔にベリルは縮こまる。
(関係構築って面倒だなぁー)
~~~~
一回生の講義はほとんどが基礎科目。
正式に學部分けが始まるまでは
知見を広めるための準備期間。
生徒間でよく名前が挙がるのは
未来視學ともう一つ――
「ようこそ。後期必修、魔法戦術學基礎へ」
桃髪の美人、アンデ・シンが
自ら教鞭を取るこの講義は
純粋な彼女の人気も相まって大好評。
魔王軍が滅んで需要が下がるかと
思われた時期もあったが、
人類と武力は切っても切り離せない。
何より――
「この講義で君らは本物の魔法使いになれる」
――魔法は魔法使いの専門分野。
従来の学術機関ではほとんど学ばない。
故にこの講義を受けるかどうかで
魔法に関する理解度は大きく変わるのだ。
(まぁ僕は実戦経験も積んでるし余裕でしょ)
「さて専門卒の子には既知の話かもだが、
この世には魔法の優劣を決める三要素がある」
(あ、知らない……)
絶望するベリルを置き去りに授業は進む。
魔法の優劣を決める三要素は何か。
この問いをシンは眠そうなアクアに当てた。
「バシッと答えてくれよ、周回勢」
「……魔力総量、魔力出力、魔力効率です」
「ちっせぇ声でサンキュー! そして正解!
因みにそれを水で例えた有名な解説があるね?
じゃあ前の席! 聖騎士団長行ってみよう」
「はい。タンクと蛇口の大きさ、
そして水道の質、ですね?」
「流石、完璧だね!」
魔力を水と例えた時、
魔力総量とは水を溜めるタンク。
魔力出力とは水を出す蛇口の大きさ。
魔力効率とは水を流す水道の質。
例えば圧倒的に巨大なタンクがあっても、
蛇口が小さければ一度に出せる水は少ない。
例えば蛇口が大砲のような大きさであっても、
水道が穴だらけでは水は分散し無駄が多い。
例えば水道が百パーセントの水を流せても、
そもそものタンクが小さければすぐに枯れる。
魔法とはこのような三要素によって
威力や精度が確定し、魔法使いの能力も決まる。
全てが一級品であれば文句はないが、
才能の世界ではそういう訳にも行かない。
故に自分の三要素がどの程度かを把握して
適性にあった能力を伸ばすべきだという結論で
ラルダは回答を締め括った。
「うん『適性』ね。では魔力総量は最高だけど
魔力出力が悲惨な子はどんな適性があるのかな?」
「はい。その場合なら持続力が活きる役職です
後方支援の回復役などがベストでしょう」
「うんうん! 素晴らしい、模範解答だ」
自信満々に答えたラルダに
シンは満面の笑みで頷き、指で合格を示す。
それに満足したようにラルダもまた胸を張るが
彼女の笑みは次の言葉で消え失せた。
「じゃ、今答えてくれた二人は
もうこの授業受ける意味ないから帰っていいよ!」
「ええ!?」
教授の冷たい対応にラルダは思わず立ち上がる。
だが驚く彼女とは対照的に、
アクアは分かっていたと言わんばかりに
既にまとめていた荷物を持って退席してしまう。
だが考えてみればそれも当然。
二人は人界における有名人であり
特にラルダに至っては戦闘のスペシャリスト。
今更基礎を学ぶ方が意味不明だ。
「私は非効率が嫌いでね
聖騎士団の戦闘記録をくれたら単位もあげる
公開可能な奴でいいからさ」
(ちゃ、ちゃっかりしてるわね……)
「実践的な魔法戦術學は二回生からな
例年學部を超えた戦闘大会もあるけど……
魔法戦術學部はいつでも君を待ってるよ」
(ぐっ、完全に帰る流れか……)
残る理由の無くなったラルダは
ベリルの方に視線を落とすと、
やがて口惜しそうに退出していった。
だが下唇を柔く噛む彼女の内心とは裏腹に
周囲の学生たちは「流石だな」と
天才たちの優遇措置に舌を巻くのだった。
「すごいねベリル君。やっぱり二人は別格だ~」
(実戦なら殴り合えるのに……ってのは言い訳か)
二人の退席から芽生えた不満を
今の実力と捉えてベリルは抑え込む。
自分が遥か格下である、という劣等感を。
そして謙虚に講義を聞くべきと自らを律して
少年は座る姿勢を正すのだった。
と同時に、コートを翻し教授は言い放つ。
「さて、外れ値も退出した事だし
この講義の主題である『一般論』を語ろうか!」
直後、白いチョークを取り出す彼女の
輪郭がぐにゃりと曲がった。
否、生徒たちが見たそれは既に残像。
魔法戦術學のトップは目にも留まらぬ速度で
先の魔法における三要素のまとめを黒板に記す。
そして再び彼女の姿が形を取り戻した時には、
壁面を覆うほど巨大な黒板に、
まるで機械で打ち込んだかのように正確な
図式と文章が刻み込まれていた。
「あーあ、またチョーク使い切っちゃった
……さてと! では生徒諸君に問題!」
桃髪の美女が教壇を叩く。
「先程出て行った天才たちに
君らが追いつくためには何を鍛える!?」
投げかけれた問いと強打の鳴動は
威圧的なまでに巨大な黒板に押し込まれて
直接生徒たちの脳を震わせた。
腹の内から溢れ出るのは興味と高揚。
著名な同期に追いつくための手段。
選択肢は黒板に描かれた三要素。
生徒たちの脳がフル回転し始める。
(やっぱ魔力効率? それとも魔力総量?)
(出力って鍛えられるのかな?)
(わかったぞ! 答えは全部だな!?)
「うんうん。君たちの頭脳が
懸命に稼働している音が聞こえてくるよ」
手袋の中の指を突き立てシンは頷く。
そして彼女はその細い指先を
自身の鼻先に近づけた。
「けどこの三要素は鍛えらんないよ!」
「「え?」」
「この三要素で天才に勝とうとか
馬鹿らしいからやめな」
「「えぇ……!?」」
「うんうん! やる気の削がれた音がする!」
(なんで嬉しそうなんだよ……)
人並みに乗せられていたベリルもまた
他の生徒同様に落胆の表情を見せていた。
だが、そんな彼の顔色は瞬時に変わる。
シンが教壇の下から取り出した、
ある物品を目撃して。
「残念ながら三要素は大部分が先天的なものだ
少なくとも幼少期の環境や栄養素でほぼ決まり、
成人後に鍛えられる余白はとても少ない」
(あれって、確か……)
「が、唯一努力量次第で挽回可能なものがある
これはそれを鍛えて、計測するための道具
ピンと来ている人はいるのかな?」
教壇に置かれたのは白い羽根。
ちょっとばかり大きめの鳥が落としたと思しき
白くて軽くて美しい羽根だった。
そしてその羽根の一部には、
魔力で編み込まれた紐が結ばれていた。
「古典的な手法だがこれが一番効率が良い」
「……!」
「君らが鍛えるべきは『魔力操作』技術だ」
瞬間、ベリルはギドの顔を思い浮かべる。
何故なら今専門家から提示されたその要素は
彼が最初に示した戦術面の指導内容だったから。
元魔王軍四天王にして魔力操作技術のプロとされる
セルスを指導役に添えてまで叩きこまれた技術。
ギドの意図を、魔物の仔は数年越しに理解した。
「同じ水量でもただの雫と水の刃とでは
威力も得られる効果もまるで違う!
ここの練度次第で才能の優劣なんて覆る!」
(……ちゃんと、強くしてくれてたんだ)
「では一人一式ずつ配っていくので
まずのはこの羽根を魔力操作だけで浮かしてみろ
これが習得出来たらその場で単位もやるぞ」
(良かった。ちゃんと僕も同格だった)
目の前に置かれた羽根付きの紐に、
ベリルはそっと手を伸ばす。
そこから先の事は語るまでもないほどの
とんとん拍子。
与えらえた課題の動きを
ベリルは何の苦もなく成功して見せる。
「……まじ?」
最初こそ多少の関心を抱く程度だったシンも
次第に驚きの表情が隠せなくなっていた。
やがて周囲から他の成功者が消えていくと、
気付けばベリルの周りに人集りが出来ていた。
「君、何年間この訓練をして来たの?」
「五歳からだから……十年以上、です
保護者の方針で」
「ぷッ、何と戦わせる気だよ!」
アンデ・シンはそう吐き捨てると
ベリルの名を覚えて指先でチェックを記す。
「合格。魔法戦術學部は君の所属を待ってるぜ」
「……ありがとうございました」
承諾するでもなく拒絶するでもなく、
どこか照れくさそうにベリルは
視線を外してそう頷く。
そして他の生徒たちを置いて彼もまた
不要な基礎学問の講義を後にするのだった。
「――へぇ。良いね、彼」
そんなベリルの背中をピネルは
妖しく目を細めて見送った。
白羽根で隠した口元に
小悪魔的な笑みを浮かべながら。
~~~~
「なんで二人一緒なの?」
建物を出るとすぐの木陰のベンチには
明らかにベリルを待っている
同志アクアと敵対者ラルダがいた。
心底不服そうなアクアの顔を見るに
撒く事が叶わなかったといったところだろう。
「早かったわね? 講義は?」
「技能テストで単位貰えた。二人とほぼ同じ」
「流石ね」
良き好敵手を認める、というよりは
どこか身内の功績に鼻を伸ばすような声色で
ラルダはベリルの特例処置に胸を張る。
それがどれほど立場を逸脱している事なのか
本人だけが自覚出来ていなかった。
なので、彼女はさも当然かのように
友人間でするような問いをする。
「二人はさー? どの學部入るか決めたー?」
「「ラルダが選ばなかったところー」」
「……矢鱈目ったら避けるわね
そっちが悪さしない限りは何もしないわよ」
既に学業に就いてから半年。
この間ベリルたちは何もしなかった。
それが警戒心の軟化を促したのだろう。
アクアはそう結論付けると
ならばここは、と思い切って口を開く。
「俺は魔導工學部だ」
「アクア!?」
「ふーん。その反応を見る感じマジね?
アンタはどうするのベリル?」
「……決めてない」
アクアが事実を言った以上、
ベリル側も嘘を吐く理由はない。
どの道すぐに判明する事ではあるし、
何よりラルダを堕とすという目的を想えば
ここは絶対に本当の判断を言うべきだ。
がしかし、事実として彼はどの學部にも
未だそこまで強い興味を抱いていなかった。
「ねえアクア。おすすめとかないの?」
「そうよ。學園二週目の知見寄越しなさい」
「はぁ? なんで俺が……
名前が気になる學部とかで良いだろもう」
「あー、じゃあ古典魔法学」
「私は未来視學」
「やめとけ。古典魔法學はマジの時代遅れだし
未来視學は名前だけカッコつけた数学科だ」
「「名前で選べって言ったのお前じゃん」」
「悪かった。じゃあ……そうだ、學部長で選べ」
「「そんなに詳しくないなー」」
「くじでも引いてろお前ら」
この半年間何をしていたんだ、と
愚痴を漏らしながらアクアは立ち上がる。
が、すぐに立ち去る事はせずに
彼は最後に一つだけアドバイスを残した。
「もうじき『學園祭』のシーズンが始まる
學部希望の提出期限はその後だ」
まだ慌てなくても良い。
そう続く言葉が聞こえたような気がした。
不意に見せたその優しさにベリルは微笑し、
同時にラルダもまた同じように
微笑んでいる姿が目に留まる。
(……なんてことのない瞬間だけど)
建物の隙間を通る気持ちのいい突風が
ベリルの顔を透き通る。
(楽しい、な――)
~~~~
「目標地点到達。これより襲撃を開始します」
~~~~
「ッ――!?」
三者が知覚したのはほぼ同時。
魔導大国セグルア首都アルカナシティ。
その上空を爆音で飛翔する四つの飛翔体。
それらが同時に、學園の各地に飛来した。
【セグルア・マギア教職員名簿】
No.1 アンデ・シン
役職:魔法戦術學部長。通称『暴君』
詳細:へそ出しインナーと分厚いジャケットな桃髪の美女
状態:稼働中
No.2 アクセル・ハンベルク
役職:エネルギー変換學部長。通称『魔力炉人』
詳細:全身を機械に改造した白コートに赤い単眼の男
状態:稼働中
No.3 スコリア・レインハード
役職:魔法薬學部長。通称『爆弾魔』
詳細:全身パンクロック風ファッションの男
状態:稼働中
No.4 グラディエ・エルサ
役職:未来視學部長。通称『易者』
詳細:紫と水色の混じる長髪にフェイスベールをした女
状態:稼働中
No.5 カウレス・テクター
役職:占星學部長。通称『羅針番人』
詳細:深緑のロングコートを纏う銀髪銀髭の紳士
状態:稼働中
No.6 シルト・チャドウィック
役職:魔鉱石學部長。通称『開拓者』
詳細:丸眼鏡にブロンドヘアーの童顔男
状態:稼働中
No.7 ベニトア・アックス
役職:魔導工學部長。通称『機律裁者』
詳細:眼帯をした長い黒髪の女性
状態:稼働中
No.8 ファニー・キンバリー
役職:錬金學部長。通称『微笑む厄災』
詳細:人間観察の好きなベレー帽の少女。年齢不詳
状態:稼働中
No.9 カルロ・トイカン
役職:古典魔法學部長。通称『墓荒らし』
詳細:天辺の禿げた大魔導士風の老爺
状態:稼働中




