伍頁目 暗躍は水面下にて/一年目前期學會
【學園生徒エントリーシート】
①ベリル・コランダム
概要:セグルア一回生。オラクロン大公国から来た特異体質者
自己PR:友達をいっぱい作って學園生活を豊かにしたい
不記載事項:正体は魔物。名前も経歴も一部偽装。セグルアに対して強い敵意を持つ
②アクア・メルディヌス
概要:セグルア一回生。一度學園を卒業済みの『極位階梯』最年少記録保持者
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不記載事項:ベリルの協力者であり、セグルアに対して強い敵意を持つ
③ラルダ・クラック
概要:セグルア一回生。人界最強エルザディア聖騎士団の現団長
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不記載事項:ベリルらの正体を最初から知っている。二人の野望を阻止する事が目的
④エルジェット・セラフィナイト
概要:セグルア二回生。料理が大好き。愛称はエリー
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不記載事項:※当該項目の閲覧制限中
⑤ピネル・ウィリアムス
概要:セグルア一回生。ベリルと仲良くなった女子
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⑥オリバー・シンジュ
概要:セグルア四回生。學園が誇る留年王
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〜〜同時刻・學園内カフェテリア〜〜
最高学府は、否、魔導大国セグルアは
魔法と歯車とが融合した世界。
その情景は學園の一角にある憩いの場も
蒸気と魔力で満たしていた。
学生たちの憩いの場『ブラス・ケトル』。
室内中央の大きな魔導炉で
徹底的に温度管理された巨大ホールは
夏は涼しく、冬は暖かい。
漏れ出た魔力と蒸気がふわりと消えて、
注がれた珈琲の匂いと優しく混じる。
そんなカフェテリアの更に一角。
魔力で浮遊する回転照明の下。
自動清掃ゴーレムも滅多に入らない
魔法結界付きの『静寂席』を陣取って
二人の聖騎士は秘密の会議を行っていた。
「學園側からの協力要請?」
口に運びかけたコーヒーカップを止めて、
若き聖騎士レオナルドは眉を顰める。
それに対して答えたのは
同じく若き聖騎士アイリス。
彼女は手にした書面を淡々と読み上げた。
「先日の連絡橋爆破事件についてなのです」
「へぇ……事件、ねぇ?」
「書面には協力と書かれていますが
どちらかというと調査許可みたいなのです
學園は學園で調べるから――」
「聖騎士団は聖騎士団で探ってみてくれ、ってか
非常に柔軟な対応ですこと」
「多分私たちは囮なのです」
いやでも目立つ聖騎士が捜査に協力している。
欲しいのはその一文が有する力だろう。
犯人の眼が聖騎士に向けば上々。
萎縮してこれ以上の犯行をしないなら
それもまた良し、といった所だ。
若いとはいえ優秀な聖騎士である二人は
短い文面から即座にそれを読み取り
僅かな言葉だけで正確に共有する。
そして、同じ結論に到達した。
「調査という名目で、動きやすくなるな」
「なのです。私たちの任務を進めましょう」
とある魔物の監視を密かに決めて
ほぼ独断専行で動く聖騎士団長ラルダとは違い、
二人は正式に教皇の命令で
この學園に学生として潜入した。
与えられた任務は漠然としたものが一つ。
「――『セグルアに巣食う闇を暴け』か」
今から四年前。一人の聖職者が失踪した。
それはまだ修行中の身の未熟者で、
これからの人生が期待される若輩者だった。
幼少期からの敬虔な信者であるその者は
ある時、己の知見を広げるためにと
最高学府セグルア・マギアへの入学を決め
たゆまぬ努力の末に見事學園の門戸を叩く。
がしかし、それから何年たっても
彼はエルザディアに戻って来る事は無かった。
誰にも、何も告げずに遺さずに。
「……特段珍しい話じゃない
新しい世界に傾倒し、そっちに進む奴はいる」
「でも、その人に関しては異常、なのです」
敬虔なその聖職者は、信徒は
エルザディアに尽くすという熱意があった。
何より彼には神政法国に遺した母親がいる。
病気がちで足腰の悪い、老いた母が。
聖騎士団にも家族にも何も告げず
消えてしまうというのは流石に不自然。
整備の不十分な大陸東部の話ならまだしも、
魔王軍壊滅後から一気に文明の進んだ
セグルア、エルザディア間での話なら
尚更不自然というものだった。
西側には既に鉄道や飛行船があるのだから。
「野盗に襲われた、森で遭難した……
その線はやはり薄いと思うのです」
「ああ、セグルア内に絞って調査するぞ」
「国内? それとも……學内?」
問われたレオナルドは
騎士団が独自に調べた報告書を思い出す。
それは魔導大国セグルアでの年間行方不明者数。
ベリルがモルガナと暮らしていた頃から
この国は行方不明者や自殺者が多く、
その頃と比べると国の発展に伴い
母数自体は減っていた。が、しかし――
「二十代だけに絞れば、むしろ増えてる
俺は學園に何かあると踏んでいる」
「學園全部が敵、だと最悪なのです」
「流石にそこまではねぇと信じたいが、
……この案件は俺たち二人でやりきるぞ」
静寂席は予約制。
店員代わりの精霊が壁を叩いて退席を促す。
入れ替わりに入る小さな清掃ゴーレムを、
レオナルドは跨いで越えて
アイリスは優しい笑顔で手を振った。
やがて二人はそれぞれの講義に向かうが、
ふとアイリスは、立ち去る同僚の背中を見た。
――『この案件は俺たち二人でやりきるぞ』。
その言葉が意味する所を彼女もまた
正しく理解していたからである。
(學園長タトの革命が今から十と三年前……
ちょうど『クラック兇変』のあった年なのです)
聖騎士団にも多くの死傷者が出た人災。
元勇者パーティの戦士ヴェルデによる凶行。
その忌まわしい記憶とセグルアの政権交代に
何か関連があるかは、分からない。
ただ偶然同年に起きただけともとれるし、
因果があったと邪推も出来る。
そして仮に後者が真であった場合、
ヴェルデ・クラックの実の娘、
ラルダ・クラックにどんな影響を与えるかは
最早誰にも予想がつかない。
つまりレオナルドは先程こう提案したのだ。
ラルダには學園生活を楽しんで貰おうと。
歳相応の青春を愉しんで貰って、
不純な気苦労は自分たちだけで処理しようと。
(そこは同意。でも、私は『歌花騎士』
君が心労を抱えるのだって嫌なのです)
立ち去る同僚の背中を、
アイリスは見えなくなるまで見届けた。
友愛を僅かに超えた感情を以て。
――がしかし、そんな彼女と誰かがぶつかる。
弾みでアイリスは尻もちをつき、
その誰かが慌てて優しく手を差し伸べた。
「失礼。お怪我はありませんか、レディ?」
「だ、大丈夫なのです。こちらこそよそ見を」
「おや? 貴方はもしや?」
「あぁ、聖騎士のアイリスなのです
でも今はただの一学生アイリスなのです」
「そうでしたか。では私は臨時講師の――」
逆光を背に、男は優しく名を名乗る。
白い長髪を後ろで束ね、
赤と緑のオッドアイを光らせて、
いつもの張り付けたような妖しい笑みで。
「――ギドです。以後お見知りおきを」
~~オラクロン大公国~~
「よろしかったのですか? 陛下?」
暖かな日差しの差し込む窓の光を
長椅子の背もたれで遮る大公に向けて、
腹心ガネットが心底訝しげにそう呟いた。
何に関しての質問か言葉足らずではあったが
自覚があるのかオスカーはその無礼を咎めず
丁寧な口調で説明してやった。
「本人の強い希望だ
元より、聖騎士団長相手に小僧二人では
頼りないと思っていた所だ」
聖騎士団長ラルダのセグルア・マギア入学。
このビッグニュースが公国に届かない訳がない。
なのに何故かベリルもアクアも撤退を
選択しない所を見るに、
二人が彼女からの逃避よりも優先している
何かがある事は明白だった。
大公としてそれを援護すべきか阻止すべきか、
見極めるためにも今は手札が足りない。
万が一にもラルダとの死闘が再演されれば
今度こそオラクロンにも火の粉が掛かるだろう。
「奴ならそうなる前に手を打つだろう」
「……しかし暗躍の危険が」
ガネットがそこまで言い切るのは珍しい。
故に大公オスカーもまた驚きの感情を
瞳に映すという珍しい対応を見せた。
そしていつもの謎の液体が入った容器を
数度回して落ち着きを取り戻すと、
彼は鼻を鳴らしてまた宣う。
「問題ない。奴らの頭目はあくまで小僧だ」
「……! ベリル殿、ですか?」
「ああ。ギドがどんな腹積もりであれ
それは全て小僧を中心に計画されている事だ
裏を返せば、そこさえ見失わなければ
我々が出し抜かれる事はない」
「お考えあっての事ならば――」
そう言って下がるガネットを
オスカーは無言で見送った。
だがそんな二人の様子を窓の外から、
更に観察する魔物の影が一つ。
肉体を変形させて盗聴していたのは
元四天王セルス・シャトヤンシー。
そして彼女が愛用の人間体に戻ると、
その周りにはヘリオとペツも控えていた。
「大方、予想通りの内容じゃったな」
「ええ。何故ギド殿の出張を許可したのか
これで当方たちにも合点がいきました」
「セルス様の盗み聞きに気付いてて
演技してるって事はないんすか?」
「うぅむ。無いとは言わんが……
そんな事を考えだしたらキリがない
今は本音の会話と捉えておこうぞ」
「同感ですな。いや~しかしっ!
我が君に加えてギド殿まで居なくなるとは」
「解放されたようで嬉しいのぉ!」
「あの……寂しくなると当方は言いたくて……」
とかく大公の思惑を理解した魔物たちは
人目を避けるようにその場から離れる。
陽光の遮られた薄暗い外廊下を三匹で並び、
鼻歌でも歌い出しそうな空気で帰路に就く。
が、そんな中でふとヘリオが声を発した。
「けど大公ってあのアクアってガキの事
そんなに信頼してたんすねー?」
「ん? どういう事じゃ?」
「いやホラ。大将は常に見張ってるぅー的な
発言だったっすよね、さっきの?
ギドっさんの事はちゃんと警戒してたし
じゃあそれってつまり……」
「ッ――! ……監視役がいる?」
「そうそれっす! で、それがアクア……
いやでもあいつ聖騎士団長の入学を
大公に報告しなかったっすね?
ハハッ、早速信頼裏切られてやんの!」
「いやヘリオ殿っ……それは恐らく……」
何かに気付いたペツはセルスに向いた。
状況を察したのは彼女も同じだったようで、
小さく「あぁ、間違いない」と呟くと
暗い影の中から天の光を見上げて吐き捨てる。
同じ空の下にいるはずのベリルを想って。
「セグルア・マギアに大公の手の者がおるな」
〜〜講義室〜〜
「へぇーベリル君ってオラクロンの人なんだぁ!」
赤髪ツインテールの華奢な少女が
ベリルにグッと肩を寄せて笑顔で言った。
一回生、ピネル・ウィリアムス。
近付く事で否が応でも香る匂いは良く、
ジャケットが揺れる度に花の香りが
周囲の生物の警戒心を解くようだ。
人間の第一印象は匂いで決まる、
などという話もあるように、
彼女が与えてくる印象はどれも
ベリルに敵意の種すら芽吹かせなかった。
それにそもそもの話――
「……グイグイ来られるの苦手?」
「別に。友達は作っとけって言われてるし」
「やったぁ! 友達ゲット」
アクアの言う友達作りが
手早く済みそうだという安堵感が今は勝る。
同学年で同じ科目を取っている人間。
拒絶も警戒も、ベリル側がする理由は無い。
そんな事を考えていると今度は
教壇から講師キンバリーの号令がかかる。
「はーい止めー! ペア学習終了!」
鳴り響く柏手と共に
機械仕掛けの小型ゴーレムが課題を集める。
小さく丸々としたフォルムの生命体に
女性陣から「可愛いー」という声が仄かに響く。
だが魔導工学に多少の心得があるベリルは
むしろそのテクノロジーに興味深々だった。
「ふぅー!
難しい課題だったけどベリル君のお陰で――」
(なんだあの魔導機構ーーッ!?いや使われてるパーツはどれも大したものじゃない……けどだからこそなんであれで動けてるんだ!?内部パーツを圧縮して、魔力炉はそのあたりに埋め込んだとして……いやでも受け取ったらお辞儀までしてるし手も振り返せてる!どんな制御命令!?)
「ベリルく~ん?」
「っ!? ごめん、何か言った?」
「ゴーレムに興味あり?」
「うん……どうやって動いてるんだろ?」
「それなら、丁度この後やるみたいだよ」
ピネルに促されてベリルは
再び壇上のキンバリーに目を向けた。
彼女は集めた課題を流し見しては
満足そうな笑顔で数度頷き胸を張る。
「いいねっ、いいね~!
今年の新入生は魔術式への理解が高い!
術式の制御文は魔導工学にも必須の技能だ」
が、と付け加えると
彼女は親指の先を噛んで千切る。
そしてこの場にいない誰かを煽るように
八重歯の光る悪い笑顔で宣言した。
「けど無駄だー! 魔導工学ではここから
制御式を魔法陣に変換して組み込む必要がある!
悪いが君らの数十分はぶっちゃけ無駄だァー!」
((じゃあなんでやらせた?))
「正直ね、魔導工学なんてものは発展途上よ?
基本は私らの後追い×大量生産が理念なんだから
品質を求めるのならむしろこっち――」
掲げた流血の指を、魔女は鳴らした。
かと思えば次の瞬間には、
講義室内のゴーレムが一斉に爆ぜる。
しかしその破片は規則正しく渦を巻き、
天井より差し込む光の方へと集約した。
「最高学府で留年する奴はッ!
大体が将来のビジョンが曖昧な連中だ!」
やがて機材は魔女の制御下で形を成し、
一羽の巨大な鳥の姿へと変貌する。
無論それだけでは動かないただの模型。
しかし直後、天の光が光球に変わる。
「なので最初にアドバイスしておこう
目標がない奴はまずコレを目指せ!」
光球が鼓動を鳴らす。
そのリズムが大気を揺さぶり鼓膜を鳴らす。
既に歴戦のベリルですら目が離せない。
眼前に光る奇蹟は生命誕生の息吹。
アクアの『神託機械』と並ぶ魔術の極北。
「終極術式詠唱破棄、宿れ『胎動鋳型』!」
光は鳥の模型に入り込むと、
その生命の息吹が機械の体で躍動する。
是なるは精霊という新たな生命の創造と受肉。
神の御業にも等しい人知の果て。
九つの學部において最も神秘の強い世界。
「改めて私は錬金學部長ファニー・キンバリー
私が教えるのは――精霊と魂の大魔術だ!」
~~一年目前期・最終月~~
一年の初動は瞬く間。
ベリルたち新入生にとっては全てが新しく、
気付けばあっと言う間に半年が過ぎる。
未だ學部分けもない段階の授業は
ほとんどが平凡で退屈なものだっただろう。
そしてそれは教える側もまた同じ。
自己の研究以外は同じ事の繰り返しで
毎日があっと言う間の連続。
気付けば――前期の総括を行う会議の時期。
「聞きましたよキンバリー
また授業で他人の専門を煽ったって!」
「おやベニトア!
學部長も板について来たじゃないか!」
年齢不詳錬金術師に話かけたのは
左目に眼帯をした黒髪ロングな長身の女性。
名をベニトア・アックス。魔導工學部長だ。
「シンさんもなんとか言ってあげてください!
他の教授からも苦情が来てるんですから!」
「ファニー。メッ、だよ」
「うわー怒られたーすっごい反省したー」
「ちゃんと怒ってくださいよシンさんっ!」
「この時期はいつもの事だよ
みんな優秀な生徒は自分とこ入れたいから」
気怠げにそう答えたのは
腹を露出した薄着に分厚いコートを羽織る、
短い桃髪の美しいボーイッシュな美女。
名をアンデ・シン。二人と同じく學部長。
否、彼女だけではない。
会議室の扉を開けるとそこには
残る他の學部長が全員集結していた。
「遅かったのよね。アンちゃん、キンバちゃん」
「ハッハー! ベニトアに足引っ張られたか?」
「足を引かれたままでは動けないですハイ」
「誰か黙らせろ。天然の域を超えているのである」
「蒸気を噴かないでください。暑苦しい」
「フンっ! 若者が重役出勤とはな!」
魔導大国セグルア。
タトの革命が起きてからその情勢は大きく変わる。
全ては最高学府セグルア・マギアが中心となり、
首都アルカナシティは學園都市と化した。
当然、そこのトップ九名は国の最重要人物。
一癖も二癖もある化け物揃い。
『全員、揃ったな』
円卓を囲う九人の頭上で、
音に合わせて紫色の照明が明滅を起こす。
声の主は學園長タト。
これなるは一年に二度の会議。
ベリルが入学してから一年目の
前期『學會』が始まった。
~~~~
學部長は全部で以下の九人。
「で、今日の議論はなにすんのー?」
桃髪のへそ出しボーイッシュ美人。
魔法戦術學部長アンデ・シン。
冠する異名は『暴君』。
「この時期だ。主題は新入生の學部分け準備である」
全身を機械に改造した白コートに赤い単眼の男。
エネルギー変換學部長アクセル・ハンベルク。
冠する異名は『魔力炉人』。
「ハッハー! 今年はラルダが欲しいな!」
尖った黒髪にパンクロックな黒服の男。
魔法薬學部長スコリア・レインハード。
冠する異名は『爆弾魔』。
「ならアピールしておくのよね」
紫と水色の混じった長髪とフェイスベールの女。
未来視學部長グラディエ・エルザ。
冠する異名は『易者』。
「それに今年は他にも面白そうな子が多い」
深緑のロングコートを纏う銀髪銀髭の紳士。
占星學部長カウレス・テクター。
冠する異名は『羅針番人』。
「アクア君なんて魔導工學部に行きますよハイ」
丸眼鏡にブロンドヘアーの童顔男。
魔鉱石部長シルト・チャドウィック。
冠する異名は『開拓者』。
「いや……彼はそもそもが魔導工学出身ですので」
眼帯をした長い黒髪の女性。
魔導工學部長ベニトア・アックス。
冠する異名は『機律裁者』。
「私としては学期始めの事件について語りたいがね」
小柄なベレー帽の年齢不詳少女。
錬金學部長ファニー・キンバリー。
冠する異名は『微笑む厄災』。
「フンっ! あの小賢しい爆破テロか!」
天辺の禿げた大魔導士風の老爺。
古典魔法學部長カルロ・トイカン。
冠する異名は『墓荒らし』。
以上が最高学府、九名の學部長。
そして会議の流れを作るように
テクターが口を開いた。
「学期始めといえば書庫の『禁書』盗難事件
これも未だ犯人が見つかっておりません」
「盗まれたのは……おいおい結構あるな!
ハッハー! 図書館の警備員はクビだな!」
「警備員のクビより先に犯人捜しを
爆破テロと同一犯なら凶暴ですハイ」
「……我らが學園長のご意見を伺いたいな」
キンバリーのその問いに、
音声のみ参加のタトはしばし沈黙した。
やがて誰もが繋がってないのかと疑い出した頃、
大魔法使いは意外な発言のみを残す。
『俺は関わらん。お前たちに全て任せる』
この時、學部長たちの反応は九者九様。
意外そうに驚く者。無責任ではと訝しむ者。
或いは何かを知っているのか口を閉ざす者に、
逆に手の中で隠した口に笑みを浮かべる者。
誰が何を考えていたのか、
その全容を把握している者など居ないだろう。
特にそれが顕著だったのは新人學部長ベニトア。
彼女のみが最もフラットな状態で
この会議に臨んでいた。
(學園長は一体何をお考えに……?)
「ふむ。では取り敢えず、要警戒、ですかな?」
「テクターに賛同である。他に何かあるものは?」
「では私からもう一つ宜しいかな?」
「フフ、キンバちゃんは土産話一杯なのよね」
茶化すような声もほどほどに処理し、
サスペンダーを伸ばしてキンバは立ち上がる。
そして取り出した報告書の前でコホンと一回、
咳ばらいをした後にその文面を読み上げた。
「えー、最重要監視対象だった前政権関係者
中でも危険人物リストにいた四名が失踪したそうだ」
「「絶対犯人そいつらじゃん?」」
~~一年目後期~~
かくして長期休暇も明けて、
一年目後期のカリキュラムが開始する。
だが各事件に対しての學會で決まった対応は
四名の失踪者に注意する、で終了した。
それが心底不安で不安で仕方なかったので
ベニトアは顔色悪く廊下を進む。
(はぁー……正気なのかしら?
四人の危険人物相手に専守防衛だなんて)
不満は頬を膨らませ、人相を歪める。
高いヒールの靴でツカツカと進む姿は
さぞや周囲を威圧していた事だろう。
がしかし、当の本人はそれに気付かず、
眼帯の下にある光景を思い浮かべていた。
それは青い長髪をした、魔女の後ろ姿。
(……まだ貴女が生きてれば、どれほど)
「うわ!?」
気付けば彼女は小柄な少年を撥ねていた。
黒い短髪の、童顔の少年を。
その拍子に彼の学生証が落ちたので、
教育者として彼女は心配の声と共にそれを拾う。
が――
「え?」
そこにあった名前に、ベニトアは硬直した。
そして少年の顔をもう一度よく見ると、
彼の両頬を掴んで確認する。
その深山幽谷の如き深緑の瞳を。
「君の、苗字……」
「あぁまたか……勇者ルベウスとは無関け――」
「――サフィアの子?」
「え?」
ベリルの声が静かに響く。
ベニトアは硬直したその顔と、
眼帯の奥に写る魔女の顔とを重ね合わせた。
同じ深緑の瞳を持つ、その魔法使いの顔と。
~~~~
同時刻。セグルアの地下貧民街。
その中を進む一人の男の姿があった。
彼は古びた布切れで体を隠していたが、
腰には不相応な美しい銀の短剣を携えていた。
当然、そんなものを貧民街で見せれば
たちまち浮浪者が集まり彼を囲う。
そして悪意を以て男の肩に手を乗せた、
次の瞬間――
「ッ!?」
浮浪者の腕が赤い液体で切り裂かれた。
傷口からは血が溢れ出し止まらない。
浮浪者が倒れ、仲間が駆け寄るが、
男は気にも留めずに立ち去った。
そして、彼はとある廃墟の戸を開ける。
「遅いぞ、元魔導特務隊隊長」
「こりゃあ失礼、元憲兵総監閣下」
その空間には、男を含めて四人いた。
【セグルア・マギア教職員名簿】
No.1 アンデ・シン
役職:魔法戦術學部長。通称『暴君』
詳細:へそ出しインナーと分厚いジャケットな桃髪の美女
状態:稼働中
No.2 アクセル・ハンベルク
役職:エネルギー変換學部長。通称『魔力炉人』
詳細:全身を機械に改造した白コートに赤い単眼の男
状態:稼働中
No.3 スコリア・レインハード
役職:魔法薬學部長。通称『爆弾魔』
詳細:全身パンクロック風ファッションの男
状態:稼働中
No.4 グラディエ・エルサ
役職:未来視學部長。通称『易者』
詳細:紫と水色の混じる長髪にフェイスベールをした女
状態:稼働中
No.5 カウレス・テクター
役職:占星學部長。通称『羅針番人』
詳細:深緑のロングコートを纏う銀髪銀髭の紳士
状態:稼働中
No.6 シルト・チャドウィック
役職:魔鉱石學部長。通称『開拓者』
詳細:丸眼鏡にブロンドヘアーの童顔男
状態:稼働中
No.7 ベニトア・アックス
役職:魔導工學部長。通称『機律裁者』
詳細:眼帯をした長い黒髪の女性
状態:稼働中
No.8 ファニー・キンバリー
役職:錬金學部長。通称『微笑む厄災』
詳細:人間観察の好きなベレー帽の少女。年齢不詳
状態:稼働中
No.9 カルロ・トイカン
役職:古典魔法學部長。通称『墓荒らし』
詳細:天辺の禿げた大魔導士風の老爺
状態:稼働中




